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329 帝国の暗躍

4/26(日)の更新はお休みになります。

次回更新日は5/3(日)になりますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

 エーデルワイスから伸びる街道で、一人の男性が巨大な植物に絡み取られていた。


 彼の名前は、帝国の剣士ヤクシャさん。

 誰かの弟子だと名乗っていた彼は現在、私がテッポウウリマシンガンで植え付けたモウセンゴケに捕われ、身動きひとつ取れずにいました。


 ネバネバの粘着質の腺毛(せんもう)が触手のように(うごめ)き、成人男性を蹂躙(じゅうりん)する光景は、なかなか衝撃的なものでした。


 私としては何度か見たことがあった気がしなくもない光景だけど──少なくとも、ここにいる残りの帝国の兵士さんたちからすれば、この世の終わりとでも思ったんだろうね。

 顔を青ざめさせながら、私に慈悲を求めるような視線を送ってきているよ。


「降伏してくれたら、命までは取りません。もっとも……あの人みたいに、なりたければ、別ですが」


 チラリと、兵士さんたちへと視線を向ける。

 私の蔓に拘束されて捕まっている兵士さんたちは、先を争うように口を開きました。


「降伏! 降伏します!」

「ああはなりたくない」

「オレたちは命令されただけだ。敵対するつもりはないんだ!」

「命だけはご勘弁を」

「あんな死に方はイヤだ」

「全部……全部話します!」


 いやあ……あの人、死んでないけどね。

 モウセンゴケでもみくちゃにして、そのまま気絶しているだけだし。

 でもちょうどいいから、彼らには少し勘違いしてもらいましょうか。

 私は最も顔を青ざめさせている兵士さんへ、問いかけます。


「それで、あなたたちは、帝国の兵士さんたちで、間違いありませんね?」


「そうだ……オレたちは栄えあるグランツ帝国の人間だ」


「なのに、帝国の人が、こんなところで、道を塞いで、いたんですか?」


「それは……命令で……」


「どんな命令ですか?」


「エーデルワイスから出た者を、この先に通すなと……」


「なぜ?」


「情報を封鎖するのが目的だと、聞いている。エーデルワイスで起こったことを、外に知らせたくないらしい」


 なるほど、情報封鎖ですか。

 侵略や街の封鎖が目的にしては、やけに兵士の数が少ないと思っていた。

 でも情報の遮断が目的なら、この人数で道を塞いでいたのも理解できる。

 つまりエーデルワイスから王都へ向けた伝令も、この人たちに阻止されていたってことだね。


「街から来た、伝令は、どうしました? まさか……」


「まだ殺してない。情報を吐かせるために捕まえてある」


 すぐさま兵士から伝令の居場所を教えてもらい、妖精のキーリに捜索をお願いします。

 林に飛んで行ったキーリは、すぐに戻ってきて「あっちで縛られてたよー!」と教えてくれました。


 よ、良かったー。

 エーデルワイスはイリス(わたし)の故郷。

 公爵令嬢であったイリス(わたし)としては、民が殺されるのは許せないからね。

 もし殺されていたら……この方たちにはお花の肥料になってもらっていたかもしれないよ。


 安心したところで、気を取り直します。

 だってまだ話は終わっていないから。



「でも、情報封鎖だけが、目的じゃないですよね?」


「…………」


 ここで情報封鎖をしても、時間が経てばエーデルワイスの人たちがこのことに気が付く。

 そうしたら、すぐにでも騎士団がここに押しかけるはず。


 たった十人程の兵士たちが、騎士団からこの道を守れるとは思えない。

 何もしなくとも数日後には、この街道封鎖は解除される未来だったのだ。


 ──つまり、なにか目的があるってことだよね。


 帝国が王国に無断で侵入し、武力をもって道を塞いでいる。

 こんなの、問題が起こらないわけないよね。

