第75話 閉ざされた謁見、宰相との邂逅
王城の正門は、これまで理恵が訪れたどの時よりも厳重な警備に包まれていた。
磨き上げられた槍の穂先が朝日を受けて鈍く光っている。石畳を踏む衛兵の足音が規則正しく響いていた。冷たい石壁の匂いが緊張した空気に重く混じっている。
「――王への謁見を願い出たい」
トビアスが正門の衛兵にそう告げた。
だが返ってきたのは予想外の答えだった。
「――勇者様。申し訳ございませんが、陛下はしばらく体調を崩されており、謁見は受け付けておりません」
「――体調を?」トビアスの表情が険しくなった。
「宰相様が代わりに応対されます。そちらへお通しいたします」
その言葉に理恵の胸に嫌な予感が広がった。
案内された部屋には、あの痩せた男――グレイヴが静かに待ち構えていた。
「――ようこそ、勇者殿」
グレイヴの声は以前と変わらず抑揚に乏しかった。だがその目には、これまでにない鋭い光が宿っているように理恵には見えた。
「――陛下にお目にかかりたい」トビアスが単刀直入に切り出した。
「先ほどお伝えした通りです」グレイヴは静かに答えた。「陛下は静養中です。私が代理として承ります」
「――では、これを」
トビアスが証拠の書類を机に差し出した。
グレイヴはしばらく、それを無表情に眺めていた。
「――なるほど。興味深い資料ですな」
その反応に理恵は背筋が冷たくなるのを感じた。動揺一つ見せない。
「これが何を意味するか、お分かりですよね」トビアスが鋭く言った。
「――さて」グレイヴは静かに書類を机に置いた。「これだけでは何とも言えません。この印章一つで宰相府の関与を証明するには、あまりに根拠が薄い」
「言い逃れる、つもりですか」ルークが声を荒げた。
「事実を述べているだけです」グレイヴは平然と答えた。
「大規模召喚術式の準備をしているという証言もあります」イアンが続けた。「封魔銀の大量備蓄は、その明確な証拠だ」
「戦時における備蓄は当然の措置です」グレイヴは崩れることなく続けた。「――皆さんこそ、魔王城に足を運ばれたと聞いていますが」
その一言に六人の空気が張り詰めた。
「敵と密談をする勇者パーティー。そちらの方が、よほど問題ではありませんかな」グレイヴは静かに、しかし確かな圧を込めて言った。
「――それは」
「陛下に、この件をどう報告するべきか。よくお考えください」
その脅しめいた言葉に理恵は拳を強く握りしめた。
「――今日は、これで失礼する」
トビアスが、静かな怒りを滲ませながら席を立った。
グレイヴはそれを静かに見送るだけだった。
王城を出たあと、六人はしばらく無言のまま歩き続けた。
「――あの男」ルークが拳を強く握りしめながら言った。「絶対、何か隠してるだろ」
「証拠は揉み消される。そして俺たちの立場も危うくなった」イアンが険しい表情で分析した。
「王も、あの男の影響下にあるのかもしれませんね」メルが静かに言った。
「――このままじゃ埒が明かない」トビアスが、低く決意を込めて言った。「別の手段を考える必要がある」
「別の手段?」理恵が尋ねる。
「――まだ分からない」トビアスは正直に答えた。「だが正攻法が通じない以上、もっと大胆な一手が必要になる」
王都の空は、いつもと変わらず青く晴れ渡っていた。
だが、その晴れやかさとは裏腹に、六人の胸には、これまでにない重い危機感が静かに広がっていた。
宰相グレイヴという巨大な壁。
その向こうに待つ真実への道は、これまでのどんな戦いよりも険しいものになりそうだった。
六人の戦いは、これからさらに大きな局面へと突き進んでいく。
(第76話へ続く)




