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第十九話 スラナはご機嫌ななめ②

 僕はなんとか返事をしようと思ったが、明確な理由がなかったので返事ができなかった。

 スラナの時は自然とおんぶし、コニシの時は自然とお姫様抱っこになった。

 ただそれだけのことだったのだ。


「レイは……レイは私(・)よ(・)り(・)コ(・)ニ(・)シ(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)の(・)こ(・)と(・)が(・)好(・)き(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)ん(・)で(・)す(・)か(・)?」


 僕が黙っているとスラナは「核(・)心(・)的(・)な(・)こ(・)と(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)」を質問して斬り込んできた。


「ち、違うよッ」


 僕は即座に答えた。

 女子にそう詰問されたら即座にそう答えなければならない。

 これは僕の本能が危険を察し、考えるより先に言葉が口をついて出た反射的な返答だった。

 それは生物としての「男」が、これまでの人類の歴史の中で、異性である「女」にそう詰め寄られたら、即座にそう答えるよう細胞レベルで培った処世術のたまものだったのかもしれない。


 とにかく僕がそう即答したことで、スラナは幾分、怒りが縮んだように見えた。

 僕は危ういところで最悪の事態だけは回避し、「命拾い」をしたようだ。


 しかし───……。


「そ、それでは───それでは───……」


 スラナはふるふると震え出した。

 次は何が来るのか怖くなって僕は身体を固くした。


「───それではコニシちゃんはお姫様抱っこだったのに私はおんぶだった理由は……。私が……私が重(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)ですね……ッ!」


 スラナは両手を地面についてガックリと項垂(うなだ)れた。


 僕はこの光景に見覚えがあった。

 確か僕が召喚された初日に見た光景だった。


「仕方がありません。私も自覚していました。勇者様召喚の儀式が近づき、ストレスで食べる量が増えてしまっていましたから。でもどうしてもやめられず、食べてしまったんです。着用している聖女服もお腹まわりのゆとりが少し減ったように思っていましたが、勇者様召喚が終わって少し気をつければすぐに元に戻るだろうと高(たか)を括(くく)っていたんです。だから少し待っていただければ、きっと私もおんぶじゃなくお姫様抱っこをしていただけたと思いますが、今はまだ───今はまだその時ではなかったのです」


 ギュッと拳を握ったスラナは掴んだ草をブチブチと引き抜いた。

 この光景にも僕は見覚えがあった。


 声を掛け辛(づら)い雰囲気だったが、僕は勇気を出して声を掛けることにした。


「ス、スラナ。あのね───」


 そう声を掛けたがスラナは尚も草をブチブチと引き抜き、ブツブツと何かを呟いて悔しがっていた。

 この光景にも僕は見覚えがあった。


「でも……でもまさか……重い剣を背負ったコニシちゃんはお姫様抱っこができても私はできなかったなんて……。さすがにコニシちゃんと大剣を合わせた重みより、私の方が軽いと思っていましたが、まさか自分では認めたくなかっただけで、今の私は自分が思う以上に「ふ(・)く(・)よ(・)か(・)」になってしまっていたのですね。

 明日からはより厳しく節制します。水と一欠片(ひとかけら)のパン、そして一口のスープで過ごします。いいえ、それではだめですね。絶食です。絶食するべきです。元の身体に戻るまで私は食べ物を口にしません」


「何事かと思ったらそういうことだったのか」


 そう言って並木の陰から姿をあらわしたのはコニシだった。


 僕は驚いたが、スラナはもっと驚いたようだ。


「コ、コニシちゃんッ? ど、どうしてここにッ? 宿で待っていてって言ったのに……」


 スラナは今の話を聞かれてしまったことにひどく狼狽(ろうばい)した。


「スラナの様子がおかしかったので心配で後をついてきたのだ。

 すまなかったなスラナ。実は私もスラナがレイの召喚に成功したあの日、スラナがおんぶされていたのを見ていたので、私もおんぶされるものだと思った。だが、実際はお姫様抱っこだった。とても驚いたが、正直に言うと私はその時、とてもときめいてしまっていた。お姫様抱っこされることがとても心地よかったのだ。そしてスラナが私に【神聖回復魔法(ラピュセルキュア)】を申し出てくれたが、その好意を断ったのは、このままレイにお姫様抱っこをされ続けたいと望んでしまったからだ。回復したら自分の足で歩かなくてはならないからな。本当にすまなかった」


 コニシはスラナの手を取るとギュッと握り締め、そして謝罪した。

 スラナは目を潤ませながら「うん。わかった。コニシちゃん。正直に話してくれてありがとう。もう私は怒っていないよ。レイに対する不満も、コニシちゃんに対する嫉妬も、全部が綺麗に雲散霧消したよ。そして明日から節制に努めるね」とコニシに抱きついた。

 コニシもスラナを抱きしめ返し、二人の聖女は友情を確かめ合った。


 僕は二人の世界から一人取り残され、一体何を見せられているんだろうという思いもあったが、この年頃の女子にはこうしたことも必要なのだろうと理解することにした。

今回のお話はなんなんだ~?と思われた皆さま、すみません(汗

実はこれ「伏線」です(笑

ちゃんと意味があって回収しますので、どうかご容赦いただけますと幸いです(笑


しかし良かったですね、レイ。最悪の事態にならなくて(笑

機嫌を損ね、拗らせられたら大変ですからね~(わっはっはっ


皆さま、拙作にお付き合いいただきまして本当にありがとうございます。

必ずや皆さまに「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります。

( ᵕᴗᵕ )

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