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第74話 繋がる糸、宰相の思惑

術師ギルド本部の一室は夜も更けているというのに灯りが絶えなかった。


 机に広げられた資料の山から古い紙の匂いが立ち上っている。水晶板の光がフィオナの疲れた横顔を青白く照らしていた。理恵たちが証拠の書類を差し出すと、フィオナはしばらく食い入るようにそれを読み込んだ。


「――これは」


 フィオナの声に緊張が滲んだ。


「宰相府の印章、間違いありません」フィオナは険しい表情で続けた。「これで封魔銀の備蓄と宰相府の関わりが明確になりました」


「大量の備蓄が何を意味するか分かるか」トビアスが静かに尋ねた。


「一つ思い当たることがあります」フィオナは別の資料を机に広げた。「実は少し前から、魔力炉の稼働記録に不審な点があったのです」


「不審な点、って?」理恵が身を乗り出す。


「《ゲート・リバーサル》とは別系統の、大規模な魔力消費の痕跡が記録に残っています」フィオナは続けた。「私の見立てでは、これは何らかの大規模召喚術式の準備段階です」


「召喚って、何を呼ぶつもりだ」ルークが険しい声で尋ねる。


「分かりません。ですが」フィオナは慎重に言葉を選んだ。「封魔銀は、召喚した存在を強制的に制御下に置くための拘束具にも使われます」


「――何かを召喚して兵器として使うつもりか」イアンが低く呟いた。


「以前、ヴァルガが言っていた《転界の触媒》のこと」理恵が震える声で言った。「もしかして、それと繋がってるんじゃ」


 その言葉に部屋の空気が張り詰めた。


「――あり得る」イアンが険しい表情で頷いた。「宰相は理恵の転移現象を利用して、異世界から何か強力な存在を召喚しようとしているのかもしれない」


「そんな」理恵は思わず口元を押さえた。


「もし、それが事実なら」トビアスが静かに、しかし確かな声で言った。「宰相は戦争を長引かせるだけでなく、さらに危険な賭けに出ようとしている」


「王国のためを思っての行動とは、到底思えませんね」メルが珍しく険しい表情で言った。


「私利私欲としか」コリンも憤りを滲ませながら言う。


「――これ以上放っておけない」トビアスが皆を見回しながら告げた。「宰相の計画が実行される前に止める必要がある」


「でも、どうやって」理恵が不安げに尋ねる。


「証拠を王に直接届ける」トビアスは静かに答えた。「宰相の後ろ盾がなければ、この計画は止められるはずだ」


 その提案にフィオナが慎重な表情を浮かべた。


「――簡単なことでは、ありません」フィオナは続けた。「宰相府は王城の内部にも深く根を張っています。謁見の手筈を整えるだけでも慎重に動く必要があります」


「時間との勝負ですね」理恵が静かに言った。


「そうなります」フィオナは頷いた。「できる限り急ぎましょう」


 その夜、宿へ戻る道すがら、理恵はこれまでの出来事を静かに整理していた。


 宰相グレイヴの陰謀。大規模召喚術式の準備。そして自分自身が、その計画の鍵になっているかもしれないという事実。


 その全てが理恵の胸に、これまでにない重い責任としてのしかかっていた。


 王都の夜は静かに更けていく。


 だが、その静けさの裏で宰相グレイヴの陰謀は着実にその歩みを進めていた。


 六人がその全貌を暴き、王に真実を届けられるのか。


 その答えは、これから訪れる緊迫した攻防の中でしか見出せないものだった。

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