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陽はまた昇る~次章前日譚 後編~

 その時、スクリタは【最悪】としか考えられなかった。


「きききき……ひひひひひ!!」

「う、く……」


 子竜に戻った弐式機竜がスクリタを守るように、そのバツナンダの嘲笑を遮るように飛び、スクリタはただ唇を噛んだ。


「あんた……」

「驚いた?! 驚いたわよねぇ?! きはははははははは!!」


 なにが起こったのか、その時のスクリタは理解が及ばなかった。

 いや、無論、目の前にわかる事象として、バツナンダにおける明らかな変化である、左腕の【目】に原因の根源があるのはわかるのだが……。


「油断したねぇ? 私が餌を獲得しにゆく? 今の私には……、貴方たち雑魚天魔族相手ならば必要ないのよ?」

「雑魚だと?!」


 その言葉に眉を寄せて怒りを見せるスクリタ。バツナンダはその睨みを軽く受け止めて答える。


「そうよ? アンタのあの【金鱗装殻】ってのだけは少し厄介だったから。太極定理を空打ちさせて、無駄遣いさせたけど……」

「ち……」


 そのためにこそバツナンダはあの時【餌を喰いにいくフリ】をしたのだろう。今のスクリタはそれを理解できた。

 バツナンダは見下ろすかのような視線でスクリタを笑う。


「ひひひ……、姉さまがたに……、ナンダさまがたに言われていたのよ? もし貴方を相手にするなら……、【金鱗装殻の使用可能回数は一日一回である】……その事を上手く利用しなさいって……」

「そう、……か」


 苦しげに呻くようにバツナンダを睨むスクリタ。その様子に調子に乗ったバツナンダは更に続ける。


「そして……、もう気がついていると思うけど……、今まで私は手加減していたのよ? 今のこの私の力……、貴方ならば多少感じるでしょ?」

「その……、妙な【目】の力?」


 そのスクリタの答えにバツナンダは嘲笑を深くする。


「ええ……、そう……だとも言えるし、違うとも言える……」

「はあ? なにそれ……」


 バツナンダは一瞬嘲笑を消して逡巡する。そしてすぐに嘲笑を深くして言葉を続けた。


「天魔族の誰かが、覗き見でもしてる可能性があるしぃ……。そうそう詳しい話はできないけど……いいわ……」

「あん?」


 早く言え……、とはスクリタは言葉に出して言わない。言ったらそこでコイツの()鹿()()()()は終わってしまう。


「この腕に宿る【目】は……貴方自身……」

「はあ?! フザケたこと……」

「母竜に産み落とされた……、貴方が天魔族側に行ったことで()()()貴方の同位体……」

「……」


 その答えにスクリタは黙り込む。


「貴方も分かっている通り……、生誕の竜性には()()()()()()()()()能がある……」

「……でも、それを使いこなせるのは私だけよね? アンタたちじゃ……」


 そのスクリタの言葉に……、バツナンダは嘲笑うかのように口の端を上げて笑った。


「ええそう……、でも()()()()()()()()()()()()()()()の、その中核としては機能する……。あらかじめ機能させる仕組みを用意すれば……」

「あらかじめ機能させる仕組み?」


 それは何だと疑問に思う。目前のバツナンダは、確かに妙な強化を受けている様子だ……、しかしその力は妙なほど()()()()()()()()()()()()()()ように感じた。

 そう……、補助術師であるスクリタは気がついていた。目前に立つバツナンダのその身に宿る強い力――、その()()()()()()()()()()()()()()()。すなわち……。


(この強化は……、バツナンダの力は……、術式とかのバフ効果じゃない?! 魔人族が扱う魔法でもないし……、どちらでもない【強化効果】?!)


