「乙女ゲーム的世界に喚ばれた弟を迎えに行きます、二回目」
いよいよ最終回となりました。
兄の視点です。
透が、行方不明になった。
連絡も無く、急に欠勤したとの話を聞いて、携帯に連絡を入れても通じない。あぁ、これはまさかと両親共々顔を見合せた。
とりあえず、弟の職場には、ノロで前後不覚になった弟を病院に放り込んだので、暫く休むとでっち上げた。
俺の職場でも、女子生徒が一人帰宅していないと大騒ぎだ。
このパターンは、十うん年前と同じ……透の奴、また同じ所に喚ばれたのか。溜め息が出た。
あの『世界』は嫌いだ。
前回還って来た後、透はかなり精神的に参っちまった。
失恋の痛み、なんて可愛いもんが原因じゃない。透を追い詰めたのは、必死に行方不明の娘を捜す、親の姿を見たからだった。
学校にも何度も訪れて、何人もの生徒に、手掛かりが無いか聞いて回っていた。駅の近くで手製のビラを配って、情報提供を呼び掛けている姿も見たことがある。
それを見る度、透は後悔した。どんなことをしてでも、連れて帰って来るべきだったと。
透だって、自分で何でも出来ると思っている訳じゃねぇんだろうけどさ、後悔ってのは、そう割り切れるもんでもなし。
それでも、時間の経過と共に、透もなんとかそんな感情と折り合いを付けていったんだ。
それなのに、まさかの、もう一回。
よし、潰そう。
そう思った瞬間だった。
『向こう』について様子を見れば、案の定透の他に、行方不明の女子生徒もいた。
透は今回も、カラフルさんに囲まれている。始めっから全部を敵認定しなくてもいーだろーに。
利用できるものはしないと損だぞ。
利害関係が一致すれば、WinーWinだろうに。なぁ?
とりあえず、どれくらい掛かるか見当がつかない。
弟の職場には、追加でインフルを貰ったということにしておいた。
かなり心配していたぞ。良い職場で良かったな、透。
ギルと知り合って、色々調べた結果、予想以上にこの『世界』は酷かった。まぁ、悪いのは『世界』じゃないな。潰しとくべきは、『王家』と『神殿』この『世界』のツートップだ。
ギルも、推測通りに『月』の魔力で『混沌の渦』が消滅する事を知ると、呆れ返っていたようだった。俺一人で行く事が出来るのは「最初の」初心者向けチュートリアルみたいな序盤のダンジョンだけだから、残りは透と合流してから消しとこう。
こんなの残しといたら、透が又、喚ばれてしまいそうだからな。
ギルと相談して、『混沌の渦』は、一、二個残しとく事になった。
こん位じゃ『世界』に与える影響は少ないだろうって事と、『魔のモノ』を絶やさない為だった。別に俺もこの『世界』そのものとそこに住む人間全てを滅ぼしたい訳でもない。資源全てが枯渇すれば最初に路頭に迷うのは、何の非もない一般庶民だ。それは俺の本意でもない。
『魔のモノ』自体は、この『世界』の人間で対処すれば、良い話だ。
元々『守護者』たちはこの『世界』の人間だ。『魔のモノ』に対抗する力が、この『世界』の人間に無いわけじゃない。
何百年も遺跡を封鎖して、強力な個体が成長するのを待たずに、こまめにガス抜きしてやれば、大事にはならないはずだ。
ギルから急の連絡を受けて
死にかけてた透を拾って
『混沌の渦』を消して回り
『神殿』の奇跡を永久に失なわせてやって
『王家』の力の象徴でもある城を
この『世界』のものではない力でへし折った
後はこの『世界』の人間の仕事だ。
神様の加護の証と奇跡の象徴を失い、この『世界』の何処にもない力で攻撃された……神罰が下った奴等を、民衆がどうするか、なんて俺には関係ない。
知識を司るこの『世界』の頭脳集団と、商工ギルドという『世界』の産業と流通を支える者たちが、政治家でもある古き貴い家柄の者と共に、『王家』と『神殿』に見切りをつけるのだ。
この後どうなるかなんて。……『余所の世界』のもんがどうこうしなくても上手くいくに決まっている。下手な奇跡なんてもんは、端からなければ良いんだ。充分になんとか出来る力もあいつらにはあるんだからな。元々さ。
最近一族が造った不思議空間を経由して、元の『世界』に還って来た。
電話を掛けて、親戚の友人という、微妙な関係の人物を呼び出す。
警察に勤務するその人に、室町を委ねる為だった。親御さんは、娘を心配して、とうに捜索願いを出している。適当に辻褄合わせをしてもらわなきゃならん。
さぁて、帰ろ帰ろ。
この不思議空間を使えば、『友人』と逢うことだって出来ない事じゃない。どう『世界』が転がったか、気になったら聞きに行こう。
勝手に喚ばれるのと違って、こちらから逢いに行く……こちらの意思が強く介在すれば、時間の流れに大差も生まれないからな。
歳の離れた義妹が出来るかは、それこそ俺の知った事じゃないぞ?
ただ、俺と間違われるのは、社会的にまずいからな。その辺りは自重しろ。
教師と生徒じゃないんだし、節度を守れば良いんじゃねぇの?
なあ。
最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございます。拙いながらの、初めての連載形式の作品となりましたが、少しなりとも楽しんで頂けたなら、当方何よりでございます。
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