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討魔の剣  作者: とんじる


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5/7

衝突

 日曜日、巫部咲月は自主練習で学校へ向かって歩いていた。誰もいない朝の道路は遠くに車が見えるだけだ。いつもは昤が隣にいるのでおしゃべりしながらの投稿だが、咲月の足取りは少しだけ速い。角を曲がって路地に入った瞬間、背後に人の気配を感じて振り向いた。目の前に鈍く光るナイフが見えた。声をあげなきゃ、そう思った時に


「声出すなよ。顔に傷がつく……」


 抵抗したが、二人がかりであっという間に担ぎ上げられ黒いワゴンに押し込められた。車はスピードを上げて郊外へ向かって行った。


◇


 昤が階下に降りていくと、薫が蔵から大きなザルを出してきた。


「寝る子は育つって言うけど、あんまり寝ると目が溶けちゃうよ。咲月ちゃんなんか、とっくに練習に行ったよ」


 咲月は毎日登校する時にこの家の前を通る。今朝も薫に挨拶して行ったのだろう。その光景が思い浮かぶようだった。日曜日まで学校で練習ってのは純粋に凄いことだ。前に咲月に聞いたら、自宅で夜音を出すのは近所迷惑だから、譜面を覚えたり、指運びの練習をするのだと言っていた。音を出して練習できる学校は貴重なのだろう。


◇


 吹奏楽部では、咲月の仲間たちがざわついていた。咲月は無断欠勤するタイプじゃなかったし、昨日、練習内容の打ち合わせをしたばかりだ。仲の良い女子生徒が顧問に相談して咲月の自宅に連絡をした。松が電話に出て咲月が学校へ着いていないのが発覚した。松が一番先にしたことは、薫への連絡だった。薫は松に落ち着くように言って、咲月の家に向かった。


 独りでいると家の中はがらんとして、いつもより広く見える。宿題は昨夜片づけたし、何となくテレビのチャンネルを回していた。あまり興味のないニュース番組をしばらくぼんやりと観ていると、リモコンを触ってもないのにチャンネルが変わりだした。砂(・)嵐(・)に切り替わると、やがて、音声だけが聴こえてくるようになった。


「……が……咲…………、つか……」


 何かブラウン管が喋っているような気がして昤はテレビを叩いてみる。この時代、電化製品の調子が悪い時はとりあえず、叩いてみるのが常識だった。バン、バンバン……砂嵐のザーっという音の中に音声が聴き取れた。


「咲月が……さらわ……た!……」


「仲……原……城……場へ……」

 

 今度は上からチョップを出すと、テレビの音声がスムーズに聴こえてくる。


「咲月が攫われた!仲田原の工場へ向かえ!」


 パッと砂嵐が止み、ブラウン管に目的地であろう工場が映し出された。遠目に見たことがある国道沿いのスクラップ工場だったろうか。通称・廃工場。元々は機械の工場だったのが倒産をきっかけに次々と持主が変わり、今は廃墟になっている場所だった。


昤はとりあえず廃工場に向かうことにした。ちょうど、一階に降りた時にリビングの電話が鳴る。薫からだった。


「あぁ、昤、あなたにも手伝って欲しいの。松さんちまで来て。」


◇


 松さんの家には薫の他に咲月の父親の亮と母親の渚がいた。二人ともオロオロしている。何が起きているのか知らない駿は不安そうな顔をしている。亮が真剣な顔で昤に頼んできた。


「咲月が吹奏楽の練習に行ってないみたいなんだ。昤、探すの手伝ってくれるか。」


 昤は頷いた。学校への道を自転車で見て帰ることになった。途中までは方向なら一緒だ。そのまま廃工場へ向かおう、昤はそう考えた。渚が私も……と、言いはじめたが、昤は誰か家にいないと連絡がつかなくて困ると主張した。それもそうね……と渚がと昤の手を掴む。意外なほど強い力だ。見ると渚は目に涙を溜めていた。頼みます……と渚は絞り出すような声を出した。昤は頷き、渚の手を強く握り返した。


 渚が駿と自宅待機。薫、亮、松が近所に聴き込みに廻ることになった。昤は自転車に跨ると猛然と走り出した。学校の少し先、市内を縫うように流れる六間川の辺りを目指す。先程テレビで観た廃工場がある。そして、そこに咲月がいるのだ。


◇


 半田が男の顔を殴った。吹き飛んだ男はドラム缶を巻き込む形で地面にひれ伏した。砂埃が舞う。


「もうおわりかよ……宇佐美ぃ、この根性なしがっ」


 立ちあがろうとした男な腹にに半田の蹴りが決まる。よろけながら宇佐美は大声で挑発した。


「オメェら、卑怯なんだよっ、タイマンでこいや!」


 特攻隊長の相楽が立ち上がった。 


「せっかくのゲストなんだからもてなしてやらねぇとな、半田よぉ、ア(・)レ(・)でやろうか」


 相楽は凶悪な顔で『飛天使』の流儀でやらせてもらおうかと……半田と宇佐美を十数人でかこむ。


 宇佐美もここへ連れてこられるまで、リンチを受けていた。木製バットが折れるほどの力で何度も殴られている。左前腕がジンジンと熱く痛むのは折れているのかもしれない。


「宇佐美ぃ……お前の好きなタイマンだ」


 相楽の宣言と同時に半田が宇佐美の懐に飛び込んできた。対応が遅れた宇佐美は半田のフックをもろに喰らってしまった。よろめいた宇佐美は囲いの誰かに支えられ、倒れることを許されない。押されて輪の真ん中に立つと半田の蹴りや拳がとんでくる。