 わからない……、それは確かに【歪んだ生誕】によって手に入れた力なのだろう。でも――その正体が見えてこない。

 まさしく調子に乗ったバツナンダは、静かにそのスクリタの心のなかの疑問に、答えらしきものを語る。


「ヒント……」


 そう言ってバツナンダは、胸のその衣服の奥から何かを取り出す。それはあの【極天のワシュキ】が常に首にかけている竜を模した首飾り。

 それをバツナンダは静かにその手に握って、軽く祈りを捧げる仕草をした。


「……? ……?!」


 その行動の意味を反芻し……。そして何かに至りかけるスクリタ。その瞬間、バツナンダの周囲にうねる刃列が高速で動いた。


「くうう!!」


 急いで回避運動を行うが間に合わない。刃列が――ナイフの群れが、致命的な速度と力でスクリタを襲った。


「ああああああ……!!」


 死を理解し……、


「うおおおおおおお!!」


 ――しかし、シオンのその叫びと救いが間に合った。


 ――戦術術式【氷結防壁】――。


 【一度だけの絶対防御壁】――マオの【氷結防壁】が間に合う。それは砕けてアイスダストをその場に生み出す。

 そしてスクリタは、そのままその横を駆け抜ける【アサルトくまちゃん】のその騎手であるシオンの腕によって、かっ攫われたのである。


「シオン……マオ……!!」


 嬉しそうに【アサルトくまちゃん】の背に座り直しながらスクリタは言う。そして――


「……何があったの? あの()()()で倒せないって……」


 マオが静かにスクリタに問いかける。スクリタは一瞬の逡巡の後に、頭の中で素早く整理した事態を二人に話した。


「……あの腕の【目】が【歪んだ生誕】……。そしてあのバツナンダの能力強化と……、そしてスクリタの太極定理……、その終末法陣をすり抜けた何らかの能力……か」

「はあ?! わけわかんねえよ?! なにそれチート?!」


 マオは冷静にそう語り、シオンは目を怒らせてそう答える。マオはシオンを見つめながら話す。


「第一に……、終末法陣は【防御という概念そのものを停止】させて機能不全にしてから全力打撃を打ち込むための前提機能……、それをすり抜けたのならば、その効果は【防御という概念】を内包しない効果によるもの……だね」


 その言葉にスクリタも頷く。


「色々考えられるけど……、特に術式的な効果の発動は感じなかった……」


 その二人のやり取りに……、頭上に【?】が無数に舞い散っているシオンは答える。


「……はあ? 難しいこと言ってないで結論お願いします」

「「……」」


 スクリタとマオは、すこじジト目でシオンを見る。小さくため息をついてからマオが答えを言った。


「……防御以外の効果……。うん……、多分だけど……、()()()()辺りかな?」

「防御をせずに受け止めてからの……自己再生?!」


 それを理解してから……、スクリタはそれの力がどれほどか改めて理解する。


「……アイツ……、身体が塵に変わってた……。一度、確かに()()()()わ……」


 そのスクリタの言葉を聞いて……、マオは真剣な表情で頷く。

 その後マオが口に出した言葉に、――シオンもスクリタも絶句した。


「……ならば……、()()()()()()……、あるいは()()()()()……だね」


 ――それを術式とかそういった形式ではなく……。


 そのマオの言葉にスクリタが言葉を続けた。


「……あの馬鹿(バツナンダ)は、()()()()として持っている……と?」


 ――それはまさしく()()()


