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陽はまた昇る~次章前日譚 中編~

 夜もふけてかなりの時間がたった頃、スクリタを初めとした三人組はセイリウム郊外の森林地帯にいた。

 魔王城から派遣されて来た索敵が得意な補助術師【ケロナ・アグレアス】と、十分すぎる戦闘要員である【ルーチェ・イブリース】、その両名が郊外に逃走したらしきバツナンダの追跡を彼女らに命じたからである。――そう、バツナンダらしき痕跡はセイリウムを離れて、郊外北に広がる森林地帯へと移動していた。それが分かったのは【キルケ・アスモダイオス】の索敵補助機器による効果であった。キルケは幻竜八姫将に関するサンプルデータを各戦闘が行われた場所で行い、その痕跡を元に多数撃退した【征人のバツナンダ】や【暴炎のマナス】辺りは直接索敵可能にした機器を生産可能にしていた。

 まあ――、それは、言ってしまえば、いまだそれ以外の遭遇経験、そして撃退回数の少ない幻竜八姫将は、いまだそれほど正確な索敵が出来ない、ということでもあるが。

 でも、スクリタたちにとってはそれで十分でもあった。なにせセイリウム内の警戒はルーチェら最高位天魔族が担ってくれるのだ。仮に別の幻竜八姫将が潜んでいても、彼女らなら十分対応可能だと確信があった。

 まあ天魔七姫将【ルーチェ・イブリース】は多少ぬけたところはあれ、天魔族最高峰――おそらく支援術式方面では並ぶ者のいないであろう補助術師【ケロナ・アグレアス】がサポートに当たれば、ほぼ無敵に近い組み合わせだと言えた。


「バツナンダの相手もルーチェ様に頼まなくてよかったん?」


 そう言って重装戦熊を繰るシオンが、一緒に騎獣の背にのるスクリタに問うた。スクリタは俯いて少し考えたあと答えた。


「まあ、それでも良かったんだけど……」

「因縁の相手?」


 少し言い淀むスクリタに、同じく騎獣に相乗りしているマオが言った。それを一瞬驚いた表情で見たスクリタは、少し苦しげな表情で答えた。


「……。まあ……、そうだね……。アイツは……、アイツだけは、幻竜八姫将時代から気に入らなかったし……。多分、アイツが魔人族の街に潜んでいたなら……、絶対彼らに碌な事してないと確信出来るから……」

「……まあ、そうか……。スクリタは……()()だもんね……」

 

 マオは静かにそう答える。

 しばらく付き合って、シオンもマオも、スクリタが魔人族へ並々ならぬ想いを持っている事は理解していた。

 天魔族へと転向した今であれば、当然、かのバツナンダはスクリタにとって絶対許せない相手であることは明白だと言えた。


「……なんか、二人とも付き合わせてごめん。私のワガママみたいな感じだし……」

「はあ……、何いってんだか馬鹿……」


 そう言って呆れ顔でスクリタを見るシオン。


「あんね? アイツのやり口が許せないのはアタシらも同じだよ? さらに……、友達の許せない相手なら……、当然手助けするって……」

「シオン……」


 少し驚いた表情でスクリタはシオンを見つめる。スクリタの心にシオンの「友達」という心が染みてゆく。

 その二人の姿を優しい笑顔で見つめながらマオもまた言う。


「だから気にしなさんな……。私たちに遠慮なんか必要ないんだから」

「……マオも……、うん……」


 少し目に光るものを見せながら、スクリタは二人に笑顔を向けた。

 ――と、不意に索敵装置にそれまでにない反応が起こる。それは……


「……これは……、バツナンダが近い?! 警戒して! 二人とも!!」


 そう言って真剣な表情に変わったスクリタに、シオンとマオの二人もまた真剣な表情で頷いた。



 ◆◇◆



「りゅうちゃん……」

「アギャ!!」


 自身の戦闘召喚獣である【金子竜】を召喚するスクリタ。それが空を飛んで重装戦熊の頭に乗った時、前方から何かが凄まじいスピードで迫って来るのが見えた。

 それは、スクリタらが予想した通りの、ゴスロリファッションに身を包み左肩を包帯で覆ったバツナンダである。周囲にナイフを無数に展開しつつスクリタらが乗る重装戦熊へと高速で迫ってくる。


「ち……! バツナンダ!!」

「くひひひ……!! 裏切り者ぉ――会いたかったわぁ!!」


 闇夜の森に邪悪の嘲笑を含んだ声が響く。シオンは重装戦熊【アサルトくまちゃん】に指示を与えた。


「アサルトくまちゃん! フルスピードで突撃!」


 その巨体からは想像できない速さで、重装戦熊【アサルトくまちゃん】が大地を蹴り奔る。背に乗ったシオンはその片手で光球を握って、召喚獣としての特性も持つ【アサルトくまちゃん】の身体機能をブーストした。