 いずれ両国の間で国際問題になるのは目に見えている。


 それを理解していないグランツ帝国ではない。

 それなのに、彼らはあえてここで情報封鎖をしていた。


「情報封鎖なんかしても、長くは、もたなかったはず。それくらい、私でもわかりますよ」


 この周囲に、帝国の軍隊は存在しない。

 なにせここは国境付近でもない、エーデルワイス公爵領のど真ん中なのだ。


「ならグランツ帝国は、なにをする、つもりなんですか?」


 我がガルデーニア王国と、お隣のグランツ帝国は、大昔は敵対していた時代もあった。

 それでも魔王軍の脅威などもあって、最近では友好国として手を結んでいた。


 塔の街の領主マンフレートさんと、帝国の姫フロイントリッヒェの婚礼は、両国の融和の証しでもある。

 近日中に、ガルデーニア王国の王都で、彼らの結婚式が行われる予定だ。

 でもそんな晴れのお祝いがあるというのに──なにやら王都で暗躍の気配がしているのを、私は知っていた。


 グランツ帝国は裏で魔女王と繋がっており、皇太子は魔女の味方をしていた。

 というか、帝国の妃が魔女王だった。

 あれだけ暗躍が好きな人たちだったし、悪だくみをしないなんてことは考えられない。

 だから、もう一度尋ねます。


「帝国はこれから、なにをする、つもりなのですか?」


「それは……」


 兵士さんは、言いづらそうに口をつぐみます。

 いくら恐怖が(まさ)っていても、やっぱり敵には情報を渡したくないみたい。

 いろいろと怖がらせちゃったから、仕方ないかもね。


 ならもう少し仲良くなりましょうか。

 だって私たち、まだ知り合ったばかりですもの。

 お友達になれば、素直に話してくれますよね。


「そういえば、あなた……怪我して、いますね?」


「え、怪我? いや、どこも怪我はしていないが……」


「治療しなくては、大変です。ちょうどここに、聖蜜があります」


「そ、それは聖蜜!?」


 兵士さんがよだれを垂らしながら、続けます。


「しかもその色の濃さと輝き……水で薄めたものでもなく、原液だと!?」


「私、聖蜜を出せるんです。先ほどは、失礼いたしました。友好の証しに、一口どうぞ」


「……ゴクリ」


 木で作ったコップに、聖蜜を注ぐ。

 そのコップを、兵士さんの口元に近づけた。


「聖蜜は、かなり高価なもの、らしいですよ」


「知っている! たしか(たる)ひとつで家が一軒建つとか……」


「聖蜜を、飲んだことは、ありますか?」


「一度もないが、聖蜜の名は帝国にも轟いている。聖蜜を飲んだのを上司に自慢されたことだってあった」


「なら、もう自慢されずに、済みますね」


 私がニコリと微笑むと、兵士さんが口をあーんと開けました。

 すかさずコップの中身を、ゆっくりと流していく。


 ──ごく、ごく、ごく。


 兵士さんが聖蜜を飲み干していく。

 その様子を眺めていた他の兵士たちも、「なんてうらやましい!」「俺にもくれ!」などと叫んでいた。

 そうしてコップ一杯分の聖蜜を堪能した兵士さんが、(とろ)けた顔で喜びの声を上げる。


「う、旨い! 濃厚な蜜の味がどんんどん口に広がっていって、幸福感がすごい……この味、噂以上だ……」


「おかわりも、ありますよ?」


「く、くれッ!」


 兵士さんが二杯目の聖蜜を飲み干す。

 でも、それだけでは止まらない。


 私が聖蜜を出して蔓に付着させると、兵士さんはその蔓に直接かぶりついてきました。

 もう自分が文明人であることなど、忘れてしまったのでしょう。

 コップを使わずに、蜜をペロペロし始める。


「う、うまいぃ……もっと……もっと聖蜜を、オレに食べさせろぉ……」


 その様子は、まるで蜜に飢えた熊のよう。

 クマパパほどではないにしろ、彼の目にはもう蜜しか映っていないみたい。


 今回は特別に、普段よりも濃度強めの蜜を抽出しておいたからね。

 とりあえず、私の蜜を気に入ってくれたようでなによりです。

 私たち、これでお友達ですよね?


