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――――あれから、シャノンはクラリッサに話を聞いてもらい、少しすっきりした後、早退をして家に帰った。
泣いてしまった顔で過ごしたくないのと、自分の気持ちをゆっくりと考えたかったのもある。
フローラには私用で帰ると伝え、トルネオにも伝言をお願いした。そうすればアレックにも伝わるだろうから。
自室の机に座り頬杖をついて窓の外を眺めると、すぐそこの木に二羽の鳥が寄り添って留まっており、チチチと何やら会話している。
――仲良さそうでいいなぁ⋯⋯。鳥って浮気はしないのかしら?
などとぼんやり考える。
クラリッサにアレックから突然疎遠にされたこと、その時の辛さを思い出すとアレックを受け入れるのが怖い、と正直な気持ちを相談した。
クラリッサは、そんなことがあったのね、と驚きながらも、それは怖くて当然だわと寄り添ってくれ、怖いなら無理をしなくていいといってくれた。
怖いものは怖いから仕方ない。
けれど、アレックを受け入れるのと彼を好きだと認めるのは違うから大丈夫よ、と。
そう言われて、シャノンは少し気持ちが軽くなり、背けていた自分の気持ちに向き合ってみようかと思えた。
窓の外の二羽は一緒にどこかへ飛び立ってしまった。
この広い空でもしはぐれてしまったらお互いを見つけ出すことはできるのだろうか。
見つけるまで探し続けるのか、それとも、見切りをつけて違うパートナーを見つけるのか⋯⋯。
そう考えると胸の奥がギュッとなった。
自分はアレックと婚約解消したら、その後、彼以外の別の人を見つけるのだろうか⋯⋯?
―――⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
うん、無理だ。
アレック以外の人とどうにかなるなんて想像もつかない。
何より、そうなるとアレックも自分以外の誰かと結婚するだろうことを考えたくもなかった。
これはもういい加減認めるしかないとシャノンはため息をついた。
自分はとっくにアレックのことが好きなのだ。
あの綺麗な碧い瞳は自分だけを見てほしいし、あの大きな手は自分だけに触れてほしい。
彼が沢山の女性とキスをし、裸で抱き合ってきたことを想像するだけでとてつもなく嫌な気持ちになる。
これが嫉妬というものなら、想像するに余りあるほど母は辛かっただろうとシャノンは思った。
嫉妬なんて感情は自分の醜い部分を浮き彫りにするだけだと思っていたのに、嫉妬が自分の気持ちを気付かせたことを思うとシャノンは母の気持ちが少し分かった気がした。
なぜあんな最低な父を見切らないのかとずっと不満だったけれど、母は父が別の女性と浮気する度に嫉妬で身動きが取れなくなってしまっていたのかもしれない。
自分は母親のようにはならず、激しい感情も抱かずそれなりに好きだと思える人と結婚してそれなりに平穏に生きていきたいと思っていたのに⋯⋯。
シャノンが頭を抱えて机に突伏していると、突然ガチャリと部屋のドアが開き勢いよく暮らすが入って来た。
「シャノン!大丈夫か?」
「ノックぐらいするのがマナーでしょ!?」
驚いたシャノンが怒る。
「いやだが、早退してきた上におやつのクレープも食べないで部屋に閉じこもっているなんて⋯⋯シャノンがおやつを食べないなんて、死ぬほど具合が悪い以外考えられないじゃないか!」
「おやつ、二回も言わなくても⋯」
「いや、大事件だろ!?」
確かに多少⋯いや、何を置いても昔からおやつだけは死守してきた自覚はあるけれど兄にそこまで心配されるとはシャノンは心外だった。
「具合が悪いわけではないので大丈夫です」
「具合が悪くないのに、おやつを食べないだと!?」
クリスは信じられないものをみるような目でシャノンを見る。
「ちょっと、考え事があっただけなので心配ご無用です。おやつも後で食べます」
帰宅直後は頭の中がいっぱいいっぱいで、おやつのことを考える気にならなかったけれど、少し頭の中が整理できた今、おやつを食べる余裕はできた。そっか、今日はクレープなのか。
「考え事?シャノンがおやつより優先する考え事とは、もしや婚約解消についてかい?何か問題でも起こしたか?」
「いえ、問題を起こしたとかでは⋯」
「それならいいが、くれぐれも公爵家とは揉めないでくれよ?」
クリスが念を押すが、シャノンは「はいはい」と適当な返事をする。
「婚約解消は上手く進んでいないのだろう?」
「う⋯⋯」
婚約解消させてみせると意気揚々と飛び出した手前、その通りですと言うのが憚られたシャノンは口ごもる。
その様子を見たクリスはうんうんと頷きながら、シャノンがいる机に近いソファーに腰かけた。
「まあ、そりゃそうだろう。あのアレック様がやっと手に入れたシャノンを諦めるとは到底思えないしな」
「ん?⋯やっと?」
「あっ」
シャノンの突っ込みにクリスはしまったと口を手で覆う。
「お兄様?今、やっと手に入れたって言いましたよね?それはどういう意味?」
シャノンがにらみつけるもクリスは「そんなこと言ったっけ?」と明後日の方向へ視線をそらす。
「そんな分かりやすい怪しさで白を切れるとでも?」
シャノンがにじり寄るとクリスは諦めたように「わ、分かった、言うよ」と両手を挙げて観念した。
「⋯⋯まあ、もういいだろう」とぼそっと言いながらクリスはシャノンに向き直った。




