328 街道封鎖
私、植物モンスターのアルラウネ。
エーデルワイスを出発して王都に向かっていたら、なぜか兵士に呼び止められてしまいました。
道に柵が設置されていて、武器を持った数名の兵士が行く手を塞いでいる。
街道が封鎖されているんだ。
魔女っこが心配そうにこちらを見る。
「アルラウネ……あれ、なんだろう?」
「わかんない。とにかく、言われた通り、馬車を止めたほうが、いいね」
そういえば前にも馬車が襲われたことがあったよね。
あの時は、盗賊──じゃなくて、盗賊だと思っていた人たちは領主様に雇われた冒険者だった。
そして襲われてたはずの獣耳族のほうが泥棒だったんだよね。
なんやかんやあって、その獣耳族は仲間になったわけだけど、今回はあの時とは少し違う。
なぜなら道を塞いでいる兵士は、エーデルワイスの旗を掲げていたからだ。
御者台にいたトレントとキーリは奥へと隠れる。
代わりに魔女っこと私が御者台に座りました。
もちろん私は下半身を布で隠して、人間の子どものフリをしているよ。
「検問だ! お前たちを改めさせてもらうぞ!」
柵の手前で馬車を停止させた私たちに向かって、兵士が叫んだ。
続いて、別の兵士がウッドホースゴーレムを見ながら「なんだこの馬は!?」と、驚いたように声をあげる。
兵士の数は五人。
いや、道の外れで休んでいる者も含めれば、十人もいる。
そのうちの一人の兵士が、魔女っこに尋ねました。
「お前たち、エーデルワイスから来たな?」
「そうだけど……」
「やけにデカい馬だな……何者だ?」
「……わたしたちは、商人」
魔女っこが金のプレートを取り出す。
塔の街の領主様からもらった『聖蜜の売買許可証』だね。
「たしかに商人のようだな。荷は聖蜜か?」
「……そう」
魔女っこと兵士のやり取りを見ていると、私にひとつの疑問が湧いた。
──これ、なんの検問?
まだエーデルワイス公爵領内なわけで、こんなところに関所があるという記憶はない。
もちろん地図にも、この場には何も載っていないよ。
となれば思いつくのは、あの出来事だ。
魔女っこに代わって、今度は私が質問をします。
「もしかして、なにかあったん、ですか?」
「エーデルワイスでアレがあっただろう?」
「……アレ?」
「大きな変事が街で起きただろう?」
「……魔王軍が、街を襲ってきた、ことですか?」
「そう、それだ!」
魔王軍がエーデルワイスを襲ったことで、道に防柵を作るのは納得できる。
別動隊がいた場合を考えて、道の警備を厳重にしているのかもしれない。
それだけでなく、付近から逃げてきた難民への対策を行った可能性だってある。
でも、なにやら様子がおかしい。
休んでいた兵士たちが立ち上がり、馬車の周囲を囲んでいく。
「ひとつ、質問があります。この検問は、どなたのご命令による、ものでしょうか?」
「エーデルワイス公爵代理様のご命令だ!」
それ、トゥルペのことじゃん。
でも私、トゥルペからそんな話は聞いていないんだけど。
姉から教えてもらったことは、エーデルワイスでの出来事を王都へ知らせる伝令を送ったということだけ。
──やっぱり、何か変だ。
エーデルワイスは今回の件で、街の警備を強化したけど、それは周辺にまでは及んでいない。
なにせ魔王軍は私と魔女っこで完全に撃退してしまったからね。
周囲数キロに魔王軍の気配がないことは、私の根が感知済みです。
なのでエーデルワイスは安全地帯に戻っているため、兵士たちの労力は街の復興に当てられていた。
それなのに、この兵士はなぜここで警備をしているんだろう?
「あなたのその格好、エーデルワイス騎士団の、ものですよね?」
「そうだが?」
「ということは、生まれも、エーデルワイスで?」
「もちろんそうだ。それがどうした?」
「なら、私の顔を見て、なにか思うことは、ありますか?」
「…………は? お前の顔だと?」
見たところ、この兵士の年齢は30代。
それでエーデルワイス生まれであれば、聖女イリスの顔を知らないわけがない。
たとえ今の私が子アルラウネになっているとはいえ、子ども時代のイリスの絵画はエーデルワイスのいたるところに飾られていたからだ。
だというのに、この兵士のこの反応。
間違いない。
この兵士は、嘘をついている──。
「あなた……エーデルワイスの人間では、ありませんね?」
「!?」
エーデルワイスの人間が、聖女イリスの顔を知らない。
それだけでも怪しいのに、この兵士の発音は、ちょっと帝国訛りがあった。
「エーデルワイスどころか、もしかして、ガルデーニア王国の者ですら、ないのでは?」
「……もういい、こいつらを始末しろ」
兵士の命令とともに、周囲の兵士たちも剣を抜いた。
やっぱりこいつら、エーデルワイスの兵士じゃないじゃん!
どうりで怪しいと思ったよ。
というか馬車に乗ってただけで、また襲われたのですが。
私たち、よく襲われるね。
馬が木製のゴーレムで怪しさ抜群なのが原因かなと思わなくもないけど、今回の理由も違いそう。
とりあえず、私たちを襲う目的とこいつらの正体を教えてもらいましょうか。
「アルラウネ?」
「ルーフェは、そこにいて。私がやるから」
こういう時のために、私は御者台に移動していたのだ。
下半身を隠している布を取り払い、蔓を伸ばす。
もちろん、敵の迎撃だよ!
