Ⅴ
しばらく続く静寂。
部屋にある置時計が時を刻む音だけが響く中で、僕と麻衣は彩歌を見守っていた。
いつの間にか、麻衣はいつものポジション、僕の胸ポケットに戻っていた。
「彩歌ちゃんさ……」
沈黙を打ち破るように、麻衣がポツリと口を動かす。
「さっきアニキたちが帰って行ったすぐあと、寝言言ってたんだ。小さかったから聞きづらかったんだけど、アニキと碧人君の名前呼んでた。でも、あたしの名前は呼ばれなかったんだよね……。ちょっと寂しかったかな。あたしなんて、そんなに必要とされてないんじゃないかって……」
そういって、麻衣は苦笑する。
ちがう……
「そうじゃないだろ!」
「――!」
思わず声を荒げてしまった。麻衣があまりにもバカなことを言うからだ。彩歌が起きてしまわないだろか。
一瞬顔を見るが、特に起きる様子はない。
「すまん。そうじゃない。彩歌はお前が大好きで、大切だから、『自分が守るべき人』って考えてるんだと思うぞ。僕と碧人はは、昔からずっと一緒にいるから、自分でいうのもなんだけど、『頼れる』って思ってるんじゃないかな。」
「……でも、あたしも『頼れる』って思ってほしかった」
「だからそれはさ、前にも言ったように、これからいっぱい思い出を作って、麻衣の事を頼れる存在だってとこを見せつけてやればいいじゃん。もうお前だって『仲間』なんだ。これからずっと同じ時間を過ごせる。だろ?」
精一杯の笑顔で言った。心からそう思っている。
「……そうだな。……ありが……と……」
いつもの照れ笑いで答える麻衣。恥ずかしそうに俯いて、頬を指で擦っている。
ああっ女神さまっ。
「ん……」
彩歌が寝返りを打ち、こちら側を向く。
その意識がわずかに覚醒し、うっすらと目を開け、
「あ……れ……碧人は……帰ったの?」
一言。
「うん。ちょっと用事があったみたいだ」
「そう……新太も帰っていいんだよ?」
「いや、お前一人じゃあ何かと不便だろ。もう少しいるよ。気にしないでまだ寝てなさい」
「ううん。もうだいぶ良くなったから」
そういいながら、彩歌は体を起こしベッドに腰掛ける状態になる。
「彩歌ちゃん、大丈夫か?」
心配する麻衣だが、彩歌は微笑みながら「大丈夫だよ」と優しく答えた。
「何だったらあたしのこと、またほっぺに擦りつけて元気補充しちゃってもいいんだからな? 彩歌ちゃんのほっぺ、すべすべのふわふわで気持ちいいから好きだぜ」
「ぐはぁ! なんたる強烈な言葉……それじゃあお言葉に甘えて――」
「許しません」
「え~? なんでよ」
「僕が嫉妬するからです!」
蔑んだ視線と「ないわー」という声が僕を襲った。




