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ああ可笑しい。そんな脅しで、はいわかりましたってなると思っているの?私のことを甘く見ないでちょうだい。再犯がバレたら罪が重くなることくらい分かっているわ」
「分かっているなら――」
何故こんなことを、と言おうとするシャノンをエリザが遮った。
「バレたら、でしょう?要は私が主犯だとバレなければいいのだもの。その貧相な脳みそで考えてごらんなさい?貴女をここへ誘い出したのは平民の女だし、この家はその女の家で私とは何の関係もない。私の素性はバラしてないから女が捕まったとしても私には辿り着かないってわけ」
自慢気なエリザにシャノンは根本的な問題を問いかける。
「いや、私はエリザ様が犯人だと知っていますけど……」
その言葉にエリザが悪い笑みを浮かべる。
「そうね。貴女が私を犯人だと訴えたら終わりだわ。だから貴女がそうできないようにしないとね」
含みを持たせた言い方にシャノンは嫌な予感がしてゴクリと喉を鳴らす。
「…………殺すつもりですか?」
自分の口をふさぐ確実な方法は二度と喋れなくすすことだ。
まさかエリザがそこまでするとは思っていなかったけれど、不穏な空気にシャノンはエリザの意図を探るよう真っ直ぐに見据える。
「うふふ。そうしたいところはやまやまだけれど、さすがに殺しと死体処理を請け負ってくれる人を雇うのは難しかったわ。お金もかかるしね」
「……そうですか」
シャノンが怯えていると思ったのか、エリザは満足そうな表情を浮かべている。
「なので貴女の口を塞ぐ方法を二つ考えてみたの」
腕を組み、悪意のある笑みを携えながらシャノンを見下ろすエリザは絵に描いたように立派な悪役令嬢だなとシャノンは思った。
「一つはこのまま貴女を遠い国へ奴隷として売り飛ばして存在自体を消してしまう。二度とこの国へ戻れなかったら誰にも訴えることはできないでしょう?」
エリザは指を1本立てながら楽しそうに話し、二本目の指をゆっくりと上げる。
「二つ目は貴女を男に襲わせて滅茶苦茶にして、アレック様の婚約者に相応しくない体にする。そうすれば自分がそんな辱めを受けたなんて知られたくない貴女はそのことも、私が関わっていることも誰にも話さないでしょうし、弱味を握られた貴女は一生私の言いなりだわ」
名案でしょ?というエリザにシャノンは嫌悪感を覚える。
「同じ女性なのに随分酷いことを考えるんですね」
「貴女のために特別よ」
相当自分は嫌われているなぁとシャノンは思った。
やはり、ほっぺたを掴んでタコのようにされたことを根に持っているのだろうか……。
「お言葉ですが、私を遠い国へ売り飛ばしたとしてもアレックはきっと私を探し出します。彼なら全財産と全権力を使って国すら動かして何を犠牲にしてでも私を見つけ出します」
シャノンが毅然とそう言ってのけるとエリザの眉がピクリと引き攣る。
「ああいやだ。どこまでおめでたい頭なのかしら。貴女がそこまでアレック様に大切にされているわけないじゃない。自惚れるのも大概にしなさい!」
エリザの言う通り自惚れているのかもしれないけれど、シャノンは漠然とアレックならそれくらいのことはやってのけると思った。
「次に私を男に襲わせても私はエリザ様の言いなりにはなりません。私は被害を隠しませんしエリザ様が仕組んだのだと訴えます」
「甘いわね。本当にそうなったら言えるわけないわ。平民の男に襲われた貴族令嬢なんて娼婦以下の扱いになるのよ。周囲から汚い物を見るような目でみられて、アレック様だって純潔を失って汚された貴女を捨てるに違いないわ」
エリザが当然のように言い張る。
確かに貴族令嬢がそんな目に遭えば、その令嬢の今後の人生は苦難に満ちたものになるかもしれない。
だけど……。
「――いやいや、エリザ様はアレックの今までの下半身事情ご存知ですよね?自分はあんなに奔放に遊び回っておいて、私には純潔がどうとか言える立場だと思います?一度そういう行為をして純潔を失った私が汚いとか言われるなら、あの遊び人はどうなるんですか?何人と何回したか分からないの下半身男はゴミ以下のバイキンってことになりますよね!?」
シャノンの力説に少したじろぎながらもエリザはフンッと呆れたように鼻を鳴らす。
「そんなのは屁理屈というのよ。結局男は女に純潔を求めるの。特に結婚相手にはね。アレック様だってそう。美人と遊びまくっておいて結婚となると処女丸出しの地味な貴女を選んだ。それが答えでしょう?」
「それは違うと思います。アレックはそんな人間ではありません」
エリザの言葉をキッパリと否定するシャノンにエリザはイラつきを覚えたのか、口の端がピクリと動く。
「へぇ……。じゃあそこまで言うなら試してみましょうよ。貴女が卑しい平民の男に襲われて処女ではなくなってもアレック様は変わらず貴女を婚約者にと望むのか」
シャノンはしまったと思った。
アレックは遊び人で貞操なんて気にしない人だから自分を襲わせても無駄だ、つまりそういうことはやめておいたほうがいいと言いたかったのに、アレックのことでついムキになってエリザの気持ちを逆撫でしてしまった。
「いやー……、それはちょっとお断りしたいです」
「いやだわ、貴女に断る権利なんてあるわけないでしょう?」
そう言うとエリザは部屋の扉の方ヘ向くと、「入って来て」と少し大きめの声で呼びかけた。
ガチャリと開いた扉から入ってきたのは二人の男達。
一人はつり目の赤髪短髪、もう一人は目鼻立ちのはっきりとした茶髪ロン毛で、二人ともそこそこ顔立ちの整った二十代前半の若者といった感じだろうか。
お世辞にも品があるとは言えない風貌と出で立ちで、このタイミングでこの二人を呼んだことに嫌な予感しかしない。
「紹介するわね。この二人は今から貴女の相手をして下さる人達よ」
「やっぱりかあ」
嫌な予感的中にシャノンは眉間にしわを寄せ目を閉じる。
―――大ピンチだ。