 その至った答えにシオンは怒りをあらわす。


「んなフザケた能力……、マジかよ?! フザケンなよ!!」

「マジだし……フザケてもいないんだろうね……」


 マオはシオンの悪態にそう返した。

 ――と、不意に余裕のあるバツナンダの声が三人に向かって飛ぶ。


「どう? 作戦会議は終了?」

「「「……」」」


 既にバツナンダはスクリタたちに勝てる気でいるらしい。だから、嘲笑を浮かべながら待っている。


「……まだ待っててね♡」


 そう言ってスクリタが笑顔をバツナンダに向けた。

 それを一瞬真面目な表情で見るバツナンダ。しかし、嘲笑が戻って「ふん」と鼻を鳴らした。


「二人とも……耳……」


 スクリタが何やら二人に耳打ちする。すると……。


「え? それマジ?! ならば?」

「まあシオンは……、体内時間むっちゃ正確だよね?」


 シオンがそう言ってマオが答える。その会話にジト目でスクリタは言う。


「はあ?! シオンって体内時間正確で遅刻しまくってんの? それって……」

「うぐ……、お布団から逃れ難いことってあるんだからね……」

「んなことは皆一緒でしょうが……」


 そう言って少し睨み合うスクリタとシオンを、マオは苦笑いで止める。


「……はいはい、二人とも喧嘩しない……。で? シオン……」


 一瞬笑ってから真剣な表情に変わるマオにシオンは頷いて言う。


「……多分、ギリギリ……いける……」

「途中から二人になるけど?」


 シオンの言葉に対するマオの返事に……、スクリタが答えを返す。


「……シオンの面倒は私に任せて……」

「わかった……頼んだよ……」


 そうして三人は互いを……、決意の籠もった目で見つめ合った。

 その三人に向かってバツナンダが嘲笑の籠もった言葉を放つ。


「悪あがきの仕方は相談したぁ?」

「ええ……、そうだね……」


 そして……、三人はバツナンダを睨んで言った。


「……悪あがき……させてもらうわ……」


 ――三人の……その夜の()()()()()が幕を開けた。



 ◆◇◆



「行くぞ! マオ! スクリタ!!」


 シオンの声が夜闇の森に響き渡る。

 りゅうちゃんが再び【アサルトくまちゃん】の頭に乗ってその口に炎を宿す。さらに――、


「全力……行くよ!!」


 マオが叫んでその戦術術師としての切り札を出す。


 ――高位戦術術式【氷獄結界】――。


 その身の魔力放射が大きくなり、それに連動するようにバツナンダの周囲に幾何学模様の術式が展開されてゆく。直後に地面から無数の氷柱が突き出し、バツナンダを取り囲んで氷柱から凄まじい冷気を放出し始めた。それはまさしく――、氷という概念……【凍結=停止】を付与された運動機能妨害のための【氷の牢獄】。


「おもしろーい♡」


 バツナンダは寒さに身を震わせながらも、その魔力を放出し始める。

 その身体機能が跳ね上がって、もはやかの【ルーチェ・イブリース】にすら匹敵する機能を示し始める。


(――【竜神加護(クラス)殺戮者(マーダラー)一般階位(ノービスランク)=Lv25。各能力補正機能開始――。固有特性(スキル)――、負傷耐性、高位戦闘・ナイフ、肉体記録・セーブ&ロード機能。―極限武技(リミットブレイク)機能準備終了――)


「きひひひひひひひひひひひひひひ……!!」


 その嘲笑がスクリタらへと届き……、その身が妨害に構わず高速で奔った。


「く!!」


 その姿に……苦しげに呻くマオ。

 それを笑いながらバツナンダはそのナイフの群れを――、刃列を振るって氷柱を複数同時に打ち砕いた。


「ひはははははははは……!!」


 その嘲笑とともにマオの【氷獄結界】が弱くなってゆく。


「……ち」


 しかし、マオは意志の籠もった目でバツナンダを睨みながら、再び無数の氷柱を生み出した。


「行くよ! スクリタ!!」

「うん!!」


 シオンの声とスクリタの声が重なる。


 ――補助術式【攻性倍化】――。


 そしてさらに……。


「コッチも全力!!」


 そうシオンが叫んで、補助術式をスクリタのものにあわせて連鎖起動する。


 ――補助術式【超高速適応】――。


 そうして【アサルトくまちゃん】の全機能が数倍に跳ね上がった。


「突っ込めくまちゃん!!」


 ズドン!!


