329 帝国の暗躍
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次回更新日は5/3(日)になりますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
エーデルワイスから伸びる街道で、一人の男性が巨大な植物に絡み取られていた。
彼の名前は、帝国の剣士ヤクシャさん。
誰かの弟子だと名乗っていた彼は現在、私がテッポウウリマシンガンで植え付けたモウセンゴケに捕われ、身動きひとつ取れずにいました。
ネバネバの粘着質の腺毛が触手のように蠢き、成人男性を蹂躙する光景は、なかなか衝撃的なものでした。
私としては何度か見たことがあった気がしなくもない光景だけど──少なくとも、ここにいる残りの帝国の兵士さんたちからすれば、この世の終わりとでも思ったんだろうね。
顔を青ざめさせながら、私に慈悲を求めるような視線を送ってきているよ。
「降伏してくれたら、命までは取りません。もっとも……あの人みたいに、なりたければ、別ですが」
チラリと、兵士さんたちへと視線を向ける。
私の蔓に拘束されて捕まっている兵士さんたちは、先を争うように口を開きました。
「降伏! 降伏します!」
「ああはなりたくない」
「オレたちは命令されただけだ。敵対するつもりはないんだ!」
「命だけはご勘弁を」
「あんな死に方はイヤだ」
「全部……全部話します!」
いやあ……あの人、死んでないけどね。
モウセンゴケでもみくちゃにして、そのまま気絶しているだけだし。
でもちょうどいいから、彼らには少し勘違いしてもらいましょうか。
私は最も顔を青ざめさせている兵士さんへ、問いかけます。
「それで、あなたたちは、帝国の兵士さんたちで、間違いありませんね?」
「そうだ……オレたちは栄えあるグランツ帝国の人間だ」
「なのに、帝国の人が、こんなところで、道を塞いで、いたんですか?」
「それは……命令で……」
「どんな命令ですか?」
「エーデルワイスから出た者を、この先に通すなと……」
「なぜ?」
「情報を封鎖するのが目的だと、聞いている。エーデルワイスで起こったことを、外に知らせたくないらしい」
なるほど、情報封鎖ですか。
侵略や街の封鎖が目的にしては、やけに兵士の数が少ないと思っていた。
でも情報の遮断が目的なら、この人数で道を塞いでいたのも理解できる。
つまりエーデルワイスから王都へ向けた伝令も、この人たちに阻止されていたってことだね。
「街から来た、伝令は、どうしました? まさか……」
「まだ殺してない。情報を吐かせるために捕まえてある」
すぐさま兵士から伝令の居場所を教えてもらい、妖精のキーリに捜索をお願いします。
林に飛んで行ったキーリは、すぐに戻ってきて「あっちで縛られてたよー!」と教えてくれました。
よ、良かったー。
エーデルワイスはイリスの故郷。
公爵令嬢であったイリスとしては、民が殺されるのは許せないからね。
もし殺されていたら……この方たちにはお花の肥料になってもらっていたかもしれないよ。
安心したところで、気を取り直します。
だってまだ話は終わっていないから。
「でも、情報封鎖だけが、目的じゃないですよね?」
「…………」
ここで情報封鎖をしても、時間が経てばエーデルワイスの人たちがこのことに気が付く。
そうしたら、すぐにでも騎士団がここに押しかけるはず。
たった十人程の兵士たちが、騎士団からこの道を守れるとは思えない。
何もしなくとも数日後には、この街道封鎖は解除される未来だったのだ。
──つまり、なにか目的があるってことだよね。
帝国が王国に無断で侵入し、武力をもって道を塞いでいる。
こんなの、問題が起こらないわけないよね。
