第五話 聖女を背負う
「それにしてもいきなり岩を投げつけるなんて乱暴だよ。もし【加護】がちゃんと効果を発揮しなかったら大変なことになるじゃないか」
僕はスラナに苦情を述べた。
「すみません、レイ。確かにその通りでした。
あ、でも、安心してください。もし顔がグチャグチャに潰れるような大怪我を負っても【神聖回復魔法】ですぐに治せます。私の【神聖回復魔法】は効果がピカイチなんです。傷一つなく綺麗に元通りになりますよ。それに、もし死んでしまっても心配ご無用です。なんとこの世界では死者を蘇らせることができるんです」
スラナは懸命に取り繕おうとしたけど「治せたり、生き返らせたりできるからいいってことじゃないよ、スラナ」と僕が諭すと「確かにそれもそうですね。本当にすみませんでした」とシュンとして、また小さくなった。
スラナは本当に小さくなっていたけど、でもそれは僕に怒られたからというだけではなかったようだ。
スラナが小さくなっているもう一つの理由。それは僕に背負われているからということもあった。
僕は体力切れで動けないスラナを背負い、カトリーヌ村まで送っている最中だった。
「すみません、レイ。本来なら聖女こそ勇者様をお助けしないといけないのに……。逆に勇者様に背負っていただくなんて聖女失格です」
スラナは本当に申し訳なさそうだった。
「気にしなくていいよ。あの状態のスラナを放ってなんておけないからね」
「レイは優しいですね。ありがとうございます。……あ、でも私、重くないですか?」
その事が気になったようでスラナは僕から身体を少し離したが、そうされると却って背負い難くなるので、僕は「大丈夫。ぜんぜん重くないよ。それよりもっとしっかり僕に掴まって」と返答した。
するとスラナは「はい! わかりました! お言葉に甘えます!」と言って、嬉しそうに僕に抱き付いてきた。
スラナの身体はとても柔らかで、ふわふわしていた。
僕は擽ったくなって顔が赤くなってしまった。
スラナはそんな僕の異変にすぐ気付いた。
「あ、あれ……? レイ、お顔が真っ赤ですよ。大丈夫ですか? やはり私が重いのでご負担になっているのでは……?」
「ち、違うよ、スラナ。本当に大丈夫だからそんなに心配しないで。あ、あと、あんまり近くから顔を見ないで欲しいな。恥ずかしいよ」
「……え? あ……ッ。す、すみません……ッ」
スラナも僕と顔が近いことに気が付いてハッとしたようだった。
僕たちはお互いに意識し合って喋れなくなった。
そうした沈黙が続くと、ますます気まずい空気が膨らむので僕は居たたまれなくなってしまった。
そこで話題を振って雰囲気の解消をはかった。
「ね、ねぇ、スラナ。カトリーヌ村はこの道であっているんだよね?」
スラナも僕の意図を察したようで、殊更に話題に応じてくれた。
「は、はい。この道の先にある丘を越えればカトリーヌ村は目の前です。と、とても美しい村なのでレイもきっと気に入りますよ」
会話は残念ながらこの一巡で終わってしまったが、幸い少しだけ気まずい雰囲気を和らげることができた。
その後は、僕は黙々と歩みを進めた。
そしてようやく丘の頂上に到着した。
僕はほっと胸を撫で下ろす。
それと同時に、僕は眼下に広がる光景に息を呑んだ。
カトリーヌ村は本当に美しい村だったのだ。
大きな畑がいくつも広がり、たくさんの作物や穀物が豊かな実りを結んでいた。
野菜や果物をいっぱいに積んだ荷馬車が轍道を行き交い、山裾の草原には牛や羊といった家畜がたくさん放牧されていた。
「本当に綺麗な村だね……」
僕は感動すら覚えた。
こんなに美しい光景を目にしたのはいつぶりだろう───。
「気に入っていただけてよかったです。でもレイ、まだまだこれからですよ。村では勇者様の歓迎会が準備されています。因みにもし私が勇者様の召喚に失敗した場合は残念会になる予定でした」
スラナは宴が残念会にならなくて本当に良かったと嬉しそうだった。
そして早く村に戻って皆に勇者召喚が成功したことを報告したい様子だった。
そうした思いを感じた僕は、すぐに丘を下って村に向かおうと思ったが、その時───。
「おい、スラナ。どうやら勇者様の召喚に成功したようだな」と声をかけられた。
声の主を探して辺りを見渡すと、道の両脇に林立する並木の陰から一人の女の子が姿をあらわした。
その女の子はスラナと同じデザインの聖女服姿だった。
カトリーヌ村に急ごうとするレイ。
そこに現れた第二の聖女。
果たしてこの聖女は何者なのか?(ふっふっふっ
察しの良い諸兄姉におかれましては「ハーレムの始まりか?」とピンとこられるかもしれませんが、そんな勘のいい諸兄姉は嫌い……ではなく大好きです♪(笑
ただ、レイがそうした状態になるのは少し後になりそうです。
でもレイはしっかりと異世界でラノベライフを満喫しますので、どうかどうかお楽しみにしていただけますと幸いです。
皆さまのご期待にそえるよう頑張ります!
୧(˃◡˂)୨