 そして【アサルトくまちゃん】とバツナンダは激突する。

 刃列が縦横無尽に敵を刻もうと振るわれて、それを凄まじいスピードで【アサルトくまちゃん】の薙ぎ払いが撃ち落とし続ける。


「くう!!」


 しかし、それでも【アサルトくまちゃん】の方が圧されている。シオンの頬にそしてスクリタらに血の筋がついてゆく。


「ひははははははははは……!!」


 嘲笑とともにバツナンダが一歩前に出る。――それに圧されるように【アサルトくまちゃん】が目に見えて後退した。


「うぐ……」


 シオンの手にする光球の光が明滅する。

 【アサルトくまちゃん】は一応独立した存在ではあるが、戦闘時のブーストを使用しているとその傷の一部がシオンにも返ってくる。

 本来ならば、【アサルトくまちゃん】自体のタフさで気にもならないが……。


「シオン?!」

「……ちく、しょう……。一撃が重い……」


 スクリタの心配の声に、苦しみながらシオンは呟いた。


「ち……。りゅうちゃん!! 援護!!」

「あぎゃあああ!!」


 その子竜の口から、信じられないほど巨大な炎が放たれる。

 それに対し流石のバツナンダも顔を歪めて飛び退いた。


「きひひ……、まあこの程度なら別にセーブ、ロードも必要ないけど……」

「はあ? なにそれ……、それがアンタの不死の正体って?」


 自分のつぶやきに対するスクリタの答えに、嘲笑を込めた笑顔で返して言う。


「まあね……。といってもあくまで死ぬ瞬間にその全ステータスをセーブして、安全な場所にロードする機能だから。死なないと機能しないのよねぇ……」


 ――だから、あなた達相手ではもう必要ないわね?


 彼女の指先が軽く振られると、四方八方から刃列が襲いかかる。


「防ぐよ!」


 シオンがアサルトくまちゃんの爪を襲い来る刃列へと振るう。さらに――、


 ――戦術術式【力学防壁】――。


 スクリタの術式もあわせて、――そうして刃列の群れから三人を守り抜いた。


「りゅうちゃん、ブレス!」


 更にその手を振ろうとするバツナンダに向けて炎が飛ぶ。

 それを避けながら――、そして、嘲笑に満ちた笑顔を三人へと向けた。


「やるやる……w 褒めてあげるわぁw すごいすごいw」


 子どもを褒めるようにそう言うバツナンダ。それを三人は静かに睨んだ。


「でも!!」


 バツナンダがその手を今までより大きく振るう。

 それに反応するように複数の刃列がまとまって三人を襲った。


「……これは!!」


 マオは叫ぶ。


「耐えられない……!!」


 スクリタが苦渋の表情を浮かべる。

 そして――、


「じゃあ……!!」


 シオンが決意の表情で――、その言葉を紡ぐ。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)!!」


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列20番、シオン・プルソン】


固有権能行使(リミットブレイク)!!」


【system LOGOS:――固有権能・機神光臨|(Birth of the Machine God)】


「守れ!! ジャイアント・くまちゃんEX……!!」


 その瞬間、刃列の群れが巨大な光球に跳ね返されて吹き飛んだ。


「……なに?!」


 流石のバツナンダもその状況に驚きの表情をする。


 ブシュ――!!


 その背中のランドセル状の機械から生えた六本の煙突が、漆黒の魔力粒子を外へと吹き出す。

 全身を白銀の鋼鉄で装甲化し、その両前足にはもはや大剣を並べたかのような巨大な爪を持っている。

 ――それは、全長十八メートルの巨大熊型戦闘機械。


 その頭の上にちょこんと乗った状態でシオンとスクリタは、バツナンダを見下ろして言った。


「対巨大幻魔戦用重装戦機・GくまちゃんEX(ジャイアントくまちゃんイーエックス)! ……参上!!」


 そして……、最後の決戦が始まる。



 ◆◇◆



「なにこれ?! 大きすぎでしょw」


 バツナンダは嘲笑を浮かべながらも、その声には珍しく驚きが混じっていた。


「これが私たちの切り札よ! 行くよ、シオン!」

「おう! ヤッたれGくまちゃんEX!」


 二人の声に呼応し、GくまちゃんEXのどデカい鈎爪が横薙ぎに振るわれる。


「く!!」


 その圧力は暴風を纏いながらバツナンダを襲った。


 ドン!!


