330 ハーピーとの再会
先週はお休みいただきありがとうございました!
ハーピーとは、顔と胴体は人間の女性と同じだけど、手足が鳥の翼と脚になっている魔族のことです。
半人半鳥であるハーピーは、半人半花である私と似たような存在ともいえるね。
そんなハーピーが突然、林から現れた。
当然、驚かないわけないんだけど、私はそのハーピーに見覚えがありました。
「黄色いハーピー……まさか!」
間違いない。
彼女は魔王軍の一員であり──私のお友達でもあるハーピーだ。
林から飛び出てきたそのハーピーに向けて、声をかけます。
「もしかして、パルカさん!?」
「これはこれは紅花姫様ではないですか! 此方、再会できて嬉しい!」
こちらに気が付いたハーピーのパルカさんが、くるりと空中で旋回します。
そのまま滑空しながら、私の前に舞い降りてきました。
うん、やっぱりそうだね。
彼女は、魔王軍のハーピーのパルカさんだ!
魔王軍に所属している彼女は、私と炎龍様の蜜の交換便を引き受けてくれているんだよね。
定期的に私から蜜を預かりに来ていたんだけど、そういえば最近はお見かけしていなかった。
だから久しぶりに蜜を受け取りに来たのかなと思えなくもないけど、この状況ではさすがに違うよね。
もしそうなら、身を隠していたのはおかしいから。
となると、思いつくのは──。
「また私の、ストーカーを、していたわけじゃ、ないですよね?」
「それは此方の唯一の楽しみ。だから許してほしい」
パルカさんは、兄である四天王の黄金鳥人ガルダフレースヴェルグと同じで、聖女イリスのストーカーでもありました。
とはいえ、ストーカーはご遠慮願いたい。
私は貴族時代を思い出し、微笑みながら小首をかしげます。
「……パルカさん?」
「いまの冗談! 此方、ここには仕事できた!」
「わかってるよ。私も、冗談で言った、だけだから」
さっき私が倒した帝国の兵士たちは、「魔族の協力者が一人いる」と言っていた。
それから考えられる答えは、ひとつ。
「パルカさんの仕事って、そこの帝国の兵士の、手伝いをすること、ですよね?」
「それが此方の今の仕事。よくわかったと驚愕する」
そりゃわかるよ。
だってここにハーピーがいる理由が、他に思いつかないもん。
つまり、エーデルワイスから放たれた伝令の鳩を捕獲したのは、パルカさんだってことね。
それにしても、パルカさんとは久しぶりに会った。3カ月ぶりくらいかな。
最後に彼女と会ったのは、森でのパーティ以来。
あれから天使のパンディアさんと戦ったり、闇の女神ヘカテと戦ったり、ドリュアデスの森から旅に出てエーデルワイスを救ったりと、色々とあったよね。
おかげでパルカさんとは、久しぶりに顔を合わせた気がするよ。
彼女もそう思ったのか、懐かしそうにパーティのことを話し始めました。
「紅花姫様とはあのパーティー以来。此方、ずっと会いたかった」
「私も、パルカさんとまた会えて、嬉しいですよ。あの日はあまり、お話ができません、でしたし」
「あの時に紅花姫様に作ってもらった焼き魚は、とても旨かった。此方、気に入った」
「……焼き魚?」
いったい何の話だろう。
そういえばパルカさんは、あの森のパーティーでは焼き魚の調理を担当していたんだっけ。
なぜパルカさんが焼き魚に挑戦しようとしたのか、私は知らない。
もちろん私がパルカさんに焼き魚を提供したことも、一度もなかったはず。
これはいったい……どういうことなんだろう?
「紅花姫様が教えてくれたおかげで、此方は焼き魚作りの名人になった。感謝してる」
「そ、そう? なら良かったけど……そんなこと、あったっけ?」
まったく記憶にない。
パルカさんに焼き魚の作り方を教えるなんてイベントがあれば、覚えていてもいいはずなのに。
私がうーんと唸っていると、パルカさんが何かを思い出したようにハッとしました。
「そういえばあの紅花姫様は、紅花姫様であって紅花姫様じゃなかった。此方、間違えた!」
「え!?」
「でもオリジナルにも感謝しないと。此方、礼を言う」
「……どういたしまして?」
今、私のことをオリジナルって言った?
