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討魔の剣  作者: とんじる


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2/7

蠢動

 祖母が朝食の準備をしている音がする。昤はベッドを降りて台所へ向かう。


「祖母ちゃん、おはよう。いつもより早いね」


「あぁ、おはよう。今日は土曜日だろう。アンタ、午後は部活の見学回るんだって言ってたから弁当準備してんだよ。シャワー浴びてきな」


「うん。ありがとう」


シャワーを浴びて戻るとパチパチと油の跳ねる音がする。


「アンタ、竜田揚げ好きだったろう。揚げたて1つ食べてごらん」


 祖母がテーブルの皿にに1つ載せてくれた。確かに子供の頃、祖母の竜田揚げをおかわりした記憶がある。サクリとした歯触りと香ばしい醤油の風味が口に広がる。何度食べても好きな味だった。弁当箱を覗くと玉子焼き、ほうれん草のバー炒め、つけ合わせのプチトマトの赤が眩しい。揚げたての竜田揚げが幾つか詰められて、完成かと思いきや、


「あぁ、忘れもの……」


 ご飯の真ん中に梅干しが置かれた。祖母の塩強めの梅干しはそれ程好きではなかったが、庭にある祖父が残した梅の木から採れたと聴いて3日に一度は口にしている。写真でしか会った事のない祖父と繋がっているようで食べているのだが、祖母に話したことはない。


◇


 弁当を持って家を出ようとすると、咲月が木製の扉を開けて入って来るところだった。少し茶色がかった髪をポニーテールにしている。


「昤ちゃん、おはよ。お弁当持った?」


「うん、祖母ちゃんが作ってくれた」


「薫さん、料理上手だもんね。私も教えてもらおうかなー、部活無かったらなぁ」


 祖母と咲月は仲がいい。そもそも昤の祖母・薫と咲月の祖母・松が女学校時代の同級生なのだ。祖母の代からの家族ぐるみの付き合いというわけだ。お互いの家を行き来していて、週に一度は松とも会っている。


 昤たち東中学校の生徒は何かの部活に所属しなければならないルールだった。運動部は自分には向かないかなぁと思っている。


「文化部かなぁ。」


「我が吹奏楽部は、どう?私もいるよ」


「さっちゃんのトコは、体育会系だよ」


 肺活量の強化のためだろうか、校庭を他の運動部と一緒に走っているのを昤は知っている。咲月は常に先頭を走っていることも。


「やっくんは何部なの?」


「やっくんはパソコン・歴史科学部だったかな」


 妙な名称だ。あまり関係なさそうな2つの部が合併したのだろうか。


「ふうん、どんなことするんだろ。」


 咲月も詳しい活動内容までは知らなかったようだ。クラスの中心……いや、学校でも目立つ存在の咲月と、どちらかというと目立たない活動のパソコン・歴史科学部は接点があるとは思えないけど。偏見かもしれないが。


「一応、顔を出してみるよ。やっくんのことも聞きたい」


「やっくん、急にどうしたんだろうね。去年のお祭りの時は元気だったし、部活も一生懸命だったけど。やっくんのお父さんも病院連れて行ったりしたみたいだよ。分からないみたい」


 安平の病気も気にかかる。小学生の頃、夏休みは日が暮れるまで一緒に遊んだ仲なのだ。安平の部活動についても聴いてみたかった。


◇


 土曜日、午前中の授業を終えると放課後の時間は部活動をする生徒がそれぞれの活動場所に移動する。部活の仲間と昼食を食べる者もいるし、そのまま教室で弁当を食べる者もいる。昤は、クラスメイトの男子女子と一緒に弁当を食べた。


 男子の話題は昤が不良グループに絡まれたこと、女子は咲月のことだった。どちらも期待しているような答えを昤は持っていなかった。逆に昤から安平のこと、パソコン・歴史科学部のことを訊いてみた。


 安平は新学期が始まってゴールデンウィークの少し前に学校に来なくなったらしい。それまではそんな素振りも無かったので噂にはなったらしいけど、転入生とか他のニュースでかき消されたそうだ。パソコン・歴史科学部については元々は別の部活だったのが、人数が少なくてひとつになったらしい。活動内容は皆、イマイチ分かって無いようだった。


◇


—— 放課後 ——


 パソコン・歴史科学部の部室は離小島の理科室、パソコン室の間にあった。他の部活動は小さなスペースを部室として一階に持っており、活動する部屋は別にある。元々は第二理科室だったらしい。活動する場所を兼ねているからなのか、部室としての面積は大きい。


