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討魔の剣  作者: とんじる


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6/7

解放

「おまえ、ふざけてるのか?」


 相楽が呆れたような声をだした。昤が被っているのは朝、咲月の家で見つけた、駿がお祭りの屋台で買ったお面だ。何故持ってきたのかは分からない。無意識に近かったが、役に立った。

 

 このお面は元々、お地蔵さんなのに正義のヒーローというデザインで、内容も中々穿った設定のテレビヒーローのものである。テレビ放送直後は子供たちにも人気がなかったが、独特の世界観と設定の妙で物語中盤から子供だけでなく、大人にも人気が出始め、放送終了後もファンを増やしている。ただ、この時代、特撮ヒーローマニアは大きな括りでオ(・)タ(・)ク(・)とされ、少し奇妙な目で見られる事は珍しくない。


「純ちゃん、コイツが地蔵ライダーってんならそうなんだろうよ。お前ら、お面剥いだ奴には賞金だ。」


 白石がパッと財布から金を出す。五、六枚はあるだろう。『飛天使』のメンバーたちがオオッと歓声を上げた。メンバーたちの目が紅く光る……しかし、昤、いや、地蔵ライダーに殺到した者たちは一撃も有効な打撃を地蔵ライダーに当てれなかった。奇妙な動きで躱されてしまう。地蔵ライダーは中国拳法の達人の設定だが、動きは拳法のそれでは、ない。


 メンバーは数を頼んでライダーを拘束しようとしたが、タックルすら透かされ、頭に血が昇ってしまった。攻撃はかすりもしなかった。


◇


 冷静に見ていたのは、特攻隊長の相楽純だった。『飛天使』のメンバーが十数人でかかっても捕まえることすらできないのだ。地蔵ライダーは普通ではない。普通ではない者を相手に、正攻法で臨むのは相楽からすれば、愚の骨頂である。相楽は咲月の傍に立つと、


「地蔵ライダー、お前の女、ここにいるぜ!」


 と叫んだ……いや、相楽は叫んだつもりだった。女を人質に地蔵ライダーのお面を剥ぎ取り、その上でメンバー全員で私刑に処す。そんな絵を頭の中で描いていた。それが訳も分からぬまま、倒れた。相楽は目と喉に何かが刺さった気がした。目の前が、真っ暗になり、やがて、意識も途絶えた。


◇


 昤は咄嗟に『地蔵ライダーを』名乗ったことを後悔していた。中学生にもなって、地蔵ライダーのお面を被って名乗りをあげるなど、クラスメイトが見ていれば失笑ものだろう。

みな、小学生で卒業しなければいけない。お面の下は少々赤面していた。


 以前、祭の日に絡まれた時も感じた。周りの動きがやたらとスローに見える現象が今日も起こっている。見えるだけでなく、こちらは普段通りに動けることを昤は確認した。


 一人目の拳を躱し、蹴りを入れてくる者の横を通り抜け、スパナで殴りつけてきた者には、背後に周り、蹴りを入れた。更に向かってきている者たちの横にすり抜ける。妙な感覚だった。感覚が元に戻ると、『飛天使』のメンバーたちは昤を見失った。そして、急に自分たちの横に立っていることに驚き戸惑った。絶望感に襲われて戦意を喪失している者もいた。昤はそんな連中にも、淡々と加減して拳を奮った。何故かそうした方が良い気がしたのだ。


 昤は『飛天使』の一人が咲月に近づいて行ったのを見逃さなかった。足元に転がっている何かの部品を見つけると素早く拾い、投げた。手触りからして、ボルトとナットだったと思う。続け様に投げると、咲月の横にいた男に見事に命中して、男は倒れた。


◇


(人質にすらならないのかよ……)


 総長・白石徹は、相楽が人質を活かす間もなくやられるのを見て思った。人質が通用しないヤツだっているってことだな……。勝ち目がないのは分かった。弟が清々しい顔をしていたのを白石は思い出していた。


 目の前の地蔵ライダーは、圧倒的な力で『飛天使』を潰してまわった。白石は、自分と相楽が作り上げた組織が、一つ一つ叩き潰されるような感覚を覚えた。その最後の一つ、自分に迫る拳に吹き飛ばされながら、白石はなんだか、気持ちよくなっていた。身体の中から悪いものが抜けてゆく気がした。


◇


 『飛天使』を全員倒した。昤は咲月の無事と、多少汚くはなっているが宇佐美が息をしているのを確認しホッとした。昤は元々喧嘩をするようなタイプではない。目立ちたがりでもないから、此処にいるのが自分でも不思議になっている。