ということは、もしかして──私の分身が、なにかしたの??
あの森でのパーティーの時、分身アルラウネたちに料理作りを任せた。
もしかしてパルカさんが焼き魚を教えてもらったのは、その分身の誰かからってことなのかも。
い、いつの間に……。
まったく知らなかったよ。
森に戻ったら、何があったのか分身たちに問い詰めないとね。
「それで……なんでパルカさんが、こんなところで、帝国の兵士と、一緒に仕事を、しているの?」
「此方、任務でここにいる」
「どんな任務? もしかして炎龍様に、命令されたの?」
「…………さすがにそこまでは、教えられない。此方、黙秘を主張する」
「ふーん……」
魔王軍の仕事だから、私には秘密ってわけね。
ここで情報封鎖をする手伝いをしていたのはよくわかるけど、なぜ帝国の兵士の協力をしているかなど、聞きたいことはたくさんある。
素直に教えてくれないのは残念だけど──大丈夫。
パルカさんとも長い付き合いになってきた。
だから、彼女のことはよく知っているのだ。
私はわざとらしくコホンと咳払いをしてから、尋ねます。
「そういえば最近は、聖蜜を取りに、来なかったね。もしかして……飽きちゃった?」
「そんなことない! 聖蜜を舐めるのは、此方の唯一の楽しみ。だからまた恵んでほしい」
さっき「私のストーカーをするのが唯一の楽しみ」って言ったのはどうした。
唯一が二つになってるよ!
とにかく、パルカさんは私の蜜の大ファン。
上司である炎龍様共々、かなりの常連客になっているよね。
だからこそ、話を聞き出しやすい相手でもある。
私は先ほど使用した木製のコップを取り出し、蜜をどんどん注いでいく。
周囲に甘い香りが充満していくのにつられて、パルカさんの顔が少しずつこちらに近づいてきた。
そして私がチラリと視線を向けると、彼女はよだれを垂らしながら口を開きました。
「紅花姫様……その蜜、此方が貰ってもいいですか?」
よし!
ハーピーが餌に食いついたよ!
私は最大限申し訳なさそうにしながら、応えます。
「パルカさんに、蜜をあげたいのは、やまやまなんだけど……」
「え、ダメ? 此方、なにか悪いことした!?」
「私とパルカさんの、仲だし、久しぶりの、再会だからね。友好の証しに、蜜をプレゼントしてもいいよ」
「やったー! 此方、蜜が恋しくて仕方なかった」
「だって私たち、友達、だもんね?」
「その通り! 此方と紅花姫様は、友達!」
「なら、その友達のお願いを、ちょっとだけ、聞いて欲しいんだけど」
「聖蜜と友達のお願いなら仕方ない。此方、なんでも教える!」
私は蜜が入ったコップをパルカさんに渡します。
ゴクゴクと蜜を喉に流し込んでいくと、すぐに空にしてしまいました。
「旨い! もっと飲みたい!」
「おかわりも、ありますよ。でもその前に、魔王軍がなにをしているのか、教えてくださいね」
「わかった。此方、宰相様の命令でここにいた」
「……宰相様?」
パルカさんは、かつて魔王軍宰相の氷龍の部下をしていた。
氷龍は、炎龍様のお姉様だね。
まだ会ったことはないけど、お噂はよく耳にしているよ。
「でもパルカさんって、炎龍様の、部下だったよね? なんで宰相の、命令を受けて、いるの?」
「グリューシュヴァンツ様は現在、森でバカンスを楽しんでいる。だから暇だったから、宰相の命令を受けた」
「森でバカンス……あれか!」
私が最初に住んでいたあの森で、炎龍様と出会ったのは、そもそも炎龍様が森にバカンスをしにきていたから。
炎龍様はドリュアデスの森の端っこで、クマパパを狩るのが趣味なんだよね。
毎年夏になると、炎龍様は熊狩りに行かれる。
魔王城で炎龍様のメイドアルラウネをしていたとき、そのことを知ったんだっけ。
まだ夏じゃないのに、今年は早いよ。
「宰相様は、グリューシュヴァンツ様が休暇中の間に、ガルデーニア王国を攻めることにした。囚われた魔女王を助けるのが目的だと聞いてる」
「え? じゃあ炎龍様は、今回のことを、知らないの?」
「グリューシュヴァンツ様に情報が届かないように、なにやら宰相様が企んでいる様子だった。だから知らない可能性が高い」
「なるほど……今回のことは、炎龍様は、無関係だったんだ」
魔王軍は一枚岩ではない。
だからこそ、これは好機なんじゃないの?
