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第一話 バーリ王国――闇への誘い:マリアネラ王女

 その日、わたくし(こと)メイド兵・リィフは旅支度をしておりました。


 ――わたくしはベリアル姫族に生まれたメイド兵。

 見た目的なお話をいたしますと、茶色の長い髪を頭の後ろでまとめ……、茶色の目、頭に小さな二本角、先が槍状になった典型的悪魔尻尾を持つ、魔人族でもスタンダードとみなされている姿をしております。無論、基本として()()()()()を持っております。

 そのようなわたくしに与えられた使命は、一つ、魔王様――、総司様の旅における各種お世話をすること、二つ、もし魔王様に危機が迫ったらその危機の排除を行うこと、三つ、それこそが一番重要……。そうして、わたくしは魔王様の旅に同行する上で、オラージュ総長様より正式に賜ったわたくし専用の【個人向け高位神造武具】――、刀身に()()()()()()()()()魔剣を、わたくし専用の異空間へと収納いたしました。もしもの時、それは総司様の身分を証明する切り札にもなる――そんな大切な武具なのです。

 ――と、不意に個人所有の【無線電話機】が音を立て始めました。それの相手はたった一人しかいません。


「あ……、姉さま……。何?」

【ちょっと! 聞いたぞ?! リィフ……、あんたかなり重大で危険そうな仕事を賜ったって……】

「あ、ああ……、もしかしてヴァロナ様辺りから聞いたのですか?」


 そのわたくしの言葉にその相手はすこしだけ言い淀んで……、


【……危険なんでしょ? 本当に自分から……】

「……姉さま……、わたくしはもう昔、姉さまに守られていた弱い娘ではないです」

【……】


 わたくしは決意の表情で【無線電話機】の相手に答えた。


「……あの日、姉さまから離れて、オラージュ総長様の下で働くと決めた時から……。わたくしは一人で立つ決意をしております」

【……そうね……】

「だから心配は無用です! それより……、今では()()()()()()()()()()より強くなっていますから……」


 ――わたくしは姉さまの方が心配なのです。


 その言葉に、一瞬声をつまらせた相手は、笑い声でわたくしに答えました。


【それこそ心配いらないよ……。私の仕事は戦うことじゃないし……】


 ――うん、分かったよリィフ。


【もう心配はしない……。リィフ……良い旅を……、そしてブライラスに寄る用事があったら……】


 ――()()()()……お願いね♡


 その言葉に苦笑いしてからわたくしは答えました。


「姉さま……、それが本当に言いたかったことなのでは?」

【ちょ、違うに……】


 ――【メレフ・ベリアル】様? ()()()()()()が迫っております。


 そういった声が、【無線電話機】の向こうから聞こえてきた。

 わたくしは笑って言った。


「じゃあ……忙しそうだから切るね……、メレフ姉さま……」

【……。うん……】


 そして【無線電話機】は音を出さなくなる。

 わたくしは頷いて……、そして立ち上がったのです。


 ――そうしてわたくしのお仕事は始まったのです。



 ◆◇◆



 その時、わたくしは総司様の横でサイドカーに乗りながら、キルケ様の言葉を思い出しておりました。


「現在大陸中に広まりつつある異教の広がり……、それを精査せずに放置した場合、――世界は、おそらく滅びへと向かうでしょう……」


 要するに――、魔人族の中で静かに【別の神の技術】が根を張り始めているのです。

 それを放置すれば、ただ信仰が変わるだけでは済まない。

 世界そのものの均衡が崩れかねない――そうキルケ様は仰いました。


 物事は、その情報を広く知らしめればいい――という話でもないのです。

 言ってしまえば……【どちらの言葉を信用する?】という魔人族側の思想の話なのです。

 偏向しないように強制しようとしても、それ自体が反発心を生み出して、その思想へと走る可能性も当然ある。


 彼ら自体が危険性を正しく認識する必要があるのです。無論、だからとて危機に陥っている魔人族を放置するわけにもいかない。

 だからこそ――、総司様は密かに彼らの生活の場へと入り込んで、彼らの考え方を正しく理解したうえで説得する必要があるのです。


 ――と、目前に街道沿いの宿が見えてきた。

 夕方になりつつあるので、総司様はそこで宿を取ることにしたようだった。


「いらっしゃい……」


 一階が酒場になっているその宿に入ると、ヒゲを蓄えた魔人族のおじさんが出迎えてくれた。

 わたくしが彼と交渉して、総司様を異国のある王族の三男であり諸国外遊の旅の最中だと告げる。

 すると、そのおじさんは少し困った表情になって言った。


「……それは……、この先は行かないほうが良いね」


 その言葉に総司様が聞き返す。


「それは? 何か理由があるのですか?」

「大有りだよ……、この先……、バーリ王国の大都市ガノンがあるが……、その先の王都でクーデターがあったらしくてね……」


 そのおじさんの言葉に総司様は驚きの表情を作った。


「……クーデター?! 国王が降ろされた?!」

「そう、今は国王軍の……なんとかって言う王国軍司令官が王として立っているらしい」

「……」


 総司様は静かに俯いて考え始める。

 おじさんはわたくしが書いた書類を受け取って、わたくしたちを部屋に案内した。


「……失礼」


 客室がある二階へ上がる途中で外套のフードを深く被った女性?がわたくしたちとすれ違った。

 総司様は一瞬そちらを見た後に、わたくしとともにおじさんの後をついて行ったのです。


「一部屋……なんだね」


 総司様が困った表情でそう呟く。わたくしは「当然」と頷いて答えた。


「二部屋だと、総司様のお世話が出来ないじゃないですか」


 総司様は、自信満々に答えるわたくしを、いつまでも苦笑いして見つめていました。



 ◆◇◆



 その外套の女性は――、バーリ王国国王の娘【マリアネラ王女】は、果実水を飲みながら静かに思考する。


「この先の()()はかなり過酷……、でも……、私はその先に向かわないといけない……」


 ――()()()()に……、我が国の現状を伝えなければ!!


 ――我が国は……、バーリ王国は、

 ――滅ぶ……。

 

 しかし、当然、それを――、その行動を許さない者たちもいる。

 その宿に向かって――【探査魔法】を頼りに軍馬を走らせる騎兵団がいた。


 ――その白銀の鎧には――、

 ――()()()()()()を示す紋章があった。

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