 その衝撃波が空を裂いて、……そして地面すら砕いてゆく。

 その背後の煙突の群れから漆黒の魔力粒子が吐き出されて、空間すら圧倒するほどのパワーをその鈎爪に与えた。


「ふふふ……面白いじゃない♡」


 それを何とか避けたバツナンダは静かに笑う。


「でも大きすぎるって弱点があるんじゃない?」


 バツナンダは両腕を広げ、百本以上のナイフでできた刃列を――その身の全方位に展開した。


「たとえば……」


 そのまま手を振って刃列をシオンらに向かって放つ。


「……く!!」


 ――戦術術式【力学防壁】――。

 ――さらに、戦術術式【力学防壁】――。


 スクリタの術式と、それに合わせたシオンの術式が重なって、何とか刃列を防ぎきった。


「くそ……、二重じゃないと……」

「防げない……か」


 苦しげに呻くスクリタとシオン。

 それを見て嘲笑を深くするバツナンダ。


「あと……、動きも遅いよね?」


 再びバツナンダが手を振って、更に二本の刃列がスクリタらめがけて襲いかかった。


「……スクリタ!!」

「うん!!」


 ――戦術術式【力学防壁】――。

 ――こっちは、補助術式【超加速】――。


 その瞬間、GくまちゃんEXが信じられない速度で大地を駆けた。

 スクリタが防御術式で刃列をそらしつつ、シオンが対巨大ロボ用の輔助術式でGくまちゃんEXを加速させていた。


「く?!」


 いきなり襲い来るGくまちゃんEXに反応が遅れるバツナンダ。


「薙ぎ払え!!」


 ズドン!!


 それは的確にバツナンダを砕いて……。


「く……はあ……」


 その姿が別の場所にそのままの姿で現れた。

 ……その表情が憎々しげに歪む。

 そんなバツナンダにスクリタは笑顔を向けた。


「それ……、私たちには必要ないんだっけ?」


 それに対してバツナンダは、怖気が立つほどの憎悪を込めた顔でスクリタに言った。


「……もう、使わないわ……、絶対に……」


 プライドを傷つけられたバツナンダは、激しい怒りと共にそう言った。


「もういいわ……」

「あん?」


 さらなるバツナンダの呟きに、スクリタとシオンが眉を寄せる。


「もうどうでもいい……」

「……」


 その両手を振るって刃列を呼ぶ。


「小手先のやり方は辞めた……」


 そしてその集めた刃列に向けて――、その機能を発揮した。


極限武技(リミットブレイク)――、死獄舞刃|(Blade of Slaughter)――」


 それは――、先史文明における【正しい意味でのリミットブレイク】。

 その動き――(かた)を記録して、その動作全体に強化(バフ)を付与することで、普通の技を越えた威力を発揮するべく生み出された機能。


 ――それがGくまちゃんEXに襲いかかった。


 ズドン!!


「うあああああああああああ!!」「きゃああああああああ!!」


 激しい衝撃でGくまちゃんEX自体が吹き飛んで、地面を抉りつつ後退する。

 それはあまりにも凄まじいまさに【必殺技】。


「……こんな……、隠し玉を……」

「……くあ……」


 呻くスクリタの横でシオンが血反吐を吐く。

 GくまちゃんEXへのダメージがシオンに深刻な傷を与えていた。


「シオン!!」

「だい、じょうぶ……」


 そう言ってシオンは歯を見せて笑う。しかしスクリタから見てまるで大丈夫には見えなかった。


「シオン……」

「負けないよ?」

「……うん」


 二人の瞳が重なって、そして強い意志が生まれる。


 ――最後の悪あがきが始まる。


「しいいいいいいいねえええええええええええ!!」


 極限武技(リミットブレイク)――、死獄舞刃|(Blade of Slaughter)――。


 再びそれは起動される。


 ズドン!!