(まだだ……)


 誰かが、呼びかけている。昤がそう思った時、奥の方で何かが蠢いた。そ(・)れ(・)はノソノソとこちらへ出てきて、後ろ脚だけで立ち上がった。よく見かける柴犬程はあるだろうか、大きなネズミだった。紅い目をして、こちらを見ている。しばらく見つめられたが、急にキィキィと耳障りな音を出すと大ネズミの周りにどこからともなく、ネズミが集まりはじめた。大ネズミを中心にどんどん集まってくる。数百は集まったと思ったら、ネズミどもは大ネズミの身体を登ってゆくようにして、昤が見ている間に一匹の特大ネズミへと変化した。


(鉄鼠の眷属だ。滅殺せよ……)


 再び、頭の中に声が響く。大ネズミも昤を敵として認識したのかこちらへ近づいてきた。小さなネズミなら可愛げがあるが、大ネズミは動物園で見たツキノワグマ以上の大きさだ。この大きさでここで暴れられると、咲月や宇佐美を潰しかねない。昤は元々入ってきた入口ではなく、シャッターを開け屋外へ出た。外からはフェンスや積まれた廃車群に囲まれて見えないが、誰かが見たら大騒ぎだろう。テレビの取材が来るかもしれない。そんな呑気なことを昤は考えている。


 大ネズミは昤の後をついてきて、屋外に出ると眩しそうな顔をした。日の光が苦手なのかもしれない。昤は小石を幾つか拾って思い切り大ネズミに投げた。全弾命中、大ネズミは金切り声をあげて怒りを表わにした。太い鎖のような尻尾を鞭のようにしならせて昤に仕掛けてくる。


「うおっ!」


 思わず声をあげてしまう。尻尾はお面を掠めた。お面にほんの少しひび割れが入る。


「このお面は借り物なんだよ。勘弁してくれ」


 昤の呟きを無視するように、大ネズミは尻尾を振り回した。昤も躱しながら何かいい手はないかと考える。大ネズミは食いしん坊なのか時折草やゴミを手づかみに口へ運ぶ。これだけの図体だと、維持するのも大変なのかもしれない。昤は過去に読んだ本の中で、ネズミは図体の割に大食いで、常に食べてないとたちまち餓死してしまうと読んだのを思い出していた。


(確か、エネルギーの消費が激しいのに、エネルギーを貯め辛い身体なんだったかな……)


 大ネズミが突進してきた。昤は横へ飛んで躱したが、大ネズミは軽トラックに激突すると軽トラックを横倒しにしてしまった。軽トラックにも齧りついていたが、流石に鉄の塊は食えないと分かったらしい。大きな歯形を残して再び昤を睨む。


(あんな歯で噛まれたら痛いじゃ、すまないなぁ……)


 昤はヒントを得た気がした。大ネズミは口に入ったものは齧らないと気が済まないらしい。入口に『飛天使』の連中のバイクが並んでいたな、昤は大ネズミをバイクまで誘導した。バイクを背にして大ネズミに小石を投げて挑発する。


 的が大きいだけに石は外しようがない。怒りながら、噛みついてきた大ネズミの攻撃を横に飛んで躱すと案の定、バイクに齧りついた。やはり鉄の塊は食べれなかったようだが、辺りにガソリンの香りが立ち込める。タンクを食い破っだのだろう。大ネズミは幾つかのバイクを薙ぎ倒し、齧った。

 

 石を拾い集め、昤が次に狙ったのは大ネズミの目である。小石の散弾が目に入り、大ネズミはのたうち回った。昤は急いで建物の中に戻ると、宇佐美のポケットからオイルライターを拝借した。以前、宇佐美に胸を叩かれた時、タバコの香りがしたのだ。やっぱり持っていた。流石の宇佐美も抵抗せずにされるがままだ。


 外へ飛び出し、オイルライターに火をつける。着火しない。慣れない作業に二回、三回と映画で観たライターの付け方を真似をして、やっと火がついた。


 少し下がりながら、昤はライターを大ネズミに向かって投げた。


 ボワン!大きな音がして空高く火が上がった。炎は大ネズミの全身に回り、大ネズミはギューと断末魔の声をあげてバタンと倒れた。『飛天使』たちの改造バイクも一緒に燃えている。


 頭の中に声が響く……


(人が集まって来る、家へこのまま戻れ……)


 咲月と宇佐美を連れて行きたいが、昤はこの声に従うことにした。咲月の居場所を教えてくれた声だ。昤はクラリネットの鞄を背負い、咲月の家に向かって自転車を漕ぎ出した。





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