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突然疎遠になって遊び人になった幼馴染が結婚を迫ってきます。  作者: 那由多芹


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 ―――アレックのことが好き。


 シャノンはクラリッサの言葉に衝撃を受け固まったままグルグルと考えを巡らせる。


 自分が感じた、どうしょうもなく胸がザワザワする嫌な気持ちが“嫉妬”というものだと言われて納得する一方で、それがアレックを好きだということに繋がっていることに混乱する。


「す、好き⋯⋯?アレックのことが⋯⋯⋯」

「どう考えてもそうでしょ。まあ、あれだけ素敵なアレック様を好きにならない方がおかしいのだけれど」

 クラリッサは当然だといわんばかりにうんうんと頷く。


「でも、遊び人は⋯⋯」

「まだそんなこと言っているの?それはアレック様の過去であって未来ではないわ。過去にこだわって拒絶するのは如何なものかしら。今のアレック様は貴方に誠実だって分かった所でしょう?この私にも靡かなかったのだからそこは認めてちょうだい」

「それは、そうなんですけど――」

「遊び人だったから将来浮気するって決めつけているけれど、人の気持ちなんて誰にも予測出来ないのよ?どんなに真面目で実直な夫でも身を狂わす程の恋に落ちて家庭を捨てる時もあるし、夫一筋の貞淑な妻だって若い男の肉欲に溺れて破滅することもある。浮気なんて誰にでも起こりうる裏切りなのよ。なんならシャノンさんも将来浮気するかもしれないし」


 クラリッサに気圧されながらもシャノンは確かにその通りかもしれないと、自分が独りよがりの固定観念にとらわれていることに気付いた。


 アレックは父のような人間ではない。


 それはアレックと過ごすうちに嫌でも理解した。

 彼は妻子を放って、自分の職務を放棄して、己の欲望のままに遊びまくるような愚かな人間では絶対に、ない。


 自分のことを昔からずっと好きだったというのも本当だと思えるし、アレックが浮名を流しまくっていた理由も分かった。

 粘着質で厄介な変態だけれど、超イケメンでスタイル良くてお金持ちで将来安泰の次期公爵様。


 自分にはもったいない人なのに、それなのに何故、彼を好きだと認めるをこんなにも躊躇うのかシャノンは自分でも分からない。


 煮え切らないシャノンを見てクラリッサは不思議そうに口を開く。


「シャノンさんが懸念していることはおおかた解決しているのに、そこまで自分の気持ちを認めたくないなんて⋯⋯他に理由があるのではないかしら?」

「他に?」

「そうよ。だってシャノンさんはなんだか怖がっているように見えるもの」

「怖い⋯⋯」

「アレック様と両想いになるのが怖いのかしら?」

 その言葉にシャノンは言い当てられた気持ちになり「⋯⋯そうかも」とポロリとこぼした。


「あら?それはあんなに素敵なアレック様の隣に立つのが怖いという意味?」

「私なんかがっておこがましさはあるけれど、それは怖いとはまた違う⋯と思います」

「じゃあ何かしら?アレック様は優しいから怖いはずないし⋯⋯」


 クラリッサがうーん?と思案する横でシャノンは何かが分かった気がした。


 ――自分が怖がっているのはアレックではなくて、アレックと両想いになる事だ。

 アレックの気持ちが本当だと分かった今、自分も気持ちを認めたら両想いになってしまう。

 アレックと一緒にいるのは居心地よくて楽しくて自分は幸せになると()()()()()()()


 ―――だって、一度経験したから。


 ―――そしてその幸せを突然失う経験もした。


 あの辛さを二度と味わいたくない。

 手に入れてしまえば失う可能性が出てくる。

 アレックを二度と失いたくないから⋯⋯アレックを手に入れるのが怖くてたまらない。


 シャノンの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちるのを見てクラリッサは「あらあら」と自身のハンカチで拭った。


「すみません。何でだろ、突然涙が⋯⋯」

「いいのよ。何が怖いのか分かったのね?」

 そう聞かれてシャノンは躊躇いがちに小さく頷く。

「それは克服できそう?」

「⋯⋯どうでしょう」


 シャノンは内心無理かもと思った。

 八年前はアレックを大切な親友だと思っていた。

 もしかしたら恋心もあったかもしれないけれど、自覚はしていなかった。

 

 でも今は―――

 今は八年前とは違う。

 今の自分がアレックを失ったら⋯⋯

 考えるだけで怖くてたまらない。 



 浮かない表情のシャノンを見て気遣うようにクラリッサが話しかける。


「私で良ければ話を聞かせてもらえる?」

「クラリッサ様⋯⋯」


 こんなに複雑な気持ちをどう処理をしていいのか分からない恋愛初心者のシャノンにとってその言葉はありがたかった。


「聞いてもらいたいです。でも⋯いいのですか?」

 自分とアレックの話なんて聞きたくないだろうとシャノンは気を遣う。


「あら、何その変な気遣いは?私はもう変態さんは好きではないと言ったでしょう?心配ご無用よ」

「そうでした」

「だから遠慮なく話してちょうだい。第三者からの意見て割と役に立つのよ」


 クラリッサは腰に手を当てて胸をドンと叩く。


 ―――この女性(ひと)より私を選ぶなんて、アレックは残念な変態だわ、とシャノンは視界を滲ませた。

 

 

 

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