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第三話 バーリ王国――闇への誘い:破軍神斧のダファン

 それは――()()()()()()を経験するほんのしばらく前の話。

 二人の魔人族の少年らが王都郊外の林の中で殴り合っていた。

 ――いや、それはどちらかと言うと、【戦鬼族(オゥグル)】の少年が、【呪霊族(エルフ)】の少年を一方的に殴っている様子であり――、


「……ぐ、……い、たい……なあ」

「ち……」


 殴られた呪霊族の少年は殴られた顔を腫らして、その地面に横たわった。

 そして、自分を見下ろす戦鬼族の少年に心底困った表情で言ったのである。


「……はあ、本当に君は困った人だね? ダファン……」

「く……、テメエのその何もかも悟っているような顔が……、前から気に入らなかったんだ……」

「そう……」


 少年は静かに笑ってから答える。


「その……、言いようのない表情……。本当は僕がするべきなんだけど……」

「テメエ……なにを言って……」

「……まあ、これは僕が招いたことではあるけど……」


 ――()()()()()()()をしようとしたんだから……。


「……だから、これは当然なんだろう……」


 その言葉とその表情を見て――戦鬼族の少年は眉を寄せて呪霊族の少年に問う。


「……エルンスト?」

「……ははははは、本当に可怪しいね……その顔……」


 ――ダファン……、君は()()がわかっていない。


 そしてその少年――、ラウル・ファジャ司教の息子、そしてバーリ王国の貴族階級に生まれた少年エルンストは笑う。

 ――この直後に起こる【幻魔災害】によって……、この少年は――、


 ――王都の人々を救うべく【幻魔】に立ち向かった果てに――、()()()()()()()()



 ◆◇◆



 空に光が指し始めて、朝日が顔を出そうとしていたその時――、

 マリアネラ王女を追跡し、しかしながら部外者に撃退されて敗走した騎兵隊隊長は憎々しげに眉を寄せていた。

 ――あれは、あまりに想定外であった。


「一体何だったんだ……、我ら騎兵団に鞘に納めた長剣一つで抗って、……支援魔法付きの我が騎兵を退けさせる……とは」


 一瞬、脳裏に天魔族(?)という思考が浮かぶが……。


「天魔族は女神の集団……、男などいないハズ……」


 この世界の魔人族たち――、その全てが少年魔王の存在を知っているわけではない。

 情報機器が一部の地域にしか広まっていないが故に、それほど詳しい話は伝わってはいない。

 ――ただ、彼らとて【先代魔王が死去された】とこは知っていた、――ただ……。

 天魔族は女神である――、その()()が【男性としての魔王】を初めから否定していたのである。


「アレほどの手練を我らは知らない……。おそらくは外国からの旅人……か」


 騎兵隊隊長は舌打ちして、今後の襲撃計画を思考する。

 このまま魔王城がある()()()へと踏み入れさせるわけには行かない。


 ――と、不意に馬を休ませている騎兵の一人に矢が飛んできて、その腕に突き刺さった。


「……な?! 敵襲……?!」


 そう絶句する騎兵隊隊長の耳に……、戦鬼族特有の咆哮が聞こえてきた。


「おおおおおおおおおお!!」


 周囲の森から、魔獣皮の鎧を身に着けた武装兵が複数走り出てくる。

 それらは、休憩中で気が緩んでいた彼らをまたたくまに蹴散らしてゆく。


「……こ、これは……まさか……」


 その魔獣皮の鎧には、一様に見たことのある紋章があった。


「――鬼哭党(きこくとう)……だと?!」


 それは――、バーリ王国の大都市ガノンを本拠とする、()()()独立治安維持組織。

 現代社会で言うところの、治安維持活動をメインに活動して非合法な集金をしている【マフィア】に近い非合法暴力組織である。

 元はかつての【幻魔災害】において、国家の庇護を受けられずに見放された【反政府魔人族】が集まって出来た組織であるが……、今のところは国家転覆のための活動は行わずに、王国騎士団の手が及ばない領域の、その治安維持を非合法な暴力をもって行っている。

