天魔学園生徒会
華々しく新入生歓迎会が行われ、年々迫力を増していく各部のパフォーマンスは大盛況となった。
栞奈ちゃんもテニス部から無理矢理押し付けられたとはいえ、持ち前のしなやかさを活かしながら、クールにラリーをする姿は、周りの視線を奪っていた。
派手さでは随一を誇る軽音楽部では、杏ちゃんが小さな体で堂々とドラムスティックを振り回して、体育館内を震わせながらリズムを刻み、佐賀くんの豪快なギターで場を沸かせ、手拍子や歓声に包まれて新入生歓迎会は幕を下ろした。
そんな熱を冷ましていくように、私たちは招集された。
「天魔学園第八十二期生徒会会長、中野紗南です。皆さん、改めてようこそ生徒会へ」
木製の長テーブルを五人が囲む。
その中心で長い三つ編みを左右に垂らして、眼鏡のフレームを指で上げたのは、生徒会長だった。
「俺は生徒会長の補佐を務める副会長ね。よろしくー」
「赤妻くん、名前を言いなさい」
「会長堅いよ。もっと気楽にやってこ」
「彼は赤妻妖鬼くん。適当に彷徨いてるけど、仕事はできる人だから」
副会長とは思えない明るい茶髪のウルフヘアをしており、会長とは相性が良いのかテンポのいい会話をいつも展開している。
「で、会計には新良雷くんを選んでます。何か一言あれば、新良くんから」
「よろしくお願いします、神宮さん」
生徒会長から渡されたバトンを放り出し、胡散臭い笑顔を貼り付けた黒髪の男は、ふざけた挨拶をして私をじっと見つめていた。
絶対に反応しないと決めていた私は、自分から口を開く。
書記に任命されました、神宮天です。よろしくお願いします」
「よろしく、神宮さん」
にこりと歓迎してくれた生徒会長に一礼して、それ以外のものは視界に入れないように目を閉じた。
「天ちゃんって言うんだ、可愛い名前〜」
「馴れ馴れしすぎると嫌われるわよ、赤妻くん」
「褒めただけじゃん?嫉妬は良くないよ?」
「黙りなさい」
耳心地のいい二人のやり取りを聞きながら、抱いた謎は深まるばかり。
ここまで人間と馴れ合う吸血鬼がいるのも珍しいが、彼の妖しさを受け入れつつ、言動をコントロールしている生徒会長は、きっと唯の人間では無いのだろう。
生徒会長はスカートに皺ができないよう丁寧に手で押さえながら座り直す。
「そして、広報担当は花井艶子さん。よろしく」
先ほどから私へ鋭利な視線を突き刺し続けている緩いウェーブの髪型をした女の子は、つまらなさそうに両肘をつき、足を組んでいる。
機嫌も態度も良いとは言えないが、不思議と嫌悪感が芽生えることはなかった。
「…艶子さまよ」
「あー!君があの有名な新入生!?」
花井さんの横に座っていた赤妻先輩は、大きな声を上げて彼女に指差した。
「そうよ。この超美少女艶子ちゃんよ」
「あれ?でも艶子ちゃん一年生だよね?なんで生徒会入れたの?」
赤妻先輩の純粋な疑問に、花井さん以外の三人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
………まさか、妖艶の悪魔の能力で先生を何人か誑かしたな…!?
「ま、まあ、艶子ちゃんは?特別だし?学園のルールとか?知らなーい」
「………」
「………」
「………」
花井さんはペロリと舌を出して凍りついた空気を茶化すが、誤魔化しきれる訳もなく、正当性があるか先生に確認をとりに行こうと部屋を出ていこうとした生徒会長の腰に巻きついた。
彼女の虚勢は簡単に剥がれ落ち、潤んだ瞳で生徒会長に訴える。
「お願い!お願いします会長ぉ!私雷くん学年も違うし、校舎だって離れてるし、一緒にいれる場所がここしかなかったんですぅ!」
「そんな私情で説得されても…。学園の規律を生徒会が守らずして生徒の見本になれないわ…」
「そこを!何とか!ちゃんと良い子にして働くから!」
「そういう問題じゃ…」
しがみついて懇願する花井さんの力が強すぎたのか、生徒会長は体勢を崩し、バタンと大きな音を立てて床に倒れ込んでしまった。
「会長!?大丈夫ですか…!?」
私が急いで駆け寄るよりも先に、赤妻先輩が生徒会長の背と膝の裏を両腕で軽々と抱え上げた。
顔面蒼白でぐったりとした生徒会長を、私たちの目から逃がすように、彼は静かに扉の前まで歩く。
そして、首だけこちらに回し、いつもの飄々とした笑みを作った。
「ごめんね〜。とりあえずご挨拶会はお開きで」
「わ、私も一緒にっ」
具合の悪そうな生徒会長と吸血鬼を二人きりにするわけにはいかない!
「大丈夫…。赤妻くんが、いて…くれるから…」
咄嗟に生徒会長のもとへ手を伸ばしたが、今にも消え入りそうな声で、確かに私は拒絶されたのだ。
………二人には、他人が付け入る隙のない信頼関係があるということ?
赤妻先輩は、会長を抱きかかえている手で、重たい木製の扉を片手で押し開け、二人はこの場を去っていった。
残された私たちは、とりあえずお互いの顔を見合わせる。
「………か、帰ろっか」
虚空を彷徨っていた手を下ろし、私は悪魔二人に無理やり口角を上げた。
「そうだね。帰ろう」
「私も雷と帰る!」
それぞれの意思が一致し、私たちも生徒会室を後にする。
「ていうかさぁ、アンタ雷の何?」
新良くんの腕に自分の腕を絡ませて、その隣を歩く私をこれでもかと顔を捻りながら、睨みつけられた。
「艶子。神宮さんに変な絡み方しないの」
「だってだって!雷、ずっとこの女のこと気にしてるじゃん!どう見てもただの人間だし、いやらしい関係でもあるんじゃないの!?」
「ない。変なことを言うのもやめろ」
「なによもー!」
まるで恋人…いや、どちらかと言えば兄妹だろうか。
じゃれ合うような悪魔同士の会話を聞いていると、不意に新良くんと視線が交差した。
「神宮さんと仲良くなりたいってのは本音だよ?」
「なっ…」
突然始まった彼の理解不能な発言に、冷静さを欠かれる。
「私、新良くんと特別仲良くなりたいとは思ってない」
「友達からってことでいいよね?」
「え?いや、友達からっていうか…これ以上仲良くなってどうするの…?」
私と新良くんの間で不貞腐れる花井さんに警戒しつつ、恐る恐る尋ねてみると、新良くんはキョトンと目を丸くし、何度か瞬きをした。
すると、口を開いたが声に出すことを躊躇したのか、すぐに閉じ、やっぱりといった表情になり、彼は真っ直ぐ私の瞳を捉える。
「好きなんだ、神宮さんのことが」
「…………………………え?」
先程まで雲がかっていた空から、雨粒が降り出した。
「俺と、交際してもらえないか」
決して彼の台詞を掻き消すほど、雨音が激しいわけではない。むしろその逆だ。私の耳には、より鮮明に聞こえていた。
それどころか、薄暗い廊下に立ち止まる新良くんの頬の色は、もう散ってしまったはずの桜の色に似ており、非日常味を帯びている。
それでも受け入れ難い新良くんからの告白は、天使である私の立場から鑑みる、悪魔という危険な存在に対しての固定観念を覆すには、十分な出来事だった。