 それは再びGくまちゃんEXを吹き飛ばして後退させる。……しかし、


「……補助術式、防御……間に合う……」

「うん……」


 スクリタとシオンが二重の防御支援で何とかそれを支える。

 それを怒りの表情で打ち砕かんとする声がバツナンダから放たれる。


「無駄だ!! この極限武技(リミットブレイク)は、疲れるし数に限りはあるけど……、その前に貴様らは死ぬ……!!」

「はん……どうでしょうね?」


 バツナンダは小さく「馬鹿め……」と呟くと、三度(みたび)ソレを起動した。


 極限武技(リミットブレイク)――、死獄舞刃|(Blade of Slaughter)――。


「く、おおおお!!」


 シオンが血反吐を吐きながら二重の防御で耐える。


 さらに――。


 極限武技(リミットブレイク)――、死獄舞刃|(Blade of Slaughter)――。


「く……、ああああああああああ!!」


 そこに至ってそのシオンの意識が遠くなる。その瞬間――。


「あ!!」


 その搭乗するGくまちゃんEXが光りに包まれる。そして……、


「くあああ!!」


 意識を混濁させたシオンとともにスクリタは、十八メートルの高さを落下した。

 スクリタは……、


「シオン……」


 その友達を抱えて……、守るように地面に激突した。


「ぐ……」


 呻きながらもその身を起こす。するとシオンが目を開けた。


「……ご、めん……。くまちゃん……消えて……」

「ううん……、大丈夫だよ……」


 呻くシオンにスクリタは優しく微笑む。

 そんな二人に向かって歩みゆく邪悪が居た。


「あん? なんか……」

「……」


 静かにバツナンダを睨むスクリタ。


「……ふん。ククク……これで終わりねぇ裏切り者……」

「く……」

「このまま三人仲良く……」


 ――三人……。


 さっき近づいた際に違和感を覚えていた。

 その答えにバツナンダはやっと気がつく。


「……もう一人は? 猫娘……」


 不意に何処かで小さな声がした。


「……」


 ソレに気がついてそちらを振り返る。

 それはバツナンダの――ちょうど左側が向いた方向。


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔七十二姫(てんまななじゅうにき)、序列49番、マオ・プロケル】


