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突然疎遠になって遊び人になった幼馴染が結婚を迫ってきます。  作者: 那由多芹


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「―――⋯実は、八年前からアレック様はずっとカスタラント男爵家に支援して下さっていたんだ」

「⋯⋯え?」


 シャノンがクリスの言葉を理解するのに少し時間がかかった。


 ―――八年?八年ということは⋯⋯。


「シャノンとアレック様が疎遠になってからの話になるが、アレック様からカスタラント家へ事業支援の申し出があったんだ。正直、あの頃は資金不足が原因であと一歩軌道に乗り切れない状況が続いていたから本当にありがたい話だと思った」


 確かにあの頃、亡くなった母に変わって領主の仕事を引き継いだ兄はまだ若く、奔放で不誠実な父は周囲の信頼を失っており、カスタラント男爵家を支援してくれるところなんて無かったから、アレックからの申し出は渡りに船といわんばかりだっただろうとシャノンは思った。


「けれど当時アレック様はまだ十歳そこそこの少年で、マクリール公爵家の次期当主とはいえ仕事に関しては実績もなく、そもそもなぜさほど旨味もなさそうなカスタラント男爵家(うち)に支援を申し出てくださったのか⋯⋯シャノンと多少交流があったのは知っていたけれど、その頃は疎遠になっていたのも知っていたしね。信用していいものか、迷いに迷ったよ⋯⋯」

 クリスがその頃の苦悩を思い出すように遠くを見つめる。

 そりゃあ、喉から手が出るほど欲しい支援だとしても自分より年下の少年からの申し出となれば、本当に大丈夫なのか迷うのは当然だろう。


「何かとんでもない交換条件をふっかけられるのかと思いながらも、とりあえず話し合いの場を設けたところ、アレック様側の見返りは一部利益還元とあ(・)る(・)条(・)件(・)だと言われてね」

「ある条件、ですか?」

「そう。その“ある条件”を聞いて支援を頼もうと決めたんだ」

「⋯その条件というのは?」

「聞きたいか?」

 ニヤリと意地悪そうに笑い勿体ぶるクリスにイラッとしながらもシャノンはぐっと我慢して首を縦に振る。


「その条件とは“学校を卒業するまではシャノンを婚約させないこと”」

「へっ?」

 シャノンは突然出てきた自身の名前に驚く。


「驚いたが、アレック様の真剣な顔を見てこの条件こそが支援の目的だと理解したよ」

「―――っ」

「一部利益還元といっても微々たるもので、シャノンの為にカスタラント男爵家を助けることも目的だったのだろうね」


 八年前に疎遠になってからアレックは自分とはスッパリと距離を置いて無関係に過ごしていたと思っていた。

 ずっと好きだったとは言っているけれど、自分の事など忘れてひたすら女遊びに精を出していたのだろうと思っていた。

 でもアレックは自分の知らぬ所でずっと関わっていたのだ。


「⋯⋯本当に、私のことが好き⋯だったのね」

 理解はしていたものの、改めて実感させられシャノンは自分の顔が熱くなるのを感じた。


「どうして教えてくれなかったのですか?」

 当時、アレックから突然疎遠にされ落ち込んでいたのを知っていたのに、と冷ややかな目を向ける。


「シャノンには言わないようにとアレック様から釘を差されたんだよ。シャノンが落ち込んでいたのは知っていたけれど、何か事情があるのだろうと思ったしね」


 確かに、アレックが自分から距離を置いた理由からして、援助を自分に知られる理由にはいかなかったのかもしれない。

 心の中では分かってはいるけれど、シャノンは自分だけ知らされなかった事実がもどかしい。


「それにアレック様はどう考えてもシャノンのことが好きそうだったから、余計な口出しはせず二人を見守ろうと思ったんだ」

「お兄様⋯⋯」

 満足げにクリスが微笑む。


「⋯⋯なんか“理解と包容力のあるいい感じの兄”っぽくなってますけど、結局援助のために私を売ってません?」

「ええっ!?」

 盛大にギクリとしたクリスは分かりやすく慌てている。

「――っ、そ、そ、そんなことないと思うけどなぁ?」

 そりゃ、ほぼ善意のボランティアでカスタラント男爵家(うち)を援助してくれるのは神か仏かアレック様か、くらいのものだったろうから仕方ないけれど。


「じゃあ、今まで私に来た婚約打診はすべて断ってきたということですか?」

「あ、それはない」

「ん?」

「婚約をさせないこという契約はしたものの、実際婚約の申し込みはなかったから断ることはしていない」

「⋯⋯へえ」

 もしかしたら自分はこっそりモテていたのかもと一瞬でも思った自分をビンタしてやりたいとシャノンは思った。


「――まあ、きっとアレック様が裏で握りつぶしていたのだろうけど⋯」

「え?何か言いました?」

 クリスがボソリと何かを呟いたけれどシャノンは聞き取ることができなかった。

「いや、何でもないよ」とクリスがニコリと笑う。


 シャノンは特段美人ではないけれどそこそこ可愛いし、カスタラント男爵家の評判も良くなりつつあるのに今まで婚約打診が全く無かったのは不自然以外の何物でもない。

 きっと裏でアレックが動いていたのだろうと思ったけれど、余計なことは言わないでおこうとクリスは口をつぐんだ。


 


 

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