いずれ両国の間で国際問題になるのは目に見えている。
それを理解していないグランツ帝国ではない。
それなのに、彼らはあえてここで情報封鎖をしていた。
「情報封鎖なんかしても、長くは、もたなかったはず。それくらい、私でもわかりますよ」
この周囲に、帝国の軍隊は存在しない。
なにせここは国境付近でもない、エーデルワイス公爵領のど真ん中なのだ。
「ならグランツ帝国は、なにをする、つもりなんですか?」
我がガルデーニア王国と、お隣のグランツ帝国は、大昔は敵対していた時代もあった。
それでも魔王軍の脅威などもあって、最近では友好国として手を結んでいた。
塔の街の領主マンフレートさんと、帝国の姫フロイントリッヒェの婚礼は、両国の融和の証しでもある。
近日中に、ガルデーニア王国の王都で、彼らの結婚式が行われる予定だ。
でもそんな晴れのお祝いがあるというのに──なにやら王都で暗躍の気配がしているのを、私は知っていた。
グランツ帝国は裏で魔女王と繋がっており、皇太子は魔女の味方をしていた。
というか、帝国の妃が魔女王だった。
あれだけ暗躍が好きな人たちだったし、悪だくみをしないなんてことは考えられない。
だから、もう一度尋ねます。
「帝国はこれから、なにをする、つもりなのですか?」
「それは……」
兵士さんは、言いづらそうに口をつぐみます。
いくら恐怖が勝っていても、やっぱり敵には情報を渡したくないみたい。
いろいろと怖がらせちゃったから、仕方ないかもね。
ならもう少し仲良くなりましょうか。
だって私たち、まだ知り合ったばかりですもの。
お友達になれば、素直に話してくれますよね。
「そういえば、あなた……怪我して、いますね?」
「え、怪我? いや、どこも怪我はしていないが……」
「治療しなくては、大変です。ちょうどここに、聖蜜があります」
「そ、それは聖蜜!?」
兵士さんがよだれを垂らしながら、続けます。
「しかもその色の濃さと輝き……水で薄めたものでもなく、原液だと!?」
「私、聖蜜を出せるんです。先ほどは、失礼いたしました。友好の証しに、一口どうぞ」
「……ゴクリ」
木で作ったコップに、聖蜜を注ぐ。
そのコップを、兵士さんの口元に近づけた。
「聖蜜は、かなり高価なもの、らしいですよ」
「知っている! たしか樽ひとつで家が一軒建つとか……」
「聖蜜を、飲んだことは、ありますか?」
「一度もないが、聖蜜の名は帝国にも轟いている。聖蜜を飲んだのを上司に自慢されたことだってあった」
「なら、もう自慢されずに、済みますね」
私がニコリと微笑むと、兵士さんが口をあーんと開けました。
すかさずコップの中身を、ゆっくりと流していく。
──ごく、ごく、ごく。
兵士さんが聖蜜を飲み干していく。
その様子を眺めていた他の兵士たちも、「なんてうらやましい!」「俺にもくれ!」などと叫んでいた。
そうしてコップ一杯分の聖蜜を堪能した兵士さんが、蕩けた顔で喜びの声を上げる。
「う、旨い! 濃厚な蜜の味がどんんどん口に広がっていって、幸福感がすごい……この味、噂以上だ……」
「おかわりも、ありますよ?」
「く、くれッ!」
兵士さんが二杯目の聖蜜を飲み干す。
でも、それだけでは止まらない。
私が聖蜜を出して蔓に付着させると、兵士さんはその蔓に直接かぶりついてきました。
もう自分が文明人であることなど、忘れてしまったのでしょう。
コップを使わずに、蜜をペロペロし始める。
「う、うまいぃ……もっと……もっと聖蜜を、オレに食べさせろぉ……」
その様子は、まるで蜜に飢えた熊のよう。
クマパパほどではないにしろ、彼の目にはもう蜜しか映っていないみたい。
今回は特別に、普段よりも濃度強めの蜜を抽出しておいたからね。
とりあえず、私の蜜を気に入ってくれたようでなによりです。
私たち、これでお友達ですよね?