「ごめんください〜い……」


 ノックをしても反応がないので恐る恐る引戸を開けてみる。4人の男子生徒が一斉にこちらを見た。みな、ヘッドホンをしていた。ヘッドホンを取るのを見て、


「転校生の北見昤です。部活動の見学に来たんですけど……」


 部員たちはみな、顔を見合わせたりこちらを見たりしていたが、理解したようで、笑顔になると昤の手をとりイスに座らせた。昤の座る椅子を皆の椅子で囲むようにして着座すると、


「き、き、君ぃ、ほんとに入部希望者か」


 四角いメガネをかけた痩せた男が急に距離を詰めてくる。襟章からすると、三年生か。昤は驚いたが、他の3人もにじり寄ってきた。そもそも置かれた椅子の位置が近い。昤の膝と部員たちの膝がくっつきそうな位置にある。


「俺、やっくんの……あ、斎木君の幼馴染でして……」


「おう、斎木君の。彼がいてくれれば……」


 安平の名前が出ると、皆、残念そうな顔になる。気がついたようにメガネの男が自己紹介しはじめた。


「すまなかった。僕は部長の黒田。三年だ」


 部員たちは順番に自己紹介をした。三年生2人、2年生1人、1年生1人。ここにやっくんこと、斎木安平が加わり全5名がメンバーだという。部員たちは安平を気づかいながらも、昤に入部を頼んできた。


「北見君、我がパソコン・歴史科学部は危急存亡の秋を迎えている。先輩たちから引き継いできた部活動も斎木君がこのような状態だ。このままでは来年、消滅の可能性がある!」


 黒田は椅子から立ち上がって堂々と演説をしはじめた。昤は面食らってしまったが、黒田の話を聴くと、どうやら、部活を認めて貰うには最低人数があり、現三年生が卒業し安平が戻ってこなければ廃部の可能性があるらしかった。昤が入ればその心配は無くなる。演説は続いている。


「……斎木君からの電子メールをみると、彼が登校できない状況にあるのは明白である。北見君には是非我が部の救世主として入部して頂きたい!」


(ん?今、何て、電子メール……)


「黒田部長、電子メール……やっくんからの電子メールが届いているんですか?」


 演説を遮って昤は声をあげた。黒田は熱い演説の最中に入った昤の質問にあっさりとした様子で答えた。


「あぁ、我らは皆、各自パソコンを持ってるからね。この部も元々パソコン通信が趣味の同好の士が集まって存続できたのだ……」


 黒田部長は部の歴史とパソコン通信について色々教えてくれたが、そこはよく分からなかった。昤に大切だったのは、安平との接点が見つかったことである。昤は、安平が病気なのかと思い、直接尋ねることはしていなかったけれど、電子メールで連絡を取れば会えるかもしれない。昤はパソコンを持っていないが、部活のメンバーになれば部室のパソコンを使わせて貰えるかもしれない。


「黒田部長、入部すれば部室のパソコン使って斎木君と連絡できますか?」


 昤は思わず口に出していた。黒田が、もちろん!と返事するのと他のメンバーが椅子から飛んで喜ぶのはほぼ同時だった。奇妙な人たちだなと思いながらも、昤はパソコン・歴史科学部に入部した。


◇


 昤は早速、メール送信について教えて貰った。送りたい文章を先に作って、送る時にだけ接続すると説明を受けた。同じサービスに登録している人なら一瞬でメールが届くという。但し、常時パソコン通信を繋げていると恐ろしい通信費がかかるらしい。あくまで送る時に接続するのだと、念を押された。心配になった昤が、パソコンを使う時は誰かに側にいて貰う、と話したら皆に笑われた。


 前に安平から来たメールも見せて貰った。安平からのメールは短文で、見張られている気がする、それだけだった。黒田たちは先生に話してみたが、安平の両親も熱が下がらないと言うだけで、それほど重要視されなかった。安平には心配してくれる友人がいるという事で感謝されて終わった。それからメールは来ていないらしい。昤はキーボードを打つのにひどく苦労して、転校してきたこと、久しぶりに会いたいと安平にメールを送った。


◇


 大正通りはこの街きっての飲食店街である。夜になるとケバケバしいネオンが灯り多くの紳士たちが集まってきていた。


「おぉ!びっくりした。猫かと思ったら鼠かよ」


 どこかの会社の重役だろうか。タクシーに乗る前にじっとこちらを覗っていたのは大きな鼠だ。


「最近、多いのよね。しかも、おっきいの。猫みたいな大きさなのよー」


 店のママがお客にそう言って溜め息をついた。衛生面でも、イメージでも良くはないだろう。ママが追い払うような仕草をすると、鼠は赤い目でママを睨め付け、ゆっくりと背を向け何処かへ走って行った。




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