 その思想は次第に市民の間に広がりつつあり、ここ最近はバーリ王国側もその対策として強制捜査に乗り出そうとしていた時期でもあった。


 ――そして、その最中にクーデターは起こった。


 そうなれば、普通は反政府組織である【鬼哭党(きこくとう)】がそれを裏で扇動した――、そう考えるのが普通である。

 しかし――、この現状を見れば、彼ら【鬼哭党(きこくとう)】と【クーデター主導側】が対立している……、そう考えるしかないとも思える。


「おい……テメエ……。兵を奔らせずここに居るってことは……、マリアネラを殺した後ってことか?」


 ――不意に、騎兵隊隊長の耳に若い戦鬼族の男の声が聞こえてくる。

 戦場の真ん中を歩み来る大柄の戦鬼族――、その顔に怒りを讃えた男が騎兵隊隊長を睨んでいた。


「……う、ぐ……」


 その身にまとう圧倒的な闘気に、騎兵隊隊長はうめき声をあげることしか出来ない。


「答えろ!! マリアネラを……、殺したのか?!」

「いや、……わたしは……」


 要領を得ない騎兵隊隊長に怒りを表す戦鬼族の男。

 不意に――、そんな彼に刃を向けて襲いかかってくる騎兵がいた。


 ズバ!!


 その戦鬼族のその手に持った【長柄大戦斧(バルディッシュ)】――、代表的なポールアックスの斧部を大きくした武器――、が横薙ぎに一閃されて、その騎兵は強固な白銀鎧ごと胴を両断されてしまった。

 その光景に恐怖を覚えて後退る騎兵隊隊長。そんな彼に向かってその戦鬼族――、【鬼哭党(きこくとう)】頭領である【破軍神斧のダファン】は冷酷に言い放つ。


「……答えないなら殺す……。テメエらが勝手なことをした以上……、もはや()()()()()()()()()()()する意味もない!!」

「く……あ……」


 その怒りに満ちたダファンを見て、騎兵隊隊長は恐怖に震えながらも思考する。


(……く、いや大丈夫だ……。この私には切り札がある……)


 不意に騎兵隊隊長がその懐から、棒状の結晶体を取り出す。――それを見てダファンは吠えた。


「魔法で俺に抵抗するか?! ……馬鹿が!!」

「うるさい!! 国民でない非人類どもが!!」


 その言葉にダファンは――その怒りをさらに爆発させながら咆哮した。


「――そういう風に俺等を導いたのはテメエらだろうが!! ……クソ貴族ども!!」


 ――次の瞬間、結晶体が破砕されてその力が解放される。

 その騎兵隊隊長に力が宿る。


【system ALAYA:――竜神加護、簡易適用開始。テンプレートより<剣士>を選択……】


「……?!」


 ダファンはその騎兵隊隊長のおかしさを、その優れた戦闘感覚で理解する。


【system ALAYA:――クラス<剣士>Lv10。クラスボーナス:STR+23/DEX+23/AGI+23/MAG+5/INT+6/WIL+8/CON+23――、スキル:負傷耐性、高位戦闘・刀剣……】


「はははははははは!!」


 そして得た力に高揚感を得て笑う騎兵隊隊長は、その剣を手に人間離れした速度で地を奔る。――その剣が高速で振り抜かれた。

 それをダファンは、その長年の戦いで培った戦闘感覚で回避した。


「……ち……、この動き……何だ?!」


 それは、常識から外れた動きだった。

 そして、それが振るう剣から受ける威圧感も、あまりに圧倒的であった。

 ダファンは静かに思考した。


(……この時期にクーデターとか、まさかこの得体のしれない力を手に入れたから……か?)


 そうする間にも、騎兵隊隊長はその剣を縦横無尽にふるってダファンを斬り殺そうとした。


(……ち……しかたねえ!!)


 高速で襲い来る刃を避けながらも、ダファンはその体内の闘気を練り……、そして高らかに唱える。


「……月は満ち……、夜の帳は降りる……。しかし……、終わらぬ夜はなく……、その光は大地を照らす……」


 その瞬間、ダファンのその身と――そして【長柄大戦斧(バルディッシュ)】に魔力が宿った。


 ――【魔装練身(コンバットアーツ)】……、――【光臨(Radiant Blade)】!!


 その戦斧が振り抜かれる――、その刃を追うように光の奔流が流れる。

 ――そして、その刃は――強化された騎兵隊隊長すら反応できない速度でその身に到達して……、


「へ! ……が?!」


 その騎兵隊隊長の胴を、上下に割断したのである。


「……ふう……」


 ダファンは額に汗を流して、その死体を見下ろす。

 そして――、


「……マリアネラ……。クソ……、頼む……」


 ――生きていてくれ!!


 そして、その戦鬼族は――、昇ろうとする太陽を睨んだ。

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