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「シャノンのことを条件にアレック様から支援を受け、それを秘密にしていたことはちょっとだけ悪かったと思っている。けれど私は可愛い妹を売ったつもりはないんだ。婚約解消に関しては本当にシャノンの好きにしてくれて構わない」
「お兄様⋯⋯」
「どうしてもアレック様との結婚が嫌なら無理する必要はない。でも、ひと言だけ言わせてもらうと、アレック様ほどシャノンのことが好きな男はもう二度と現れないと思うよ」
真っ直ぐに見つめるクリスの瞳にはシャノンへの心配がうかがい知れ、本心から言っていることが分かる。
いつもは口うるさいクリスの優しい口調にシャノンは胸の奥がキュッとなった。
「……分かっています。アレックがストーカー並みにずっと昔から私のことが好きだって」
「ストーカーかあ、確かに」
「遊び人だけど、ある意味一途すぎる変態だって」
「ある意味な」
「お父様とは違うって」
「全く違うね」
クリスはうんうんとシャノンの言葉を肯定しながら、そっと立ち上がるとシャノンの傍らに立ちぽんぽんと頭を撫でた。
「……私もアレックのことが好きだって」
「そうか」
クリスが子供をあやすように優しく頭を撫でるので、シャノンは不意に涙が出そうになる。
「……分かっているのに、怖くて仕方ないんです」
「うん」
母親が死んで父親が出て行った日もこうやってシャノンの頭を撫でなから、大丈夫だと何度も言い聞かせたことをクリスは思い出す。
まだ十歳足らずのシャノンの顔には不誠実な父親への怒りと悲しみが滲み出ており、泣くまいと涙を堪える妹を自分が親となって守ろうと決めた。
あの父親のせいで男性不信に陥ったシャノンは結婚観を拗らせ、結婚に嫌悪感すら抱いているようだった。
カスタラント男爵家の為になる結婚なら受け入れると本人は言っていたがシャノンが幸せになれない結婚ならする必要はないとクリスは思っていた。
アレック様からの支援の申し出は、シャノンへの好意からだとすぐに分かったが、正直、子供の気まぐれが学校を卒業するまで続くとは到底思えなかった。
美男子で優秀な公爵子息のアレッ様クなら女性などいくらでも選べるし、自分も男の性というものを嫌というほど分かっていた。
だから彼と疎遠になって落ち込むシャノンに心を痛めながらもアレック様からの支援を伝えるつもりなどサラサラなかったし、彼がシャノンをキープしようというなら、こちらも割り切って利用するだけだと思った。
もともと意に沿わぬ結婚をシャノンにさせるつもりはなかったので、学校卒業までに婚約が整わなくてもこちらは何の痛手もない。
予想に反して支援は何年も続いたけれど、それは単に支援していることを忘れているだけか、それとも公爵家の意地で打ち切らないだけだろうと思っていたので、アレックからの婚約申し込みには心底驚いた。
何か深い事情があるのか、シャノンを都合よく扱おうとしているのか、様々な懸念を抱きながら久しぶりに会ったアレック様は、八年前とは比べ物にならないほど美しく、そして逞しく成長しており、次期公爵当主に相応しい圧倒的な存在感を放っていた。
この八年間の理由を聞いた時は突っ込みたくもなったけれど、男としては何となく気持ちも分かる。
むしろ実行した彼の行動力は尊敬に値するかもしれない。
その結果得た彼の揺るぎない気持ちに、その八年は必要だったのだと思わされた。
全てを兼ね備えているアレック様がなぜそこまでシャノンに固執するのか分からなかったが、彼ならシャノンを救ってくれるかもと婚約を受け入れた。
―――……とはいえ、男性不信のシャノンが遊び人だと言われているアレック様を好きになるのは並大抵のことでは無理だろうとは思っていたのに……。
クリスは瞳を潤ませ、大人しく頭を預けているシャノンを見てその心配が杞憂やに終わったことに少なからず驚き、昔とは違う涙を堪える妹を微笑ましく見つめた。