 それを……嘲笑を顔に貼り付けながらゴシックドレスを纏ったバツナンダが迎撃する。


「ひひひひ! ザコグマ天魔族が私に……!!」


 そのバツナンダがその両手を横に振ると、その周囲に並んだナイフの群れが一列に整列して空中で蛇のごとくうねりを見せる。

 それを目を細めて見たシオンが同乗する仲間のうち――スクリタに向かって叫んだ。


「スクリタ……、強化頼む!」


 シオンの声に応え、スクリタが頷いて術式を起動する。


 ――補助術式【攻性倍化】――。


 魔力の奔流が【アサルトくまちゃん】を包みこんでその全身に鎧のような膜を作る。それは鈎爪にまで及びその鋭さも斬撃範囲も拡大される。

 同時に、【アサルトくまちゃん】の頭にチョコンと乗る【りゅうちゃん】の全身が黄金に輝き、口内から蒼白い炎が漏れ出した。


「これは……、怖い怖い!!」


 バツナンダの腕振りに合わせて、刃列がうねって無知の如きしなりを持ちながらシオンらに殺到する。だが……


 ――戦術術式【氷結防壁】――。


 マオの氷の壁が【アサルトくまちゃん】の全面に展開して、刃列をその一撃だけ受け止めてアイスダストを生み出して消え去った。


「ぐ?!」


 その美しいきらめきを越えて、炎球がバツナンダめがけて飛んでくる。

 バツナンダは咄嗟に避けるが、その回避運動による隙に呼応して【アサルトくまちゃん】が突っ込んできた。


「もらったっ!」


 シオンの駆る重装戦熊【アサルトくまちゃん】のその鈎爪がバツナンダの喉元を狙う――が、血しぶきが舞うけで何とかバツナンダは生き残った。


「刃列! ……右から来てる!!」


 マオの警告で、スクリタが右へ振り向く。高速で刃列が空中でしなりながら迫ってくる。


「ち……、避けられないよ!!」


 シオンが叫んでスクリタが頷く。


 ――戦術術式【力学防壁】――。


 不可視の壁がそこに生まれて、そこに刃列が突き刺さる。シオンはスクリタを信じてそっちは見ない。

 ――そのままシオンは【アサルトくまちゃん】に命令した。


「連続で薙ぎ払え!!」


 バツナンダに迫る【アサルトくまちゃん】がその鈎爪を振るう。


「ちい!!」


 舌打ちしつつバツナンダはそれを避けていく。

 しかしながら避けきれず、血しぶきと衣服の破片が宙を舞った。


「……厄介!!」

「そりゃどうも!!」


 バツナンダの悪態にマオが不敵な笑顔で答える。


 ――戦術術式【氷結弾】――。


 マオの周囲に無数の氷のナイフが生まれて、それが空中に弧を描きつつバツナンダへと殺到した。


「チィッ……」


 バツナンダの舌打ちと共に、氷のナイフがその身に突き刺さってゆく。鮮血が飛び散って……そしてバツナンダは眉を歪めながら誰に聞かせるともなく呟いた。


「これは……餌が必要ねぇ」


 そして彼女は――嘲るように笑ってから、踵を返して凄まじい速度で森を駆けてゆく。

 ――その姿が彼方へと消えてゆく。


「待て!」


 シオンがそう叫んでスクリタが眉を歪める。


「何?! 今更?!」


 そう……、まさにそのとおり。こちらの数から考えて苦戦は必死であることは考えなくても分かったはずだ。

 バツナンダは自ら戦場を街の郊外にしたくせに、今更魔人族という餌を得るために近くの集落へと向かおうというのだ。


(何なの?!)


 嫌な予感がする――、しかし、このまま追わないわけには行かない。

 スクリタとシオン、そしてマオの視線が交わされて、そして重装戦熊【アサルトくまちゃん】は三人を乗せて森を奔り、遥かバツナンダを追跡し始めた。



 ◆◇◆



 森を闇を纏ったゴスロリ少女が奔りぬける。その背後に天魔族の気配を確認しつつ……バツナンダは笑う。


「さぁて……」


 その天魔族――、スクリタら三人は、補助術式で【アサルトくまちゃん】の巡航能力を強化して、バツナンダへと追いすがる。しかし……、


「マズイ……、このままじゃ追いつけない」

「マオ……、この近くの集落は?」


 そのシオンとスクリタのつぶやきに、眉を寄せてマオが答える。


「……結構近い位置に一つ……」


 ……そう苦しげに言う。

 その答えにスクリタは――、


「シオン……マオ……。先に行く……」


 その言葉を、名を呼ばれた二人は少し驚きの表情で見つめた。


「スクリタ?! もう?!」

「……使わないと間に合わない」


 シオンの言葉にスクリタが決意の表情で返す。……三人は互いに頷いた。


「すぐ追いつく……」

「了解……(笑)」


 シオンがそう言ってスクリタが笑った。


「……行くよりゅうちゃん!!」

「あぎゃ!」


 スクリタがそういうと【アサルトくまちゃん】の頭に乗ったりゅうちゃんが答えた。


 ――変身!!


