Ⅳ
「それで、どうしたいんだ」
「はい……当事者がいるので話が早いですね。一つは、なんとかして新太さんに謝ろうという悩みだったんですが、それはさっき解決しました」
「一つ? まだなんかあるのか」
「はい……できれば、意中の人とでもあの角でゴッツンコさせたいなと思いまして……」
「……まじで?」
いや、でも、意中の人がいるわけでもないのだけれども。
僕はただ、女の子と曲がり角でぶつかる、というシチュエーションが欲しかっただけであって、特定の人を狙っていたわけではない。
……まぁあの時は転校生を狙っていたわけだが。
それ以前にも何度かぶつかってみようとしていたのだ。
……結果はことごとく失敗に終わったのは伏せておこう。
「そういうわけで、相手は誰でもいいんだ。とにかくぶつかってみたい」
「……? おかしいですね。碧人さんは……彩歌さん? という人とぶつからせてあげたら喜ぶって言ってたのですが……」
「はぁ? なんで彩歌なんだ?」
「いや、私に聞かれてもよくわからないのですが、復縁がどうのこうのって言ってたような気もします」
「復縁……」
まったく、余計なことを言いやがる。
僕はそんな気は全然ないのだがね。
第一、覚えてないし。
「わかりました。それでは、誰でもいいから女性とぶつかりたい、ということでよろしいですね?」
「まぁな」
「それでは、前回と同じ時間、あの場所に走ってきてください。きっと素敵な出会いに恵まれますよ」
「あ、待った」
「……? どうかしました?」
「お前との話終わると記憶が飛ぶみたいだから、ちょっとメモらせて」
「終わりました?」
「あぁ……あとちょっと……おし、終わった」
「随分と時間かかりましたね……」
「お前の似顔絵も描いてた」
「えぇ!? ……そして上手いですね……」
我ながら自信作だ。
「では、そろそろお暇させていだだきま~す」
「へいへい、んじゃ明日はよろしく」
「はいは~い」
笑顔を浮かべ、手を振りながら、津紀は消えていった。
あれ、なにしてんだ僕は。
碧人と電話してたとこまでは覚えてるんだけど……
「お、アニキ、正気に戻ったか?」
ちょうど風呂から上がったらしい麻衣が、おもちゃの家のベランダから声をかけている。
「正気? 僕は常に正気だ」
「いや、常に、ではないだろ……そうじゃなくて、さっき一人でぶつぶつと話してたからさ。ついにいかれちゃったのかと」
なに、全然記憶にないぞ。
「もう完全にいかれてるなこれ……話し終えたと思ったら今度は急に何か書き出すし」
「なにか……書いてた?」
「あぁ、そこのメノートに」
麻衣が指差した場所にあったのは一冊のノート。
パラパラっとめくってみると、あるページが目に留まった。
そりゃあそうだろう。
なぜなら、書いた覚えのないメモと、描いた覚えのない女性が、そのページには書かれていたのだから。
「あ~、そうだった。思い出した」
なにを思い出したのかは言うまでもない。
幽霊の事、その幽霊が言った、雰囲気の事、明日の約束の事。
……言うまでもない、とか言っておいて言ってるじゃないか、なんてツッコミは受け付けていないのでそのまま自分の中に溜め込んでいただきたい。
「……ってことは、アタシはまたその変なことに付き合わされるのか?」
「変なことって言うな」
仲間はずれもかわいそうなので、このことは麻衣にも教えてあげた。
かわいそう、というのは僕に向けての言葉である。
話しておかなければ、麻衣の中の『正気な人』という括りに僕を入れてもらえないみたいなので。
「というか、麻衣もよくこの話を受け入れたな」
「まぁ、アタシがこんな身体だしな。大抵の事は信じれるぜ」
それだと詐欺とかに引っかかりやすいんじゃないかな……
ちょっと疑うことも覚えさせてやらんとな。
何がともあれ、明日が楽しみだな。
新しい出会い。
実る恋の果実。
駆け落ちする二人。
引き裂かれる運命。
寂しく、孤独死に……
「あ、最後かわいそうだな……」