固有権能行使(リミットブレイク)……」


【system LOGOS:――固有権能・氷獄理剣|(Cocytus Knife)】」


 小さな氷の短剣がその手のひらに生まれて、そしてバツナンダと打ち出されて飛ぶ。そのまま直撃して……。


「ぐお?!」


 その左肩が絶対零度で凍結した。


「え? あ!!」


 その瞬間、その身に宿る加護の多くが消え去った。

 ――残ったのは僅かばかりの【能力補正】のみ。


「て、めえええええ!!」


 そのマオに向けて刃列が飛ぶ。それを回避したマオが、そのまま走って友達を庇うように立った。


「てめえ……この……」

「作戦成功……」

「……だね」

「ふふ、ふ……」


 憎々しげに三人を睨むバツナンダに向けて笑顔を向けるスクリタたち。

 それをバツナンダは怒りの籠もった声音で怒鳴りつける。


「……いい加減……悪あがきはやめろ!!」

「……」

「これで形勢逆転? ……なにを勘違いしてんだコラ!!」


 その怒りに満ちた声を三人は黙って聴いている。


「……こうして、機能を止めてもしばらくすれば復活する」

「……」

「それに……、テメエらは切り札である、太極定理も……、固有権能もこれで使い切った……」

「……」


 静かに三人が見つめる前で、バツナンダの長い演説が続く。


「……それに対してアタシはまだ……。自分の侵食定理を使っていない……」

「……」

「テメエらはもう終わりだ……」

「……」

「死ぬんだ……」

「……」

「三人仲良く死ぬんだよ……」

「……」

「……アタシに殺されるんだ!!」


 そして――、シオンが一言呟いた。


「……おはよう……。マオ……スクリタ……」

「……?」


 不意の言葉にバツナンダは言葉を失う。――しかし、

 何故かその背中に何やら温かいものを感じた。


 ――だから振り返ってみた。

 山々の向こうに輝きが見える。


「……うん! いい朝日だね……」


 マオがそう言って笑う。


 そして――、


「じゃあ……」


 ――変身!


 その声に驚いてバツナンダは振り返る。


「え? あ?」


 そこに【金鱗装殻】を纏ったスクリタがいた。


「……え?」


 スクリタは笑って拳を握って言う。


「バツナンダ……、もっと仲間? ……の言葉は聴いておくべきだよ?」

「え? 何故?!」


 スクリタはバーニアを吹かせながら答えを言った。


「【金鱗装殻】は一日一回使用可能……、でもその一回の使用回数は――」


 ――空に朝日が登ると回復する。


 その言葉を目を見開いてバツナンダは聞いた。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)!!」


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔竜姫(てんまりゅうき)、スクリタ・サーガラ】


太極定理行使(リミットブレイク)!!」


【system LOGOS:――太極定理・終末竜拳|(Final Strike)】


 スクリタのその金鱗装殻の各所から黄金粒子が吹き上がり始め、――その拳が眩く輝き始める。


「ひ、ひいいいいいいいいいい……!!」


 バツナンダは悲鳴を上げながら逃げようと走る。しかし……、


「遅い!!」

 

 スクリタの、その拳周辺に花びらが開くように、細やかな文字列の術式法陣が現れる。


【終末法陣展開。目標の全妨害貫徹可能を確認――】

【打撃してください――ma'am.】


 その頭に響く【機竜】の指示に、笑顔の表情でスクリタは答えた。

 

「――了解!!」


 そして、その拳が一迅の閃光と化して、目標へ向かって一直線に空を奔った。


 ズドン!!


 そのままその打撃がバツナンダへと届く。

 そのまま――、その夜の戦いの決着は起こった。



 ◆◇◆



「結局……、アイツの力が何なのか、正しく分からなかったね」

「まあね……、これから大変かも……」


 あの戦いの夜を抜けて、その次の日はぐっすり休んだ三人――。その夕方から街に繰り出して屋台の鶏肉を楽しんでいる。

 しかし、あの戦いを思ってスクリタとマオの表情は沈んでいた。


「「はあ……」」


 ため息を付く二人に駆けてくる者がいた。


「おまたせ!!」


 それは両手に屋台の食べ物を複数抱えたシオンであった。


「……あんた」


 その首からすら食べ物の入れられた袋を下げるシオンを、ジト目で見るスクリタ。


「……あははははは!! あらかた買ってきた!!」

「それ……全部食べるの? うぷ……」


 顔を青くしつつシオンに言うマオ。シオンは笑って言った。


「当然しょ?! ここ二日祭りを楽しめなかったんだから!! ……さあ食え!!」

「……」


 スクリタはシオンをジト目で見てから言った。


「いらない……」

「なに!! これを一人で処理させるつもりか!!」

「アンタが勝手に買ってきたんでしょうよ……馬鹿!!」

「うぐ……そうだが!!」


 そう言って言い合いを初めたスクリタとシオンに……、小さくため息を付いたマオは……。


「……こらこら……二人とも……喧嘩しない……」


 そう言って二人を笑顔で宥めた。


 ――その先に何があろうと――、

 ――多分、三人なら……乗り越えられる。


 そう……。


 そしてその街にスクリタ達の笑い声が響いた。

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