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翌日、シャノンはクラリッサに会いに行った。
自分には会いたくないのかもしれないけれど、会って話さなければとシャノンは思った。
クラリッサの教室に入ると数名がシャノンに注目する。
以前のシャノンでは考えられないくらい、今の彼女は有名になっているのだ。
クラリッサもシャノンに気付いたようで目が合うと立ち上がってやって来た。
「シャノンさん、会いに来てくれたのね」
そう優しく微笑みながらクラリッサはシャノンの腕に手を回して教室の外へと連れ出す。
アレックの婚約者が彼の元彼女に何の用で会いに来たのかと周囲が好奇な目で見ている中、クラリッサはあえてシャノンと親しげに振舞ってくれているように思えた。
“今日はいいお天気ね”とか“もうすぐ卒業式ね”なんて他愛のない話をされながら、クラリッサの誘導で連れて行かれたのは人けのない校舎裏にひっそりと佇む小さなガゼボだった。
この学校はとても広く、所々にこういった生徒たちの憩いの場があるけれどシャノンはこの小さなガゼボは存在すら知らなかった。
生徒達の活動動線から外れた場所にあるからか、大きな木の小陰で隠れているからなのか、完全に穴場だとシャノンは驚いた。
「ここはとっておきの場所なのよ。ここなら他人に見られることも話を聞かれることもないわ」
そう言うとクラリッサはガゼボに座り、隣の席ををポンポンと叩いてシャノンに座るよう促した。
遠慮なくシャノンはクラリッサと並んで座る。
「⋯⋯秘密の場所だったのだけれど⋯⋯もうその必要もないしね」
淋しげに笑うクラリッサを見て、この場所はアレックとの逢瀬の場所だったのだろうなと思った。
ここで二人は恋人同士のような濃密な時間を過ごしたかと思うとシャノンは胸の奥がザワザワするのを感じた。
「⋯⋯⋯昨日、先に帰ってしまってごめんなさいね」
「いえ⋯⋯」
「全部聞こえてたかしら?」
「はい。⋯⋯多分」
「そう」
そう言うとクラリッサは黙ってしまった。
シャノンもこのあとどう話をするべきか言葉がうまく出てこない。
クラリッサの涙を見て、彼女の気持ちを知ってしまった今となって婚約者であるシャノンが何を言っても皮肉にしかならない気がするからだ。
「あれで分かってくれたかしら?アレック様がシャノンさんのことを本気ずっと好きだったってこと」
「⋯⋯はい」
「私の作戦は大成功ね、ただシャノンさんの思惑とは外れてしまったかもしれないけれど」
「⋯⋯⋯」
クラリッサの誘惑が失敗したということだけれど、シャノンはどう答えていいの分からない。
「やだ、そんな顔しないでちょうだい」
その言葉にシャノンはハッとしてクラリッサを見る。
目が合うとクラリッサは少し困ったように微笑んだ。
「やっぱり⋯私の気持ち分かってしまったわよね?泣き顔も見られちゃったし」
「⋯⋯ごめんなさい」
「謝らないで。なんだか悔しいから」
「ああっ、ご――」
また謝りそうになったシャノンは慌てて自分の口を押さえる。
「私、少しはアレック様に愛されている自信があったの。だから貴方にはああ言ったけれど、アレック様が私の為に少しくらい貴方を裏切ってくれると思っていたわ。⋯⋯キスくらいしてくれると思っていた。私の最後のお願いなのだから⋯⋯」
昨日、アレックに唇を塞がれそうになって心臓が壊れるくらい動揺したのに、この人はアレックとのキスを“キスくらい”と言ってしまえるほど慣れたものなのだと思うとシャノンの胸はまたざわついた。
―――?。
なぜ自分がこんな気持ちになるのか自分でも分からない。
「でもそれは私の完全な自惚れで、アレック様は私のことなんて好きじゃないって思い知らされちゃった」
クラリッサは悲しそうだけれど、おどけたような口調でシャノンに話しかける。
「クラリッサ様⋯」
「貴方の為だなんて言いながら、貴方を利用した罰ね」
「そんな、利用したのは私の方です。無神経にもクラリッサ様に甘えてしまって――」
「それは違うわ。言い出したのは私で貴方を言い包めたにすぎないもの」
クラリッサはシャノンを叱るかのようにピシャリと言い放つ。
「私はアレック様への想いにけじめをつけたいとか言いながら結局未練タラタラで、単にもう一度キスしたかっただけなの。そして、それを貴方に見せることで“私も愛されているのよ”ってマウントをとりたかっただけなのよ。本当、性格悪いわよね⋯⋯ごめんなさい」
クラリッサがしょんぼりと心境を吐露するけれど、こんなにあけすけに素直に語る彼女が性格悪いわけないし、恋敵でもある冴えない男爵令嬢の自分に誠実に対応してくれるなんて、なんて素敵な女性なんだろうとクラリッサは思った。
「クラリッサ様は性格悪くなんてないです。優しいし可愛いし、スタイルだって神がかってるし⋯全てにおいて私が敵うところなんてない」
――なのに何故アレックは私が好きなのか分からない。
シャノンはその言葉をぐっと飲み込んだ。
その様子を見てクラリッサは、小さく溜息をつく。
「本当にその通りよね。私はこんなに完璧なのに、体の相性だって良かったのに」
「体⋯⋯」
「ふふっ、なんて顔してるの?」
「えっ?」
おどけたように指摘され、シャノンはドキッとする。
「想像して嫉妬してしまったのかしら?」
「嫉妬だなんて」
「だって顔に出てるわ。私とアレック様がそういうことしたって想像して嫌な気持ちになったでしょう?腹が立ったんじゃない?」
正直に答えて、とクラリッサが真っ直ぐに目を見て言うのでシャノンは自分の気持ちを確認してみると確かに嫌な気持ちになっているし、ムカムカしている。
「⋯⋯確かに⋯でも、それはアレックの女好きに対する嫌悪感だと思います」
「あら、そうとるのね。なるほど」
「だって、そんな嫌な気持ちになるのはここが二人の逢瀬の場所なんだなって思った時とか、クラリッサ様が“キスくらい”って言った時とかアレックのチャラさが思い浮かぶ時ですし――」
シャノンが嫉妬ではないと必死で力説する横でクラリッサはクスクスと笑い出した。
「つまり、アレック様が私といちゃついてたって思うと腹が立ったのでしょう?」
「えっ?う⋯⋯うん?」
「ここで二人の時間を過ごしたのも、何度もキスをしたのも、体を重ねたのも、相手が自分ではないから悲しくなったのでしょう?」
「⋯⋯⋯⋯」
「あのね、そういう色々な複雑な感情を人は『嫉妬』って言うのよ。シャノンさんは私に嫉妬してるの」
「ええっ!」
クラリッサにはっきりと指摘されてシャノンは純粋に驚いた。
確かにクラリッサの言うような複雑な気持ちになっているけれど、これが嫉妬だとしたら⋯⋯。
「貴方はアレック様のことが好きになったのね」
「―――!!!」
その言葉にシャノンは雷に打たれたように固まった。
―――好き?
―――私が、アレックのことを⋯⋯⋯⋯?
―――うそやん⋯⋯。




