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入って来たのは、がたいがよく小綺麗な身なりで平民とは思えない一人の青年。
開口一番に「シャノン様ご無事ですか!?」と言われてシャノンは面食らう。
背中越しにジンが「知り合い?」と聞いてくるけれど、シャノンは分からないと答えるしかなかった。
シャノンを庇うようにしてくれているジンに隠れつつその青年を確認するも、やっぱり見覚えはない。
開いた扉の向こうに赤髪が転がってうめいるのが見える。
どうやらロイドはこの青年に制圧されたらしい。
「私はアレック様からシャノン様の警護を仰せつかっている者です。シャノン様を離してもらおう」
そう言いながら青年がジンに剣先を向けて構えるのでシャノンは慌ててジンの前に飛び出る。
「こ、この人は敵ではないんです。むしろ私を助けてくれた人といいますか…」
ジンをフォローすると、ジンも力いっぱいうんうんと頷いている。
「では、そこに転がっている男とは無関係だと?」
「あ、いや、それは…仲間なんだけど…」
ジンのその言葉で青年は下ろそうとした剣をしっかりと構え直す。
「何か事情があるのかもしれませんが、シャノン様に害をなそうとした人物の仲間である以上、簡単に信じることはできません」
確かにこの状況で敵か味方か瞬時に判断するのは危険だと思うのは仕方のないことかもしれない。
ジンも同じように思ったのか「お嬢さん、あとは頼んだと」と言いながら両手を挙げて降伏の意思を見せた。
シャノンは任せとけとばかりに頷き、青年は剣を鞘に収め、警戒しながらジンを後ろ手に拘束した。
とはいえ、こちらも初めて見たこの青年を信じていいものかと疑いの目で見ていると、視線に気付いた青年が慌てたように胸に手を当て頭を下げる。
「私はオスカー・スペンスと申します。マクリール公爵家の私兵で、アレック様の命により数カ月前からシャノン様を警護しておりました」
数カ月前とは、アレックと婚約した頃になる。
そんなにも前から見守られていことに全く気づかなかったシャノンは気恥ずかしくなった。
「……聞いてない」
「それは、その、こっそりバレないように警護するスタンスでしたので、アレック様は陰ながらシャノン様をお護りしたかったのかと」
こっそりバレないように警護する意味が分からない。それはもはや人を使ったストーカーではないだろうか。
きっとオスカーは毎日逐一アレックに報告をしてシャノンの動向を把握していたのだろう。
「…あの変態ストーカーめ」
静かに怒りながら公爵子息を変態呼びしているシャノンにオスカーとジンが驚いている。
「いやあの、アレック様はシャノン様の身を案じて……」
「そ、そうだぞ。結果的に助けに来てもらえたんだから、なあ?」
ジンの言葉にオスカーがうんうんと頷き、何故か二人が仲良くシャノンをなだめてくる。
「そ、そんなことより、シャノン様お怪我はありませんか?」
オスカーが空気を変えるようにシャノンを気遣う。
「あ、大丈夫です。どこも怪我していないし何もされていません」
「ああ、それは良かった」
心底ホッとしたオスカーに、自分の軽率な行動で迷惑をかけてしまったとシャノンはとても申し訳なくなった。
「オスカー様、お手を煩わせてしまって申し訳ございません。助けに来ていただき、ありがとうございます」
深々と頭を下げるシャノンにオスカーは慌てて頭を上げるよう懇願する。
「シャノン様が謝罪する必要はありません。私は自分の仕事をしただけですので。むしろ来るのが遅くなり申し訳ございません」
「いえ…よく私が捕らわれていると分かりましたね?オスカー様からみれば私は体調不良の人を家まで送っただけに見えていたと思うのですが……」
この家に入ってからさほど時間が経っていないのにオスカーが助けに来たことが不思議だった。
「ああ、それはシャノン様が女性を連れてこの家に入ったので暫く様子を見ようと待機していたら、軟禁中のエリザ様がシャノン様が助けた女性と出てきたので……これはただ事ではないと感じ二人を捕らえて聞き出しました」
「ああ、なるほど」
確かに、シャノンが入った家からエリザが出てきたなら、そりゃあ怪しいわとシャノンは思った。
まあ、軟禁中の彼女が自由に出歩いているだけでアウトではある。
執行猶予中の犯行なのでエリザの罪は重いものになるであろうけれど、今回ばかりはエリザを助けようとは思わない。
一歩間違えればシャノンは今頃女性の尊厳を失っていたのかもしれないのだから。




