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第79話 勅命、崩れゆく権勢

## 第79話 勅命、崩れゆく権勢


 夜明けの王城謁見の間は、これまでにない張り詰めた空気に包まれていた。


 高い窓から差し込む朝日が大理石の床に長い光の筋を描いている。集まった貴族や官吏たちの戸惑いを含んだざわめきが天井に反響していた。冷えた石造りの空気に緊張した汗の匂いが微かに混じっている。


 王座には以前とは見違えるほど鋭い眼差しを取り戻した王が、静かに座していた。


「――宰相グレイヴを、この場に」


 王の声が静かに、しかし確かな重みを持って広間に響いた。


 しばらくしてグレイヴが、いつもと変わらぬ抑揚のない足取りで謁見の間に姿を現した。


「――お呼びと伺いましたが」


「グレイヴ」王はまっすぐに彼を見据えた。「そなたに問いたいことがある」


「封魔銀の不正な備蓄。魔力炉予算の不透明な流用。そして、余の飲む薬に精神を鈍らせる薬草を混入させていたこと」


 王の言葉に謁見の間が一瞬にして凍りついた。


「――何を仰いますか」グレイヴは表情一つ変えずに答えた。「根拠のない中傷では」


「根拠は揃っている」


 トビアスが一歩前に出た。


「証拠の書類も証言も、すでに揃っている。もう言い逃れはできない」


 その言葉にグレイヴの目に初めて微かな揺らぎが浮かんだ。


「――ふん」


 だが、その揺らぎはすぐに冷たい笑みへと変わった。


「――陛下」グレイヴは静かに続けた。「私が、これまでどれほどこの国のために尽くしてきたか。お忘れですか」


「己の利権のために戦争を長引かせることが国のためだと」王は怒りを滲ませながら言った。「もう聞くに堪えぬ」


「――勅命を発する」王は高らかに宣言した。「宰相グレイヴの全権限を即刻停止する。並びに、提出された証拠に基づき、全容解明のための正式な聴取を、直ちに開始する」


 その宣言に謁見の間が大きくどよめいた。


 グレイヴはしばらく無言で王を見つめていた。


「――そうですか」


 その声には、これまでの冷静さとは違う、何か危うい響きが混じっていた。


「往生際が悪いですよ」ルークが剣の柄に手をかけながら低く言った。


「――誤解しないでいただきたい」グレイヴは静かに続けた。「私は往生際が悪いのではない。ただ最後まで、この国のためにできることをやり遂げるだけだ」


 その言葉と共にグレイヴの懐から小さな魔石が投げ放たれた。


「――伏せろ!」


 トビアスの叫びと共に、魔石が激しい光を放って砕け散った。


   ◇ ◇ ◇


「あれは――《緊急転移の魔石》!」イアンが目を見開いた。


 光が収まったとき、そこにグレイヴの姿は、もうなかった。


「逃げた、のか」ルークが拳を強く握りしめる。


「追わなければ」トビアスが鋭く言った。


「待ってください」


 フィオナが水晶板を確認しながら告げた。


「転移先の痕跡が残っています。方角は王都南部の廃坑区画」


「あそこには」イアンが険しい表情で呟いた。「以前、大規模な魔力消費の反応があった場所と一致する」


「――大規模召喚術式の準備場所か」トビアスが低く言った。


「陛下」トビアスが王に向き直った。「我々が追います。ここから先は陛下の裁可を必要としない、我々自身の戦いです」


「頼む」王は静かに頷いた。「そなたたちに、この国の未来を託す」


   ◇ ◇ ◇


 謁見の間を飛び出した六人は王都南部へと急いだ。


 宰相グレイヴの最後の悪あがき。


 その先に待つのは、これまでで最も危険な、そして最も大きな真実との対決になるだろう。


 朝日に照らされた王都の街並みを、六人は迷いなく駆け抜けていった。


 六人の旅は、いよいよこれまでで最大の危機へと突き進んでいく。

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