第七話 ならば試してやろう
「ほらみろ、スラナ。本人も自分は勇者様ではないと言っているぞ」
コニシにそう言われると、スラナは手足をバタバタして遺憾の意を表した。
「そんなことないよ! ちゃんと私の【加護】で手が輝いたんだから! レイは絶対に私の勇者様だもん!」
スラナは駄々っ子のように、さらに手足をバタバタさせたが、背負っている僕がしんどいので、どうか落ち着いて欲しいと思った。
「ほう……。スラナの【加護】を受けたのか。ならば少々手荒いことをしても大丈夫だな」
僕はコニシの目に殺気が宿り、雰囲気が変わったことを察した。
それは緊張に値する空気の一変だった。
「え……? コニシちゃん、何をするの……?」
スラナもコニシの雰囲気が変わったことに気付き、心配した。
「スラナの【加護】を受けているなら私が斬りつけたところで問題はあるまい。この男が本当に勇者様かどうか、私が確かめてやる」
コニシは背中の大剣に手をかけた。
「やめて。コニシちゃん、そんなことをしたら怪我をしちゃうよ」
スラナはコニシにやめるよう頼んだが、コニシは聞き入れなかった。
「此奴がスラナの【加護】を受けているなら怪我をすることなどなかろう。聖女の【加護】を受けた勇者様を私ごときが傷つけられるはずがないからな。
それともスラナ、やはりこの男が勇者様だというのは偽りなのか?」
コニシは意地悪な笑みを浮かべた。
そう挑発されるとスラナも意地を張らないわけにはいかなかった。
「違うもん! レイは本当に勇者様だもん!」
それを斬りつけてもよいという許可だと拡大解釈したコニシはゆっくりと大剣を鞘から抜き払った。
しかし───。
「……ぐッ! ふぉッ……! ぐ、うぐぅ~……ッ! お、重い……。本当になんでこの剣はこんなに重いんだ……まったく……」
大剣を抜き払ったコニシは剣を構えようとしたが、持ち上げるだけで精一杯といった様子だった。
腕はぷるぷると震え、足元はふらふらとおぼつかなく、見ているこっちがひやひやした。
「やめて、コニシちゃん。本当に危ないよ。そんなことをしたら本当に怪我をしちゃうよ」
「う、うるさい。私が此奴が本当に勇者様かどうか確かめるんだ。見ていろ。しっかりと斬りつけてやる」
渾身の力を振り絞り、コニシはなんとか大剣を振りかぶった。
そして倒れ込むように僕に向かって剣を振り下ろしてきた。
───そんな彼女の懸命な努力はとても美しかった。
小柄な体格に不相応な大きな剣を必死の形相で持ち上げ、あらん限りの力を振り絞って振り下ろすコニシ。
飛び散る汗は光に透かされて煌めき、その一瞬一瞬が尊く、まるで時間の流れがゆっくりであるかのようだった。
但し、それはイメージとして時間の流れがゆっくりだったのか、単にコニシの剣を振り下ろす速度が本当に遅いだけだったのかはわからない。
でも、とにかくまるで映画のスローモーションのように象徴的な光景だった。
僕はその光景に見惚れたが、同時に申し訳ないとも思った。
コニシの努力が美しく、このまま剣で斬りつけられ、彼女の頑張りに応えてあげたい気持ちでいっぱいになったが、しかし───しかしやはり剣で斬りつけられるわけにはいかないので、申し訳ないと思いつつ、スッと身体を半歩横に引いてコニシの一撃を苦も無く躱した。
狙っていた目標(=僕)を失ったコニシは「のわぁーッ! ぐわぁーッ!」と大きな声で叫びながら盛大に倒れ込んだ。
地面を強打した大剣はコニシの手を離れて空中に跳ね上がり、ゆっくり一回転すると、倒れたコニシに切っ先を向けて落下を始めた。
「「危ない───ッ!」」
僕と、そしてスラナの叫び声が重なる。
その声に反応して顔をあげたコニシの目と鼻の先に大剣がドスンと突き立った。
コニシの前髪が一房、スッと斬り落とされる。
コニシの顔からサーッと血の気が引いた。
「だから怪我をしちゃうよって───コニシちゃんが怪我をしちゃうよって言ったのに……!」
スラナは僕の背中から降りると涙目で震えるコニシに駆け寄り、彼女を抱き起こした。
コニシは震える手でスラナにしがみつくと、恐怖に怯える身体をスラナにさすってもらった。
確かにこんな大きな剣をコニシが扱えるわけありませんよね(笑
レイも、そしてコニシも怪我をしなくて本当に良かったです♪
……まあ、しばらくコニシは前髪パッツンですが(笑