「はい、そこまで!」


「あ……」


 彼から蜜を取り上げる。

 (せつ)なそうな、それでいて狂ったような表情の彼に、私は提案します。


「もっと欲しい、ですか?」


「ほしい! くれぇ!」


「なら今度こそ、知っていることは全部、話してくださいね」


 兵士さんは素直になったのでしょう。

 早口で、すべてを喋ってくれました。


「もうすぐ皇太子殿下が、王都を内側から襲撃なさる! オレたちはその邪魔が入らないように、ガルデーニア王国の王都へ続く道を封鎖していただけだ!」


「帝国の皇太子も、結婚式に、呼ばれているん、ですか?」


「妹君である帝姫フロイントリッヒェ様が輿入れされるからな。殿下はすでに王都へ到着されている!」


「なるほど、なるほど」


 つまりグランツ帝国は、ガルデーニア王国に宣戦布告をするつもりってことね。

 しかも王都にお呼ばれしているのをいいことに、武勇で有名な皇太子──金虎皇子は、そのまま王都を制圧しようって魂胆なんだ。


 でも、普通に考えたら、そんな計画は失敗する。

 金虎皇子は手勢を連れてきているとはいえ、あくまで帝国側は結婚式に呼ばれているだけ。

 兵士の数は、王都を制圧できるほどはいない。


「もしかして、魔王軍とも、グルだったりします?」


「詳しくは知らないが、今回の作戦に魔王軍も関わっているのは間違いない! なにせオレたちにも一匹、魔族の協力者がいるからな!」


「やっぱり、魔王軍かー」


 グランツ帝国単独では、ガルデーニア王国の王都を堕とすことはできない。

 そこで登場するのが、魔王軍ってことだね。


 獣耳族の集落で出会った魔王軍の獣鬼マンタイガーは、王都へ進軍する途中だった。

 魔王軍が王都を攻撃するのと、帝国の金虎皇子が王都を襲撃をするのは、どう考えても無関係ではないはず。


 帝国は魔女王と繋がっていた。

 ということは、魔王軍とも繋がっていてもおかしくない。


「これがオレの知ってることの全部だ! だから早く、蜜をくれぇええ!」


「まだ、知りたいことが、ひとつ残っています」


 エーデルワイスを魔王軍が襲撃したことを、王都に知らせたくないから情報封鎖をしていたのはわかった。

 伝令の人も、捕まっていたしね。


 だけど、大都市であるエーデルワイスが突然魔王軍に襲われるというのは、どう考えても大事件なんだよ。

 だからこそ、このことは至急王都に知らせなくてはならない。

 馬による伝令はもちろん、他の緊急の伝達手段を行う必要がある。



「質問です。鳥は、どうしましたか?」



 姉のトゥルペは伝令だけでなく、王都へ鳩も放っていた。

 帰巣本能を利用し、品種改良されたその伝書鳩は、数日も経たずに王都へとたどり着く。


 エーデルワイスが魔王軍に襲われて、すでに四日が経っていた。

 鳩が無事であれば、もう王都にこのことが伝わっているはず。

 街道を封鎖して伝令を捕獲しただけでは、情報は完全には封鎖されない。


 とはいえ、空を飛ぶ魔王軍の魔族が存在する辺境の地や魔族領なら、途中で鳩が捕まることはある。

 でも、ここは人間が支配する安全地帯。

 事故が起きない限りは、鳩は無事に王都へ飛んで行く。


「エーデルワイスから、飛んで行った鳩は、捕まえたんですか?」


「オレたちじゃ、鳩は捕まえられない……」


「そうですよね」


 飛んでいる鳥を落とすのは至難の業。

 いくら弓の名手だとしても、遥か上空を飛ぶ鳩を一撃で仕留めるのは難しいよね。


 私は蜜を一滴、兵士さんの口に垂らします。

 すると兵士さんは、あっさり教えてくれました。


「鳩は魔王軍の管轄だ! ()()()が空で待ち構えて、鳩を全部狩ったんだ!」


「あいつ……?」


 そういえばさっき、魔族の協力者が一人いるって言ってたよね。

 ということは──。



「ここに一匹、魔族が、いるの?」



 この近くに、帝国に協力している魔族が隠れている。

 私がそのことに気が付いたのと同時に、ざわざわと、近くの林が不自然に揺れ始める。

 そして次の瞬間、何かが林から空へと向かって飛び立った。


「あ、あれは……!」


 人間くらいの大きさのソレは、見覚えのあるシルエットをしていました。

 腕は鳥の翼で、足も鳥の足。


 それでいて胴体と顔は人間の女性と同じ──半人半鳥。



 ハーピーだ!

いつもお読みいただきありがとうございます。申し訳ないのですが、一週お休みをいただきます。どうぞよろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.


次回、ハーピーとの再会です。

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― 新着の感想 ―
これ直接血液や脳内注いだらどうなるんだろう?
おおぅ… もし麻薬が害ではなく回復魔法並な益を齎す場合、紅茶戦争が実史以上にやばいことに成ると解る情景っすねw
伝令さん、生きていてよかった イリスの故郷のまわりにいるハーピーって パルカさんか?
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