第二十五話 キャロライン村の聖女がお詫びを申し上げる
「この通り、伏してお詫び申し上げます」
キャロライン村に着いてコニシの実家(=お城)に到着し、城門前でコニシの両親の父・アズマ男爵と母・聖女の出迎えを受け、一悶着あった後に部屋に通され、僕とスラナ、そしてコニシの三人だけになると、コニシは綺麗な正座姿に居直り、三つ指をついて陳謝した。
僕は、この光景にも見覚えがあった。
それは、僕がコニシと初めて出会い、コニシに剣で斬り付けられた時だっただろうか。
早くもあの時が懐かしく思える今日この頃だった。
コニシは懸命に謝罪したが、しかしスラナは腕を組んでコニシに背を向けると、ツンとして顔を背け、頑としてコニシの謝罪を受け入れなかった。
スラナは相当ご立腹だった。
しかしそれは仕方がない。何せ自分が召喚した勇者を、コニシが召喚したと嘘をつかれたのだ。
「スラナの機嫌を直すのは大変そうだ……」
僕はそう思ったが、二人の仲を取り持つことにした。
「ま、まあ、コニシもご両親を安心させようと見栄を張っちゃったんだよね? その気持ちはわかるよ。そして言い出せなかった気持ちもわかる」
僕はなんとかスラナをなだめようとしたが、僕がそう言うとスラナは横目で僕をギロリと睨みつけた。
「おやおや? レイは随分とコニシちゃんの気持ちがわかるようですね。では私の気持ちはどうですか? 私の気持ちはわかりますか? レイは私が召喚した勇者様です。だから私がレイの一番の聖女なんです。私は一番にレイのことを思います。でもレイは一番に私のことを思ってはくれず、コニシちゃんのフォローにまわるんですね」
手強い……。
僕は今のご機嫌斜めのスラナは、とんでもなく強敵だと痛感した。
「おやおや? なんだか私も自信がなくなってきました。レイは本当に私が召喚した勇者様ではなく、コニシちゃんが召喚した勇者様だったのかもしれません。でもそれならば納得です。なぜなら、レイは初めて私を抱っこしてくださった時はおんぶでしたが、コニシちゃんを初めて抱っこした時はおんぶじゃなくてお姫様抱っこでしたもの。コニシちゃんが自分を召喚した聖女なら、それはそれは大切に扱うでしょうから、それはそれは丁重にお姫様抱っこをするでしょうね」
スラナの怒りが増幅する。
一つの綻びがきっかけで、過去にあった不快な出来事も連鎖的に呼び起され、最初は小さな蟻の一穴が、大きな堤防を崩壊させるかの如くだった。
「まだ、そのこと(おんぶとお姫様抱っこの件)を忘れていなかったんだ……」
僕は閉口しそうになったが「まだ、そのことを根に持っているの? いいじゃないかそんなこと。いい加減、そのことは許してよ」とは絶対に言えなかった。
もしもそんなことを僕が少しでも口にしようものなら……。
「スラナは怪力で城を丸ごと持ち上げて僕に投げつけてくるかもしれない。そうしたことが現実に起こり得るかと思えるほど、スラナは怒り狂うだろうな……」
僕はその光景を想像して、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「母はもう余命いくばくもない。だから……だからどうしても安心させたかったのだ」
「え───?」
「え───?」
尚も三つ指をついて陳謝姿勢だったコニシが僕とスラナに訴える。
その言葉の内容は衝撃的で、僕とスラナの驚きの声が重なった。
「コ、コニシちゃん。おば様が余命いくばくもないって、どういうことなの?」
さすがのスラナも不機嫌を忘れ、コニシに尋ねる。
「母は勇者様ではなく、剣聖である父を選んだ。その結果、勇者様は召喚された元の世界に帰ってしまい、母は【加護】を差し上げるべき相手を失った。その結果、母はもう何年も勇者様に【加護】を差し上げていない」
僕は「あ……」と声をあげる。
「そ、それじゃあコニシのお母さんは【加護】が溜まって……」
僕はコニシのお母さんに何が起こっているのかを理解した。
な、なるほど……。それはコニシも辛いでしょうね。
コニシの説明がもう少し続きますので、お付き合いいただけますと幸いです。




