第55話 護符の材料、白鉱石の洞
術師ギルドから紹介された採掘場は、王都から半日ほどの山中にあった。
岩肌が剥き出しになった斜面に、坑道の入り口が、ぽっかりと口を開けている。中に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が、肌を刺すように包み込んだ。壁面には、白く輝く鉱脈が、蜘蛛の巣のように走っている。かすかに、鉱物特有の、金属じみた匂いが鼻をかすめた。奥から、鶴嘴を打ちつける音が、規則正しく響いてくる。
「――《白鉱石》は、この辺りでしか採れない」
案内の採掘師が、そう説明してくれた。
◇ ◇ ◇
「魔力遮蔽の護符には、この石が欠かせないんですか」
理恵が尋ねると、イアンが頷いた。
「白鉱石は、魔力を吸収しても、外部に漏らさない特殊な性質を持つ」イアンは、壁の鉱脈を見つめながら続けた。「これを核にして術式を刻めば、術者の魔力波長を、外部から探知されにくくできる」
「珍しい石なんですね」
「採取量が少ないから、値も張る。だが、あんたの安全のためだ。惜しむ理由はない」
その言葉に、理恵は、少し胸が温かくなった。
◇ ◇ ◇
採掘は、思っていたより難航した。
「――くそ、硬いな、これ」
ルークが、慣れない繊細な作業に、苦戦していた。
「ルークさん、それ、力任せに削ったら、石ごと砕けますよ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
「もっと、優しく」
理恵が、身振りで示すと、ルークは、渋々、力を緩めた。
◇ ◇ ◇
「――こういう繊細な作業、実は得意なんだ」
メルが、いつの間にか、器用な手つきで、鉱石を削り出していた。
「意外です、メルさん」
「昔取った杵柄、ってやつだよ」メルは、軽く笑いながら答えた。「細かい仕事、嫌いじゃないんだよね」
その言葉に、理恵は、以前見た硝子細工の工房での彼の姿を、思い出した。
◇ ◇ ◇
半日がかりの採掘の末、六人は、護符に必要な量の白鉱石を、無事に手に入れることができた。
「――お疲れ様でした、皆さん」
理恵が、差し入れの軽食を配りながら、労いの言葉をかける。
「疲れたけど、悪くない一日だったな」ルークが、汗を拭いながら笑った。
「みんなで、何かを一緒に成し遂げるのって、いいですね」コリンが、しみじみと呟く。
◇ ◇ ◇
王都に戻った翌日、イアンは、フィオナの協力のもと、護符の作製に取り掛かった。
「――完成には、数日かかる」イアンが、白鉱石を丁寧に磨きながら説明した。「術式を正確に刻む必要があるからな。……急いで、雑な仕上がりになれば、意味がない」
「待ってます」理恵は、静かに頷いた。「無理しないでくださいね」
「あんたに、言われたくないな」イアンは、少し笑いながら答えた。
◇ ◇ ◇
護符の完成を待つ間、理恵は、六人で過ごす、これまで以上に穏やかな日々を、大切に噛みしめていた。
ヴァルガの脅威も、転界の触媒という謎も、まだ、消えたわけではない。
それでも、六人で一つの目標に向かって、それぞれの得意を持ち寄る時間は、これまでの緊張を、少しずつ、和らげてくれるものだった。
王都の空は、今日も穏やかに晴れ渡っている。
その空の下で、六人の絆は、これからの試練に耐えうるだけの、確かな強さを、少しずつ育み始めていた。
そして、その絆が、やがて、それぞれの胸に秘めた想いを、抑えきれないほどの形へと、押し上げていくことになる。




