↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
90/116

第90話 共闘、宰相の私兵を打ち破れ

地下空洞の壁面が低く唸るように震えていた。


 魔法陣の光は赤みを帯び、暴走寸前の脈動を刻んでいる。熱を孕んだ空気が肌を焼き、焦げた魔力の匂いが喉の奥に張りついた。


「――出番だ」


 グレイヴが片手を挙げると、空洞の奥の闇から武装した兵士たちが次々と姿を現した。宰相直属の私兵、そして白い法衣をまとった聖術部隊だった。


「聖術部隊」イアンが歯噛みした。「聖堂の戦闘集団まで抱き込んでいたのか」


「彼らは勇者紋の管理を担ってきた者たちだ」トビアスが剣を握り直した。「俺の紋が壊れた今、真っ先に潰しにくる」


「数が多いな」ルークが大剣を肩に担ぎ、獰猛に笑った。「面白くなってきた」


「ヴァルガ、隠形で後ろに回れるか」


「承知した」


 ヴァルガの姿が影に溶けるように消えた。


「全員、陣形を組め!」トビアスの声が響く。


 これまでのような理恵を守るための防御陣ではなかった。前衛にルークとトビアス、後衛にイアンとコリン、遊撃にメルとヴァルガ。それぞれが本来の力を最大限に発揮できる、六人と一人のための陣形だった。


「理恵、中央に」


「はい!」


 理恵が陣の中心に立つと足元に淡い光が広がった。


「《共鳴の陣》、展開!」イアンが叫ぶ。


 探知の陣を応用し、同調の仕組みだけを攻めに転用した術式だった。理恵の魔力を芯にして五人の魔力が同調していくと、互いの魔力が淡い光の糸で結ばれ、全員の動きが驚くほど噛み合い始める。


「体が、軽い!」


「魔力が溢れてくるぞ!」


 ルークの大剣が唸りを上げ、突っ込んできた兵士たちを一振りで薙ぎ払った。ヴァルガの影が反対側から別の兵士の背後を取る。


「な、なぜ急に動きが」


「六人分が、一つになってるんだよ」メルが結界を展開しながら不敵に笑った。


   ◇ ◇ ◇


 聖術部隊が一斉に詠唱を始めた。


「《裁きの光》!」


 白い光の奔流が六人に向かって放たれる。


「させない!」


 メルの結界が展開され光を受け止めた。結界の表面が軋み亀裂が走る。


「長くは持たない!」


「十分だ」イアンが杖を掲げた。「《封魔の楔》!」


 光の楔が聖術部隊の足元に突き刺さり、詠唱が途切れた。


「今です、コリン!」


「はい!」


 コリンの回復の光が負傷したルークとメルの傷を一瞬で癒していく。


「剣が軽い」


 トビアスは戦いながら、かすかに驚いていた。勇者紋を失った体は以前のような怪力も魔力抵抗も持たない。だが不思議と動きに迷いがなかった。


「トビアス、無理するな!」


「大丈夫だ」トビアスは振り返らずに答えた。「今の方がずっと自由に動ける」


 その剣筋は紋の力に頼っていた頃よりも、はるかに鋭く冴えていた。


「馬鹿な、あり得ない」


 グレイヴが焦りを滲ませながら後ずさった。私兵も聖術部隊も次々と制圧されていく。


「貴様ら、なぜ。人間と魔族が手を組むなど」


「手を組んでるわけじゃない」ルークが大剣を肩に担いで凄んだ。「ただ、同じ飯を食った仲間だ」


 その言葉に理恵は思わず胸が熱くなった。


   ◇ ◇ ◇


「イアンさん!」理恵が叫んだ。「今なら魔王様の魔力と魔法陣の繋がりを切れませんか」


「やってみる」イアンが魔法陣の中心を睨んだ。「理恵、波長を安定させ続けてくれ。メル、結界で儀式の暴走を抑えろ。ヴァルガ、導管の接続部を」


「了解」


「承知した」


 六人と一人の魔力が一つに束ねられていく。


「――《断絶の陣》!」


 イアンの術式が発動し、魔法陣とゼクセルを繋ぐ光の糸が一本、また一本と音を立てて断ち切られていった。ゼクセルの体から、重たい鎖が外れるように力が抜け、侍従が慌ててその体を支えた。


「やめろ、やめろおおお!」


 グレイヴの絶叫が響く中、魔法陣の赤い光が急速に弱まっていく。


 やがて地下空洞に静寂が戻った。


 床に膝をついたグレイヴが力なく呟いた。


「私の計画が」


 その両脇をルークとヴァルガががっちりと押さえた。


「連行する」トビアスが静かに告げた。「王国の法で裁かれてもらう」


 戦いが終わり、六人と一人は互いの無事を確かめ合った。


「やった、のか」ルークが荒い息の中で呟いた。


「はい」理恵は涙ぐみながら頷いた。「みんな無事です」


 ゼクセルが侍従に支えられながら静かに歩み寄った。


「感謝する」魔王は深く頭を下げた。「そなたたちのおかげでこの国は救われた」


「いえ」トビアスが静かに答えた。「俺たちはただ、仲間を守りたかっただけです」


 その言葉に全員が静かに頷いた。


   ◇ ◇ ◇


 戦争の真実は、その後、人間と魔族双方の王から世界へ向けて公表された。


 宰相グレイヴの陰謀。偽の情報によって長引いていた戦争。そしてそれを見抜き、手を取り合った者たちの存在。


 魔王討伐ではなく、人間と魔族の停戦によって世界は救われた。


 だが、六人と一人の旅はまだ終わっていなかった。


 理恵にはこれからもう一つの大きな選択が待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。