第二十六話 キャロライン村の聖女が事情を申し上げる
「母は、こうなることは覚悟の上だった。聖女が勇者様ではなく、それ以外の相手を選ぶということは「そういうことを意味する」からな。
聖女は数年の間は勇者様に【加護】を差し上げなくても耐えることができる。母は、その数年だけでも気持ちに素直になり、父(=アズマ男爵)と過ごしたいと願ったのだ。
幸いなことに、一度でも勇者様に【加護】を差し上げたことがある聖女は、その期間が延びるようだ。母は数年ではなく、今日まで耐えることができた。だがしかし、さすがにもう限界だ。余りにも期間が長すぎた。母にもいよいよ「その時」が訪れようとしているのだ」
僕とスラナは「その時」が何を意味するのかを察し、顔を見合わせた。
スラナの顔がみるみる青ざめていく様子を見て、僕は事態の深刻さを理解した。
「だ、だからといって私やレイに一言の断りもなく、レイは自分が召喚した勇者様だと嘘をつくなんて許されないんだからね」
そう言いつつもスラナはコニシに駆け寄ると、抱きかかえるようにギュッとコニシを抱きしめた。
「すまない、スラナ。スラナが余りにもレイを大切にしているので「ちょっとスラナの勇者様を使わせてよ。いいだろ、別に。減るもんじゃないし」などと気軽に言えず、どうしようか悩んでいるうちにこうなってしまった」
「うん。わかった。もうわかったよ。コニシちゃんに悪意はなく、私に対して気遣いをした結果、こうなったということがわかったから。
でもコニシちゃん、それならそうと、もっと早く私に相談してよ。私はコニシちゃんのそうした苦悩も、心痛も、そしておば様のことも何も知らなかった。気付いてあげられなかった。今はそんな自分が一番悔やまれるよ。私のレイならいつでもいいよ。コニシちゃんが使いたいというならいつでも使わせてあげる。だから今度からは、どんなにお願いし辛いことでも、必ず事前に私に相談してね」
「わかった、スラナ。必ずそうする。本当にすまなかった、スラナ。そしてありがとう」
二人はお互いに抱き合い、友情を確かめ合った。
雨降って地固まるというが、僕は二人の友情がさらに強固なものになったことを実感した。
その光景は尊く、微笑ましいものであったが、僕はどうしても一つのことが気になり、今は純粋に二人の「感動のシーン」に集中できなかった。
「今、僕はまるで「モノ」のように扱われたような気がしたけど、大丈夫かな? 今後、この二人は、僕をまるで「モノ」のように貸し借りするんじゃないだろうか……」
一抹の不安……であれば良かったが、僕は悪い予感がみるみる膨らみ、動悸が高まった。
そしてそうした危惧は現実のものとなる。
それは、僕とスラナ、そしてコニシがアズマ男爵と夕食を共にし、スラナがコニシのお母さんの手料理をたらふく食べて、デザートのスイーツをいただいている時だった。
「勇者様にお伺いしたいことは山ほどありますが、勇者様はエリザベート村に向かう旅の途中。引き止めて長居をさせてしまってはご迷惑でしょう。腹も満たされたことでしょうし、今日は早々に切り上げて、お休みいただきましょう」
アズマ男爵は僕たちを気遣い、そう提案してくれた。
───かと、思ったが……。
「すでに部屋は用意しております。ご安心ください。勇者様と我が娘コニシは同室となるよう我が城で一番のスイートルームを手配しています」
「え───?」
「え───?」
「え───?」
「その部屋は我が城で一番高い尖塔の最上階にある部屋です。眺望も最高で、とてもロマンチックな夜を過ごせることでしょう。決して勇者様のお邪魔はしませんので、どうかゆっくりとお過ごしください」
そしてアズマ男爵は意味あり気に「バチンッ!」と片目を閉じてコニシに合図を送ったが、そうされたコニシは目を見開き、口を大きく開けて固まっていた。
その様子に、僕はコニシも、父親のこの「いらぬお節介」のことは、今初めて知ったのだと理解した。
「「「えええええ~!?」」」
そしてコニシ、それから僕とスラナの驚きの声が、一纏まりの見事な合唱となって夜空の彼方まで飛んでいった。
これだからパパは困りますね。デリカシーですよ、デリカシー(笑
スラナとコニシは仲直りをし、友情の絆をさらに強めましたが、果たして「自分の勇者様を一晩貸し出す」という行為は許容できるのか……。
どうかどうかお楽しみにしていただけますと幸いです♪
……次話でスラナが暴れてお城を壊さないといいな~……(ボソ