「宇佐美……倒れたらまたコイツを腹一杯ご馳走してやるからな」


 囲いの誰かがそう言って、挑発するようにバットで掌を叩く。殴られ過ぎて目の塞がった宇佐美には殆ど見えなかったが、乾いた音だけがやたらと良く聞こえた。


(もう……どうにでもなれ……)


 宇佐美は渾身のタックルを半田に喰らわせようと飛び込んだ。しかし、足がもつれて地べたに這いつくばっただけである。周囲の嘲笑が響く。


 囲いのメンバーが並ぶ足の隙間から、宇佐美は信じられない者をみた。間違いなく、巫部咲月だった。この殺伐とした場には最も似つかわしくない同級生。学校指定ジャージ姿の巫部は猿轡をかまされ手足を拘束され、コンクリートで補強された床の上に転がされている。


「……ぐっ、オメエら、女まで攫ったのかよ⁈」


 それまでは黙って見ていた白石が囲いの外から近づいてきた。自然と囲いが割れる。地べたに半分這いつくばった宇佐美の髪を掴むと、白石は無理矢理自分の方に顔を向けさせた。宇佐美の目を見て友人に挨拶するようにサラリと話かけた。


「実は、もう一人ゲストを呼んでいるんだ。安心しろ、なぁんもしてないから……この子、ソイツの彼女なんだって……今、迎えに行ってるから、来たら目の前で楽しもうかと思ってね」


 白石の目が紅く怪しく光った気がした。また嘲りの笑い声が響く。


「何ていったっけ?あの中坊……」


「徹、全く覚えてねーのかよ、確か北見とかいう、坊ちゃんだよ。」


 白石に相楽が笑って答えた。宇佐美は昤の顔を思い浮かべながら、来いと来るな、という感情がぐるぐると巡るのが分かった。粘っこい汗が廃工場の地面に落ちた。


◇


 自転車を漕いで学校へ向かう。仲田原の廃工場は、学校より先の田んぼに面している。全速力で漕ぐとスピードが出ている気がした。咲月が凶悪事件に巻き込まれているのだったら少しでも早く助けてやりたいと思っているからだろうか。


 見晴らしのいい通りから路地に入ったところで、鞄が落ちているのを昤は見つけた。平日の朝は中学校へ向かう生徒が多い通学路だが、休日は殆ど通る人はいないのだろう。鞄が無造作に落ちている。すぐに分かった。ま咲月のクラリネットが入った鞄だ。近くに電話ボックスがあったはず……昤は緑の電話に先程渚に貰ったテレホンカードを通した。


 電話に出たのは渚だった。咲月のクラリネットを見つけたことを話した。場所を伝えて、一応、学校まで行ってみると伝え、電話ボックスを出ると、目の前に黒いワゴン車が停まった。男が二人降りてくる。


「オメエ、ちょっと来い。おとなしく車に乗れ」


 どこかで見た顔だと思ったら、祭りの時に宇佐美に絡んでいた男たちだ。


「何か用ですか」


「自転車であんなスピード出すなんて、やっぱり人間離れしてるぜ、オマエ。おとなしく乗らないと彼女がどうなるか……」


ゴン!


 男が言い終わる前に昤はボンネットを叩いた。ボンネットは岩か電信柱にぶつかったようにひしゃげてしまっている。男たちは呆気にとられている。


「さっちゃんがいるの、仲田原の廃工場ですよね……」


 何でそれを知っているか、昤に訊ねようとした男たちは自分たちが震えていて声が出ないことに気がついた。ただ、自転車に跨がり走り出した昤をぼんやり見送った。


◇


 宇佐美は信じられない状況に陥っていた。自分より小さい白石に片手で持ち上げられている。宇佐美の首は自重で締まり宇佐美は必死に足を白石に掛けて呼吸をしようとしている。周回から揶揄うような声が上がる。横目で巫部咲月を見るとこの事態を止めようとしているのか、一生懸命に身体を捩っている。


(もう、ダメだ……お、落ちる……)


 宇佐美が諦めかけたその時、入口で大きな音がした。白石が宇佐美の首から手を話した。相楽が声を出す、


「おい、外見て来い!」


 二、三人が走ってドアの向こうに消えたのと、勢いよく飛んできたのがほぼ同時だった。サッカーボールを蹴ったように人間が飛んできたのだ。ドアから入ってきたのはお面を被った少年?だった。


「オメエ、北見か?」


 白石の言葉に答えず、お面の少年は呟いた。


「ち、違う、俺は、あ……、じ、地蔵ライダー!」


 



 


 

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