第八話 二人目の聖女がお詫びを申し上げる
コニシは水に濡れた子猫のように、しばらく震えていたが、スラナの献身的な介抱によってようやく平静を取り戻した。
「勇者レイ様、大変失礼しました。キャロライン村の聖女コニシ。この通り、伏してお詫び申し上げます」
コニシは道のど真ん中で綺麗な正座姿に居直ると、三つ指をついて陳謝した。
何もそこまでかしこまらなくても……。
僕は「土下座なんてしなくていいよ」とコニシに優しく声をかけた。
「これほどの無礼を働いた私になんとご寛大なお言葉……。お心の広さに感服致しました。お礼を申し上げると共に、重ねてお詫び申し上げます」
そう言ってコニシはさらに深々と頭を下げた。
僕はこの状態はしばらく続きそうだと諦めた。
* * *
「もう。だから怪我をしちゃうよって忠告したのに。コニシちゃんはお嬢様で、お箸より重い物を持ったことがないんだから、そんな大きな剣を振り回したらダメだよ」
スラナはコニシが怪我をしていないか身体のあちこちを念入りに確認し、倒れた際に膝を少し擦り剝いていたようなので【神聖治癒魔法】で手当をした。
「すまなかったな、スラナ。お前がこの方を勇者様だと言っていたのに信じなくて。
……だが、スラナ。この見た目では信じられないのも無理はないぞ。……もうちょっと強そうな勇者様を召喚できなかったのか?」
コニシは、後半の言葉は僕に聞こえないように小声でスラナに耳打ちしていたが、残念ながらしっかり聞こえてしまった。
「何言ってるの、コニシちゃん。召喚できただけでも感謝しなくちゃ。大切な勇者様なんだから、もう剣で斬りかかったりしないでね」
「そう怒るな、スラナ。もし首を斬り落としてしまっても、くっつけて蘇生させればよいではないか」
「それはそうだけど……」
「それにスラナだって、この方が本当に勇者様かどうか、すでに試したんじゃないか?」
「う……」
スラナは僕に岩を投げつけたことが思い当たり、言葉を詰まらせた。
「わ、私はいいのよ。だって自分で召喚した勇者様なんだもん」
「独り占めは良くないぞ、スラナ。確かに勇者様は召喚した聖女しか【加護】を差し上げられないが、勇者様は我々聖女にとって、言わば共有財産だ。皆で力を合わせてお護りしようではないか」
「それはそうだけど……。でもレイは私が召喚した勇者様だもん。私以外の聖女にそういうことをされたくないの」
「わかったわかった。まあ、自分の大切なオモチャを他人に触られたくないという気持ちはわからんでもない。これからは気を付けよう」
「そうよ。コニシちゃんも自分の勇者様を召喚したら、きっとそうしたいと思うわよ」
最後にスラナは自分の訴えを真剣に取り合ってくれないコニシに憎まれ口を叩いたが、すぐに口に手をあてて言葉を呑み込んだ。
「あ……。ご、ごめん、コニシちゃん。私、今、ひどいことを言っちゃった……」
スラナは酷く後悔したようだった。
その態度の急変に、僕はどうしてそこまで後悔したのか気になる。
コニシも「大丈夫だ」とスラナに返事をしていたが、今の一言は言葉のナイフとなって胸に深く突き刺さったようで、急速に表情が曇り、強張っていくのが見て取れた。
二人の間に生じた重苦しい空気を払い除けようと、僕は声をかける。
「コニシも自分の勇者を召喚したらってことは、まだコニシは勇者召喚の儀式を行っていないんだね」
僕はそう思って言葉をかけたが、驚いたことに、この一言が余計にコニシの表情を強張らせることになった。
「それは───……」
コニシは何かを言おうとしたが、言葉は途中で途切れ、少し俯いてギュッと口を結んでしまった。
「すみません、勇者様。コニシちゃんはもうすでに勇者様召喚の儀式を行っています。そして先月、二回目の勇者様召喚の儀式に臨み、そして、失敗してしまったところだったんです……」
スラナはコニシの手を握って苦痛に耐える彼女を慰めた。
「そうだったんだ……」
「そんなコニシちゃんに私、本当に酷いことを口走っちゃった。ごめんね、コニシちゃん」
スラナの謝罪の理由を知って、僕は納得する。
しかし即座に、ある違和感を覚えた。
その違和感はムクムクと膨らみ、大きな疑問となり、思わず僕は「え? 二回目? あれ? 二回目?」と口に出してしまった。
スラナは勇者召喚の儀式が今回が初めてだと言っていた。
一七歳の誕生日を迎えると聖女は儀式を行うが、儀式が行えるのは年に一回、自分の誕生日だけとのことだった。
その儀式の二回目を行ったということは、コニシはスラナより年上のお姉さんということになるのだろうか?
僕は改めてコニシを見やる。
するとその視線に気付いたコニシはぷーっと頬を膨らませた。
「そ、そうですよ、勇者様。私は幼く見られますがスラナより年上のお姉さん聖女なのです」
お姉さんという部分を強調するところに、僕はコニシがそのことを少なからず気にしているんだと理解した。
「こ、この通り、スラナよりお姉さんな部分がちゃんとあるんです。だから私のことはスラナより先輩のお姉さん聖女として扱ってください」
またまた「お姉さん」という部分を強調しつつ、コニシはなんとかお姉さんであることを見せつけようと胸を反らした。
確かにスラナよりお姉さんではあると思ったが、そこをスラナと競われても困ると僕は正直思った。
そしてなんとかコニシの機嫌を直そうと、話題を逸らすことにした。
「コニシのようなお姉さん聖女でも、勇者召喚に失敗してしまうんだね。確かスラナが勇者召喚の儀式は成功率が四割程だって言っていたけど、確率ほど勇者召喚の儀式は簡単じゃないんだね」
コニシに慰めの言葉をかけつつ、自尊心をくすぐり、巧妙に話を逸らす見事な台詞であったと、僕は自画自賛した。
「はい。勇者様の召喚は確かに簡単ではありません。
───いえ、でも以前はそうではなかったんです。勇者様召喚の儀式は本当に成功率が四割程で、二年目で半数以上の聖女が、そして三年目、四年目で大半の聖女が、そして五年目にはほとんどの聖女が勇者様の召喚に成功していたんです。でもここ数カ月の勇者様召喚の儀式は様子がおかしくて……」
スラナはそのことがつくづく悔やまれるといった様子で深いため息とともにかぶりをふった。
「それはどういうこと?」
僕が訊ねると二人の聖女は声を揃えて答えた。
「「召喚できる勇者様の数が激減して、ここ数カ月、勇者様召喚の儀式は失敗続きなんです」」
お世話になっております。柳アトムです。
ここまで私の小説を読んでいただきまして本当にありがとうございます。
( ᵕᴗᵕ )
また新たな謎が出てきました(ニヤリ
勇者の数が激減するとはどういうことなのか?
このことは、この物語の背景に色濃く影響をしております。
真相が明らかになるその時を、どうかお楽しみにしていただけますと幸いです。
皆さまのご期待にそえるよう頑張ります。
( ᵕᴗᵕ )
ではでは引き続き、拙作を宜しくお願い致します~!
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