「植物の蔓!?」
「なんだあいつ、人間じゃない?」
「モンスターだッ!」
「ぐわっ! 体が縛られて、動けない……!」
迫りくる兵士たちを、次々と蔓で縛り上げていく。
今さら、剣を持っただけのただの兵士を怖がる理由はないからね。
それに向こうは私たちを奇襲しようとしたみたいだけど、モンスターであることを隠していた私が奇襲をし返した形になった。
悪いけど、あなたたちくらいだと敵にすらならないよ。
「こいつらただ者じゃないぞ!」
「まさか魔王軍の残党か!?」
「なら我々を襲うはずがない。おそらく前と同じで、エーデルワイスから放たれた伝令だろう」
「うろたえるな! こちらにはクビラ様がいる!」
「いや、クビラ様は例の標的を探しに出かけられてご不在だ」
蔓に捕まった兵士たちが、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。
口も蔓で縛ってやろうかと思ったけど、混乱しているのか、いろいろと勝手に喋ってくれている。
ふむふむ、だいたい理解してきたよ。
「ねえアルラウネ。この人たち、何者なんだろう?」
「その話を、する前に……敵がもう一人、残っているみたいだね」
馬車を襲った兵士たちを検分していると、林の奥から一人の男が出てきました。
その男は、見るからに他の兵士とは一線を画していた。
身の丈を超すほどの強大な剣を持っており、歴戦の戦士の雰囲気を醸し出している。
剣術の達人というオーラが出ているね。蔓に捕まっているこの兵士たちの何倍も強そう。
その男はこちらに近づきながら、余裕そうに話し出す。
「雑魚の伝令しか通らないと思って退屈していたが、ようやく骨のある奴がやって来たじゃねぇか」
「……あなたは?」
「オレか? 聞いて驚け……俺ぁかの有名な帝国十二剣将が一人クビラ様の一番弟子ヤクシャだ!」
自信満々に語り出すヤクシャさん。
そんな彼を目にした魔女っこが、頭を傾けながら私に尋ねてきました。
「あの人、誰?」
「……さあ」
知らない人だね。
一応、その長い口上から察するに、誰かの一番弟子ってことはわかった。
とはいえ、彼の師匠だという帝国十二剣将については心当たりがある。
つまり、ここにいる兵士たちは、グランツ帝国の兵士たちということみたい。
なんで隣国の兵士が、こんなところで道を塞いでいるのか。
「とにかく、自己紹介はしてもらったし、もう用はないね」
「アァ?」
「悪いけど、知ってること、洗いざらい、吐いてもらうよ」
「ほざけッ!」
ヤクシャさんが剣先を向けたまま、こちらに突進してきた。
一瞬で間合いを詰めてきたその速度は、称賛に値する。
自信満々に名乗り上げるだけあって、その辺の兵士よりは強い。
でも、しょせんはそれだけ。
ただ強いだけじゃ、相手にもならない。
「えい」
「ハ……!?」
植物生成でテッポウウリを蔓の先端に作り出し、種の弾丸を発射。
ヤクシャさんは剣の達人なんだろうね。
一発目は弾いたけど、それだけ。
人間の反射速度では対応できないほどの種がマシンガンのように彼を襲い、一瞬で勝負が決してしまう。
──スポポポポポンッ!
「ぎゃぁあああああッ!!」
発射された種から発芽したモウセンゴケが触手のようにうねり、ヤクシャさんを絡み取っていく。
ネバネバの粘着質の腺毛が男の身体を蹂躙し、全身粘液まみれになった彼はついに動かなくなりました。
相手が剣の達人なら、離れたところから攻撃すればいいだけ。
まあこの人が相手なら、接近戦でも負ける気はしなかったけど。
近づかれると、馬車が傷つけられるかもしれなかったからね。
それに隣にいる魔女っこに怖い思いをさせたくないから、一方的に決めさせてもらいましたとも。
「さてと。こいつ、どうしようかな?」
ウネウネと動くモウセンゴケに包み込まれたヤクシャさんを、蔓で拾い上げます。
なんかよくわからないけど、気絶してるみたい。
強く締め付けすぎたかな。それとも恐怖で失神しちゃった?
話を聞こうと思ったけど、ちょっとやりすぎちゃったね。
「となると……」
私は蔓で縛り上げたままの兵士たちへ、視線を向けます。
彼らは「ひぃ……」「お助けを……」と、小さく声を漏らしました。
まるで化け物でも見るような目です。
ちょっと心外だよね。
私、こんなにも綺麗なお花なのに。
それを化け物扱いなんてあんまりだよ。
だから、ね──。
ニコリと微笑みながら、優しく丁寧にお願いします。
「あなたたちも、この人みたいに、なりたくなかったら、知ってることを、全部包み隠さず、話してくださいね」
テッポウウリ:ウリ科。実から種子を勢いよく噴出させることから「鉄砲瓜」と呼ばれています。その果実には毒性が含まれており、下剤として用いられていたこともあったとか。
次回、帝国の暗躍です。