魔王軍宰相である姉龍は、炎龍様に内緒で今回のことを実行した。
なら炎龍様にこのことを知らせれば、魔王軍内部になにか影響を与えることができるかもしれないよ!
なにせ炎龍様は、平和主義者。
人間とはあまり戦うつもりはないみたいだからね。
「事情はわかったけど、なんでグランツ帝国の兵士と、一緒だったの?」
「この人間たちの親玉と、宰相様が同盟を結んだ」
「なんで魔王軍が帝国と同盟なんか結んでるの!?」
「帝国は魔女王の支配下になった。だから魔女王奪還と王都陥落が目的」
そういえば、帝国の現皇帝の第三夫人──儚姫は、魔女王が化けた姿だったね。
しかも皇太子である金虎皇子の妃──皇太子妃マライは、実は魔女だった。
魔女っこの村で戦闘になったから、間違いないよね。
つまり帝国は、陰で魔女王に操られていたのだ。
魔王軍と帝国が協力関係になる理由はわかった。
きっと、ここにいた兵士たちは、そういった細かい事情は知らないんだろうね。
それでも、魔王軍と帝国が手を組んだというのは困ったね。
しかも帝国は、結婚式の来賓客として堂々と王都に入り込み、そのまま王都を襲撃しようとしている。
「魔王軍と帝国が、いつ王都を襲撃するか、知ってる?」
「詳しくは知らないけど、数日のうちには決行するらしい。だからここで情報封鎖していた」
「そんな……」
ここから王都まで、ウッドホースゴーレムの足でも一週間はかかる。
時間がない。
陸路で移動しているんじゃ、間に合わないかも。
このままだと、何も知らない王都は、魔王軍と帝国軍に襲われてしまう。
幼少期からずっと生活していた王都は、私にとっては第二の故郷のような場所。
そんな大切な場所を、火の海にはさせたくない。
どうしたらいいんだろうと悩んでいると、突然、頭を優しく叩かれました。
──トントン。
視線を上げると、さっきから鉢植えアルラウネを抱きかかえている魔女っこと目が合います。
「……ルーフェ?」
「アルラウネ、大丈夫」
ニコリと微笑む魔女っこの表情から、何が言いたいのか理解できた。
たしかにそれなら、数日以内に王都までつけるかも!
「王都には、私とルーフェで行く」
魔女っこがコクンと頷いてくれた。
以心伝心とは、こういうことをいうのかもしれないね。
となれば、あと私にできることは一つだけ。
もう一度、ハーピーへと視線を戻します。
「パルカさんに、お願いがあります」
「此方にお願い?」
「炎龍様を、探してください。それで、伝言をお願いします」
部外者である炎龍様をこの出来事に巻き込むためには、それなりの代償が必要だと思う。
とはいえ、背に腹は代えられない。
いくらモンスターになったとはいえ、私は聖女イリスでもあった。
元聖女として、ガルデーニア王国の民が傷つけられるのを黙って見てはいられないからね。
そのためなら、なんだってしますとも。
「炎龍様には、こう伝えてください──」
お読みいただきありがとうございます。
パルカさんの焼き魚については311話の『分身 とあるアルラウネの一日』についてのことになります。
次回、イリスちゃん観察記録帳 No.59です。







