Ⅴ
またこの時間――このままでは遅刻ギリギリという時刻に起床した。
「アニキ、ホントに本気だったんだ……」
当たり前だ。僕はそのために生まれてきたといっても過言じゃない。
「というか別にこの時間に起きる必要はないよな」
そんなことはない。『ギリギリに起きる』というのもプロセスの一部なんだ。
誰だって、食事をする前は「いただきます」を言うだろ?
「……それ、関係あるの?」
「つまりだな、この『ギリギリに起きる』っていう行為は『角でぶつかる』という行為への感謝を表してるのだよ。あぁ、ありがたやありがたや……どぅーゆーあんだすたん?」
「さっぱりだ」
はぁ、これだからコイツは……
ともかく、遅刻はもうこりごりなので急いで登校支度を済ませる。
朝食の食パンを手に取り、いざ出発。
「今日はちゃんと食パンなのか。『ちゃんと』って言うのもおかしいけど││って、えぇ!? 一斤!? なんで一斤持って行くの!? っていうかウチにそんなパンあったか!?」
朝から騒がしいな、この子。昨日作ったの。
「いつの間に……ってか、よくウチにあるだけの機材でそんな本格的なの作れたな……」
人間、やろうと思えばなんだってできるのだ。
だから、諦めんなよぉ!
「誰に言ってんだ誰に……」
走ること五分、やって来た『幸福のお角様』。
ホントに、今回は失敗本当してくれるなよ?
「アニキぃ……それ、ちょっとフラグ臭い……」
やめろ、そんなこと言ったらそうなっちゃうかも知んないだろ。
無心だ。無心。僕はあそこを通り抜けるだけです。
そう思っていればきっと恵まれるだろう……
タッタッと『幸福のお角様』と前を走り抜けようとする。
その瞬間、僕は何者かとぶつかった。
「おわっ!」「きゃぁっ!」「ふみゃっ!?」
おっしゃ、成功だ!
打ち合わせ通り、ゴッツンコができたようだ。
ドサッと倒れ込む二人。
変な声を上げて押しつぶされた麻衣。
……ごめんな。
起きあがり、ぶつかった人を確認する。
……女性。
おぉ!! なんて思うわけがない。
女性は女性でも、年配のおばさん。小太りしたおばさんだ。
ちょっと年上のお姉さん、とかだったらまだしも、ここまで年上だと流石に僕の許容範囲外である。
呆然とたたずむ僕に向かって、おばさんが話しかけてきた。
「大丈夫? ごめんねぇ、ぶつかっちゃってぇ…………あら? ここって噂の……」
そういって周りを見渡すおばさん。
何を思ったのか、いや、思ったことなど明らかなのだが、急に口角が上がり、頬が赤くなったおばさんがこちらに向き直した。
絶対にまずい。
早く学校に行こう。
1,2,3……ゴー!
――……したつもりだったのだが、前に進まない。
おばさんが僕の肩を掴んでいたからだ。
「あらあら、恥ずかしがることないのよぉ? あたし、こう見えて上級者なんだからぁ。あなた、よく見たらかわいい顔してるじゃないのぉ。これも運命なのねぇ」
あ、これ終わったわ。
何もかもを諦めた瞬間だった。
「津紀さーーーーーん! ちょっとストーーーーーップ!!」
突然、麻衣が叫んだ。
その言葉を期に、おばさんも正気を取り戻したようだ。
何度か謝って、その場から立ち去っていった。
結局、遅刻しての登校となった。
一時間目の授業が始まっていたが、どうやら自習のようだ。
先生は見当たらず、クラスメイトたちも各々会話をしていたり、寝ていたり、勉強していたりと自由なことをしていた。
真っ先に碧人に話しかける僕。
「ちょっと、トイレ行こうぜ」
もちろん津紀と話すために電話をするからだ。
「え~、ちょっと、ホモォな展開はやめてくださいよ~?」
ウホッ、なんて誰が言うか。いいから来い。
そういうと、やれやれ、とでも言いたげに首を振りながら、碧人は僕の後ろを着いて来た。




