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「私を敵に回したことを後悔するといいわ。じゃあ、せいぜい頑張ってね」
と、言い残してエリザは部屋を出て行った。
これから行われるであろう非道を見届けることはしないらしい。
同じ女性として良心が痛むのか、それとも単に屋敷へ戻る時間が迫っているのか、どちらだろう。
せめて前者であってほしいとシャノンは考えながら、目の前にいる男二人を睨みつける。
つり目の赤髪男が上から下までシャノンを値踏みするように見ると、「駄目だ。食指が動かない」と首を横に振りながらため息をついた。
「さっきの女が気に食わない女をヤレっていうから、同じようなエロい体をしてる女かと思って喜んで依頼を受けたのに、これはないだろ」
これとはどういう意味なのか。
とても失礼なことを言われているのは分かる。
「俺はやめとくわ。部屋の外で見張っておいてやるから後は任せた。ジン」
そう言うと赤髪はヒラヒラと手を振りジンと呼ばれた茶髪ロン毛男の返事も聞かず部屋を出て行った。
茶髪ロン毛は困ったように「まじか」と呟き、ガシガシと髪を掻くと、仕方ないといった感じでシャノンに向き合うようにしゃがみ込む。
男が同じ目線になり近づいたように感じたシャノンは咄嗟に身構え精一杯威嚇するよう睨む。
「お嬢さん、何をしでかしてあんなに恨みをかったわけ?」
「…………」
意外に優しい口調で問いかけてくる男にシャノンは口を開くかどうか迷う。
「俺はさ、いい儲け話があるからって半ば強引に連れてこられて、今これな訳。こう見えてもフェミニストで女の子を虐める趣味はないんだよなあ。しかもこんなお子様相手に……」
しゃがみ込み、頬杖をつきながら愚痴る茶髪ロン毛にシャノンは、おや?と思う。
自分が女としての魅力がないのが功を奏してるのは複雑だけれど、明らかにやる気のないこの男は話せば分かってくれそうな気がする。
「……あの、では無理をせず、このまま何事もなく解散ということにしませんか?」
恐る恐る聞いてみると男はうーんと悩ましげな顔をする。
「それは難しいな。多分ロイドは報酬を受け取っていると思う。そうなると依頼をこなさいっていうのはあいつの性格上許されない。仕事として請け負っている以上信用問題に関わってくるから俺がやらなければあいつが出てくる」
どうやら、依頼を受けたのも報酬を受け取ったのもロイドとかいうあの赤髪男らしい。
彼は茶髪ロン毛より話が通じなさそうなので選手交代は困るとシャノンは思った。
「では、そういうことがあったていでこの場を終わらせる、というのはどうでしょうか?」
「それは……意味分かってる?」
茶髪ロン毛が呆れるようにシャノンを見る。
この場を逃れたいがために考えなしの提案をしていると思っているのだろう。
「分かっています。例え偽装でもそういうことがあったと認めることは貴族令嬢として致命的な醜聞になります。あれは嘘だったと後から訴えても周りは信じてはくれないでしょう。一度出回った醜聞は嘘でも偽装でも、真実になるものだと理解しています」
結局やろうがやられまいが自分の評判は同じダメージを食らうだろうけれど、見ず知らずの男に触れられるのだけは嫌だとシャノンは思った。
「へえ、ちゃんと分かって言ってるのか。頭と性格の悪い粗暴な貧乏男爵令嬢だって聞いていたけど、話とはちょっと違うみたいだな」
「………」
エリザ様、めちゃくちゃ根に持っているなぁとシャノンは噛み締める。
「それでいいならこっちも手間が省けてありがたいが、お嬢さんは災難だな。傷物認定されたらこの先碌な男も寄ってこないし結婚も出来ないんじゃないか?」
しゃがんで目線を合わせながら気の毒そうに話す茶髪ロン毛――ジンという男は案外良い人だとシャノンは思った。
多少やんちゃをして稼いでいるのかもしれないけれど、こういう仕事は彼の範疇外なのか、やる気は感じられない。
現にシャノンの将来を案じて心配している。
「市井に下るのはどうだ?平民の男は細かいことは気にしないし、貴族でいるよりきっとマシな人生を送れる。なんなら俺が良い男を紹介してやるよ」
「いえ、それは……」
結構ですと言いかけて、シャノンはこの男は自分に婚約者がいることを知っているのだろうか?とふと思った。
シャノンはなんの権力もないただの貧乏男爵令嬢だけれど、公爵子息であるアレック・マクリールの婚約者でもある。
そのシャノンを襲うのは公爵家を敵に回すのも同然で、捕まればアレックの権限で直ちに私刑に処されるかもしれない。
なかなかのハイリスクを背負っているのだけれど、目の前の男は軽めのテンションだし、二人ともお互いの本名だと思われる名前を呼んでしまっていることから緊張感は皆無。
全体的に詰めが甘すぎることから、二人はエリザから詳しいことは聞かされていないのかもしれないとシャノンは思った。
「あの、私、婚約者がいまして…」
「うん?」
「マクリール公爵子息のアレック様と婚約しているんです」
「――………うん?」
ジンの体が固まった。