 その瞬間、スクリタのその身が無数の光輪に包まれた。


【――金鱗装殻――、弐式機竜。武装展開――】


 小さな子竜――、りゅうちゃんが光の粒子に変わって、そこから更にスクリタを保護する鎧へと変化する。

 そうして生まれた金鱗のパワードスーツの各所から、黄金粒子が周囲に向かって放たれ始めた。

 その背にある黄金の両翼が展開して、そこにある四つのバーニアに光が灯った。


【――両腕部、両脚部、胴体部、頭部、翼部、全機能の再起動を完了。いつでも戦闘を開始可能です。――ma'am.】

「追いつくよ! 【弐式機竜】!!」

【――Yes, ma'am.】

 

 そして――その光弾が森を一直線に奔ったのである。



 ◆◇◆



 奔るバツナンダが気配を感じて背後を振り向くと、光弾がそこまで迫ってきていた。


「く……きひひひ……」


 それを見て何故か楽しそうに笑うバツナンダ。

 そこにスクリタがその拳を握って突っ込んできた。


「バツナンダ!!」

「追いつかれちゃった!!」


 まるで気にしていない様子のバツナンダに、嫌なものを覚えるスクリタ。しかし――、


「時間がないから速攻で決める!!」


 バツナンダのその直近まで迫ったスクリタがその言葉を紡ぐ。


仮想魔源核(ロウアマナコア)――開放(リリース)!!」


【system LOGOS:――分割神核機能・個別世界律限定適用を開始致します】

【system LOGOS:――個体識別符名・天魔竜姫(てんまりゅうき)、スクリタ・サーガラ】


太極定理行使(リミットブレイク)!!」


【system LOGOS:――太極定理・終末竜拳(Final Strike)】


 スクリタのその金鱗装殻の各所から黄金粒子が吹き上がり始め、――その拳が眩く輝き始める。


「くひ!!」


 バツナンダはそれでも笑顔が消えない。しかし、スクリタは静かにそれを睨んで拳を握る。


(たとえ何か策があろうが……、私の太極定理……、その前提である終末法陣は【防御】という()()()()()()()()()にする!!)

 

 スクリタの、その拳周辺に花びらが開くように、細やかな文字列の術式法陣が現れる。


【終末法陣展開。目標の全妨害貫徹可能を確認――】

【打撃してください――ma'am.】


 その頭に響く【機竜】の指示に、真剣な表情でスクリタは答えた。

 

「――了解!!」


 そして、その拳が一迅の閃光と化して、目標へ向かって一直線に空を奔った。


 ズドン!!


 その瞬間、バツナンダの片腕の包帯が弾け飛ぶ。その腕にあるものをスクリタは驚きの目で見た。


 ――え?

 ――目?!


 それは異形の……そして巨大なできものにも見える目だった。


「きひ!」


 しかし……バツナンダは、何の防御もできずにその姿が塵に変わってゆく。

 そのまま光輪が生まれて、衝撃波と力の奔流が轟音とともに外へと広がっていった。


「……なに?」


 そしてバツナンダは塵になって消えた。


「……」


 静かにその身にまとう金鱗装殻が輝き始める。


【最終工程――終了。Remaining timeが0に書き換わりました。time out――、……ma'am.】


 そして――、


「なに?」

【後ろです……ma'am.避けてください】


 その弐式機竜の最後の言葉によって、何とかスクリタは命を拾った。


 ズドン!!


「くあ!!」


 避けたその地面に刃列が突き刺さる。

 ――それは……。


「え? な?! バツ、ナンダ?!」


 そこに嘲笑を貼り付けたバツナンダが居た。


「これで……」


 ――貴方の太極定理は打ち止め。


「な?!」


 その邪悪は腕に蠢く瞳を宿しながら闇に笑う。


 ――私の望んだ通りの展開……。


「……」


 スクリタはやっとすべてがバツナンダの手のひらの上であった事実を知る。


「なんで?!」


 バツナンダの何らかの力が、【防御】という()()()()()()()()()にする終末法陣の効果をすり抜けた事実を理解する。


 ――これで貴方の太極定理は()()使()()()()()()()


 そして、月下に膨大な魔力が吹き上がる。

 それは、腕に宿った【目】から放射されており――、今までに見たこともない力の奔流がバツナンダに宿っていた。


 ――それは、……まさに()()だった。

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