「はい、そこまで!」
「あ……」
彼から蜜を取り上げる。
切なそうな、それでいて狂ったような表情の彼に、私は提案します。
「もっと欲しい、ですか?」
「ほしい! くれぇ!」
「なら今度こそ、知っていることは全部、話してくださいね」
兵士さんは素直になったのでしょう。
早口で、すべてを喋ってくれました。
「もうすぐ皇太子殿下が、王都を内側から襲撃なさる! オレたちはその邪魔が入らないように、ガルデーニア王国の王都へ続く道を封鎖していただけだ!」
「帝国の皇太子も、結婚式に、呼ばれているん、ですか?」
「妹君である帝姫フロイントリッヒェ様が輿入れされるからな。殿下はすでに王都へ到着されている!」
「なるほど、なるほど」
つまりグランツ帝国は、ガルデーニア王国に宣戦布告をするつもりってことね。
しかも王都にお呼ばれしているのをいいことに、武勇で有名な皇太子──金虎皇子は、そのまま王都を制圧しようって魂胆なんだ。
でも、普通に考えたら、そんな計画は失敗する。
金虎皇子は手勢を連れてきているとはいえ、あくまで帝国側は結婚式に呼ばれているだけ。
兵士の数は、王都を制圧できるほどはいない。
「もしかして、魔王軍とも、グルだったりします?」
「詳しくは知らないが、今回の作戦に魔王軍も関わっているのは間違いない! なにせオレたちにも一匹、魔族の協力者がいるからな!」
「やっぱり、魔王軍かー」
グランツ帝国単独では、ガルデーニア王国の王都を堕とすことはできない。
そこで登場するのが、魔王軍ってことだね。
獣耳族の集落で出会った魔王軍の獣鬼マンタイガーは、王都へ進軍する途中だった。
魔王軍が王都を攻撃するのと、帝国の金虎皇子が王都を襲撃をするのは、どう考えても無関係ではないはず。
帝国は魔女王と繋がっていた。
ということは、魔王軍とも繋がっていてもおかしくない。
「これがオレの知ってることの全部だ! だから早く、蜜をくれぇええ!」
「まだ、知りたいことが、ひとつ残っています」
エーデルワイスを魔王軍が襲撃したことを、王都に知らせたくないから情報封鎖をしていたのはわかった。
伝令の人も、捕まっていたしね。
だけど、大都市であるエーデルワイスが突然魔王軍に襲われるというのは、どう考えても大事件なんだよ。
だからこそ、このことは至急王都に知らせなくてはならない。
馬による伝令はもちろん、他の緊急の伝達手段を行う必要がある。
「質問です。鳥は、どうしましたか?」
姉のトゥルペは伝令だけでなく、王都へ鳩も放っていた。
帰巣本能を利用し、品種改良されたその伝書鳩は、数日も経たずに王都へとたどり着く。
エーデルワイスが魔王軍に襲われて、すでに四日が経っていた。
鳩が無事であれば、もう王都にこのことが伝わっているはず。
街道を封鎖して伝令を捕獲しただけでは、情報は完全には封鎖されない。
とはいえ、空を飛ぶ魔王軍の魔族が存在する辺境の地や魔族領なら、途中で鳩が捕まることはある。
でも、ここは人間が支配する安全地帯。
事故が起きない限りは、鳩は無事に王都へ飛んで行く。
「エーデルワイスから、飛んで行った鳩は、捕まえたんですか?」
「オレたちじゃ、鳩は捕まえられない……」
「そうですよね」
飛んでいる鳥を落とすのは至難の業。
いくら弓の名手だとしても、遥か上空を飛ぶ鳩を一撃で仕留めるのは難しいよね。
私は蜜を一滴、兵士さんの口に垂らします。
すると兵士さんは、あっさり教えてくれました。
「鳩は魔王軍の管轄だ! あいつが空で待ち構えて、鳩を全部狩ったんだ!」
「あいつ……?」
そういえばさっき、魔族の協力者が一人いるって言ってたよね。
ということは──。
「ここに一匹、魔族が、いるの?」
この近くに、帝国に協力している魔族が隠れている。
私がそのことに気が付いたのと同時に、ざわざわと、近くの林が不自然に揺れ始める。
そして次の瞬間、何かが林から空へと向かって飛び立った。
「あ、あれは……!」
人間くらいの大きさのソレは、見覚えのあるシルエットをしていました。
腕は鳥の翼で、足も鳥の足。
それでいて胴体と顔は人間の女性と同じ──半人半鳥。
ハーピーだ!
いつもお読みいただきありがとうございます。申し訳ないのですが、一週お休みをいただきます。どうぞよろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.
次回、ハーピーとの再会です。







