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世界の終わりのコンビニ  作者: 田中
4/10

第4話「24時間営業の嘘」

「24時間営業」という看板は、嘘だと思う。

確かに店は開いている。でも、深夜2時から4時までの2時間は、時間が止まっている気がする。

客が来ない。電話も鳴らない。車も通らない。

世界が、僕とこのコンビニだけを残して、一時停止している。

午前3時。今日も例外ではなかった。

僕は床のモップがけをしながら、壁の時計を見た。針が、ほとんど動いていない気がする。

そこに、扉が開いた。

チャイムが鳴る。久しぶりに聞いた気がした。

入ってきたのは、高校生くらいの女の子だった。制服、肩まである黒髪、少し眠そうな目。

「いらっしゃいませ」

女の子は軽く会釈して、店内を歩き始めた。でも、何も取らない。ただ、棚の間を歩いているだけ。

五分が経過した。

彼女は、まだ歩いている。

「あの……何かお探しですか?」

「ああ、いえ」女の子は振り返った。「歩いてるだけです」

「歩いてる?」

「はい。ここ、24時間営業ですよね」

「ええ、まあ」

「だったら、24時間いてもいいですよね」

理屈としては正しい。でも、何かおかしい。

「今、何時ですか」女の子が聞いた。

「3時5分です」

「ああ、やっぱり」彼女は頷いた。「この時間、一番長いんです」

「長い?」

「はい。午前3時から4時までの1時間って、他の1時間の3倍くらい長く感じません?」

僕は、思わず頷いた。

「感じます」

「ですよね」女の子は微笑んだ。「私、それが嫌で。だから、この時間に起きてるんです」

「どういうことですか?」

「眠ると、時間をスキップしちゃうじゃないですか。8時間寝たら、8時間が消える。でも起きていれば、その8時間を生きられる」

女の子は、また歩き始めた。

「私、時間が足りないんです」

「受験生、ですか?」

「いえ」彼女は首を横に振った。「余命です」

僕は、モップを持つ手を止めた。

「あと半年って言われました。だから、寝るのがもったいなくて」

「それで、夜中に……」

「はい。24時間営業のコンビニを、順番に回ってるんです。歩いていると、時間が過ぎるのを実感できるから」

女の子は、チョコレートの棚の前で立ち止まった。

「でも最近、時間が長く感じるようになったんです。特に深夜3時。まるで、世界が私のために時間を引き伸ばしてくれてるみたいに」

「それは……いいことじゃないですか」

「そうですね」彼女は笑った。「得した気分です」

彼女は、一つのチョコレートを手に取った。

「これ、ください」

レジを打つ。百二十円。

「ありがとうございます」

女の子は店を出ようとして、振り返った。

「あの、次はいつシフトですか?」

「明後日の夜です」

「そうですか。また来ます」

扉が閉まる。

僕は、時計を見た。

3時12分。

彼女がいた時間は、7分間。

でも、もっと長かった気がする。

明後日の深夜3時。

女の子は、約束通り来た。

「こんばんは」

「こんばんは」

彼女は、また店内を歩き始めた。今度は、少しゆっくりと。

「今日は、3時が短く感じました」

「そうですか」

「はい。嬉しいことがあったんです」

「何ですか?」

「医者が、余命を間違えてたって」

僕は、息を呑んだ。

「実は、あと一年あるそうです」

「それは……!」

「ですよね。倍に増えた」女の子は笑った。「ラッキーです」

彼女は、また同じチョコレートを買った。

それから、彼女は週に2回、僕のシフトの日に来るようになった。

いつも午前3時。

いつも、店内を歩く。

いつも、同じチョコレートを買う。

そして、ある日。

「今日で最後です」

女の子が言った。

「え?」

「引っ越すんです。治療のために、東京に」

「そうですか……」

「ここに来ると、時間が長く感じられて。たくさん生きた気分になれました。ありがとうございます」

彼女は、いつものチョコレートを買った。

でも、店を出る前に振り返った。

「あの、この店って本当に24時間営業ですか?」

「はい」

「嘘だと思います」女の子は笑った。「だって、午前3時はもっと長いから。ここは、25時間営業ですよ」

扉が閉まった。

僕は、時計を見た。

3時58分。

女の子がいた時間は、15分。

でも、確かに。

1時間くらいあった気がする。

その日から、僕は午前3時が嫌いじゃなくなった。

時間が長く感じるのは、悪いことじゃない。

むしろ、得している。

壁の時計を見る。

針が、いつもよりゆっくり動いている気がする。

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