Ⅵ
「妹さん、なんで急に叫んだりしたんですかね?」
「あほか! 麻衣が叫ばなかったら僕が叫んでたっての!」
トイレで一人、怒りをあらわにする僕。だが、その感情をぶつける相手は僕以外には見えていない様子だ。
「大体、なんでお前は普通の女の子と出会わせようとしないんだ。一回目は乙女心(?)を持ったおっさん。二回目は性別は正しいものの、年が離れすぎたおばさん。僕が求めてるのは女の子だっての!」
「おやおや、新太さん。女性はいくら年を食ったとしても心は女の子のままなんですよ。一回目はともかく二回目は成功と――」
「言わないから。そういう話じゃないからな?」
この幽霊……もはや悪霊なんじゃないか?
「えっと~、今のぼくには津紀さんが見えないわけですが、状況から察するにまた失敗してしまったんですか~?」
「いえ、失敗はしてませんよ」
「したんだってば! 認めやがれ!」
ぷくぅと頬を膨らませる津紀。
碧人もそのやり取りから津紀がどんな反応をしているのかがわかったようで、終始ニヤニヤしていた。
麻衣は麻衣で、なんだか冷ややかな視線を送っているような気がする。
まぁ、麻衣は津紀の事は僕が昨晩軽く説明しただけだからよくわかってないみたいだから普通の反応なんだろうな。麻衣から見れば、僕が一人で騒いでいるようにしか見えないし。
「それで、若い女の子とぶつかりたいってことですかっ!」
「なんで逆ギレなんだよ……まぁそうだけどさ」
やっと素直に僕の要求を汲んでくれたようだ。…………素直かな? いや、もう深く追及しないでおこう。
「ですけどその夢、もう叶いそうにないですね」
「はぁっ!? なんでだよ!」
「あのですね、なんだか新太さんの女性からの評価が変わりましてね……」
「あ? それはどういう…………」
「そうですね、同性愛の疑いが女性の心に出てきましたね」
津紀曰く、さっき碧人が言った、ホモォな展開はやめてくださいよ発言が、どうやらクラスメイトたちが本気にしてる、らしい。
「女性の情報拡散能力は非常に高いですからね。もしかしたら今頃学校中に広まってるんじゃないでしょうか?」
いやいや、流石に早すぎるだろ。
「いえいえ、そんなことないですよ。私、女性の心を感知するの得意ですから」
「それは、例の霊力の影響なのか?」
「まぁそれもありますかね。生前から情報収集とかカウンセリングとかしてたんで、それも関係あるかもですけど」
「何やってたんだ、生前…………っと、こんなことしてる場合じゃなかった。早く誤解を時に戻らなきゃ!」
「無駄だと思いますよ? 変な目で見られるのは確定だと思います。今のところ、BL好きの女性の心は感知できてないので、クラスに戻っても別の意味で変な目で見てくれる人はいないと思いますが」
「いや、そんな目で見られても困るんだが……」
「私は見ますけどね!」
「変態だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「いや~、何でしょうね。最近の子達は男同士の愛って認められないんでしょうか。美しいと思うんですけどねぇ。げへへ」
「ちょっと近づかないでいただきたい。なんだ……その……うつるからさ」
「人をバイ菌みたいに言わないでください」
「もう人じゃないだろ」
僕はこんなやつにあんな頼みごとをしたのか。もしや最初におっさんと衝突したのはこいつが意図的にしたんじゃないか?
「それはないですよ。流石に年が離れすぎて美しくないです。現に昨日謝ったじゃないですか」
まぁ、それもそうか…………そうなのか?
「それと、評価が変わったのと『お角様』で女の子とぶつかることができなくなったのとは、何か関係あんのか?」
「あぁ、それですか。あそこで運命的な出会いを果たすには、ぶつかる相手からの一定の評価が必要なんです。その基準は、プラスマイナスゼロ以上なんですよね。今の新太さんですと、かなりマイナス側に傾いてるんですよ。狙いを、『女の子』と範囲を広げてしまうと、その総合評価になってしまって状況的にマイナス評価が多いですから」
「なっ……!」
まさかこんな危機に陥ってしまうことになろうとは……
僕がトイレに行こうなんて言わなければ…………あれ?
「いやいや、ここに来る事になったそもそもの原因は……津紀、お前だ。やっぱりお前が悪いんじゃねえか! 何とかしやがれ!」
「す、すみません……ですけど、私にはどうしようもないんです……やっぱり人に頼ってちゃダメってことなんですよ。勉強になりましたね!」
「だから人じゃないだろ。つか、何でちょっと偉そうなんだよ」
腕を組みながら語りだした津紀に一喝を入れながら思う。
この状況って、傍から見れば僕が大きな声で独り言言ってるんだよな。
麻衣も一応女の子のわけだし、こんな姿を見せて冷たい視線を送られている今もどんどんと女の子の総合評価は落ちてんだよな……
今度からは麻衣には席を外してもらおうかな……あ、いや、勝手にどっか行かれて行方不明になるよりマシか。
それに、さっき助かったのは麻衣のおかげだ。あそこで津紀に叫んでなかったら僕はどうなってたことか……想像したくないな。
「ありがとな、麻衣」
「え、何だ急に。キモチワルイ」
「……感謝してるけど、お願いだから評価は下げないでくれっ!」
心からの叫びだった。




