第68話 王都潜入、静かなる調査
王都に戻った六人を迎えたのは、いつもと変わらぬ喧騒だった。
市場からは、焼き菓子の甘い匂いが漂ってくる。荷馬車の車輪が石畳を叩く音が、絶え間なく響いていた。だが、その賑やかさの中を歩く六人の胸には、これまでとは違う、張り詰めた緊張が宿っていた。
夜、術師ギルド本部の一室に、六人とフィオナが、密かに顔を揃えていた。
「――宰相府を、調べる、と」
フィオナは、事情を聞くと、しばらく、険しい表情を浮かべた。
◇ ◇ ◇
「無茶なことを」フィオナは、静かに言った。「だが……以前から、私も不自然な資金の動きには気づいていました」
「――心当たりがあるんですか」トビアスが身を乗り出した。
「魔力炉の運用予算が、この一年、説明のつかない形で、減額され続けています」フィオナは、水晶板に資料を映し出した。「表向きは、戦費の圧迫とされていますが……その分の予算が、どこに流れているのか追いきれていません」
◇ ◇ ◇
「《追跡の陣》を、使えないか」イアンが、資料を見ながら提案した。
「追跡の陣、って?」理恵が尋ねる。
「金銭や物資に付与された微弱な魔力の痕跡を辿る術式だ」イアンが説明した。「本来は、盗難品の捜索に使われるが……予算の流れを追うのにも応用できるはずだ」
「準備には、時間がかかりますが」フィオナが、頷いた。「試す価値はあります」
◇ ◇ ◇
「――危険は、伴います」フィオナは、六人を見回しながら続けた。「宰相府に、この動きが気づかれれば……皆さんの立場も危うくなる」
「承知の上だ」トビアスが、静かに答えた。「それでも進める」
その決意に、フィオナは、静かに頷いた。
「――分かりました。私も、できる限り協力します」
◇ ◇ ◇
調査は、こうして、密かに始まった。
表向きは、いつも通りの任務をこなしながら、裏ではイアンとフィオナが中心となり資金の流れを少しずつ、追っていく。
「――こういう時こそ、いつも通りの生活を、続けることが大事だ」
夜、理恵が夕食の支度をしていると、トビアスが静かに言った。
「怪しまれないため、ですか」
「それもある」トビアスは、続けた。「だが、それ以上に……この当たり前の時間を失いたくない」
◇ ◇ ◇
「――トビアスさんらしいですね」理恵は、微笑みながら答えた。「危険な状況でもちゃんと、日常を大事にするところ」
「あんたの影響だ」
その素直な一言に、理恵は、少し照れくさくなった。
◇ ◇ ◇
その夜、理恵は、いつもより多めに料理を作り六人での食卓を囲んだ。
賑やかな軽口も、いつも通りの掛け合いも変わらずそこにあった。だが、その賑やかさの奥にこれまでにない、確かな緊張感が、静かに横たわっていることを理恵は感じ取っていた。
――この穏やかな日々を、守るために。
その思いを胸に理恵は、六人での食卓を、これまで以上に大切に噛みしめた。
◇ ◇ ◇
調査の行方は、まだ、不透明だった。
宰相グレイヴという巨大な敵。
そして、まだ明かされない勇者紋の真実。
その両方が、これから六人の運命を大きく揺るがすことになる。
だが理恵はまだ知らない。
この静かな調査の先に、王国そのものを揺るがす大きな真実が待ち構えているということを。
王都の夜は、いつもと変わらず、静かに更けていく。
だが、その静けさの奥で、六人の戦いは、新たな局面へと、確かに踏み出していた。




