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突然疎遠になって遊び人になった幼馴染が結婚を迫ってきます。  作者: 那由多芹


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 自分の口に手を当てうつむきがちに思考を巡らせているシャノンの頬をアレックの大きな両手が包み込むとグイッ持ち上げる。


「ね?考えれば考えるほど僕は君の理想にピッタリだ」


 吐息がかかるほどの至近距離。


 真っ直ぐに自分を見る目の前の美しい男が()()() 自分の事を昔から好きなのかもしれないと初めて思ったシャノンは自分の顔がだんだんと熱くなるのを感じた。


「――っ!」


 突然、この状態がとんでもなく恥ずかしくなってしまったシャノンは大きな両手から逃れようと抵抗を始める。


「―――んむーっ!」


 両手でアレックの胸元を押し、顔を引っこ抜こうとしているシャノンの頬はアレックの両手によって押しつぶされて大変残念なことになっているに違いない。

 そんなことよりもこの状況から逃れたいシャノンは必死にもがく。


「⋯⋯これでもだめかぁ」

 そうアレックがポツリと呟き、シャノンの両頬から手を離した。

「そんなに拒否されるとさすがに傷つくなぁ」

「あ⋯」

 得体の知れない感情のせいで恥ずかしくなっただけだったのに、アレックに誤解を与えてしまったとシャノンは気付く。


「ちが⋯―――」

 ――違う、そうじゃないのと説明しようとした時、アレックがトンと軽くシャノンの肩を突いた。

 不意に力が加わったせいでシャノンはいとも簡単に後ろに倒れこみ、ふかふかのソファーが彼女を受け止める。


「――え?」


 何が起こったのか驚くシャノンに「仕方ない」というアレックの言葉が聞こえた。

 何が仕方ないのかと問うようにアレックを見ると彼はニコリと微笑んだ。

 心なしかその微笑みが薄暗く感じる。


「ここまで言って駄目なら既成事実でもつくるしかないか」

 そう言いながらアレックは自分の首元のネクタイを無造作に緩めはじめた。


「へ?」

 ――キセイジジツって何だっけ?と思っていると、アレックが覆いかぶさるようにシャノンの頭上に手をついた。

 押し倒されているような体勢になり、自分の上にあるアレックの顔の近さにシャノンはパニックになる。


「――なっ、なに?近い、近いっ!」

 シャノンは両手を精一杯伸ばしアレックを押し退けようとするけれどアレックの強靱な体は硬く、びくともしない。

 

 力を入れ過ぎてプルプルと震えるシャノンの両手をいとも簡単に掴むとアレックはソファーに押さえつけた。

 獲物を狙うかのようなアレックの碧い瞳にシャノンは本能的に危険性を感じ取る。


「――キ、キセイジジツって⋯⋯なんでしょう?」

 恐る恐る聞くとアレックはフッと笑う。

「聞く?」

 その顔にシャノンは聞いたことを瞬時に後悔した。


「シャノンが僕のことを好きになるまで気長に待つつもりだったけど、まだ時間がかかりそうだし、とりあえず僕から逃げられないよう先に子供作っとこうかと思って」

「――⋯子供?」

「うん、子供」


 まるで料理でも作るかのように簡単に提案するので、え?子供ってどうやって作るのだっけ?とシャノンは混乱する頭で必死に考える。


 ――……こども、子供か、そうそう確か子供は⋯⋯男女が――⋯⋯。


「―――っ!!っ!む、むりっ!無理無理無理無理!」

 ようやく事態を把握したシャノンは必死に暴れる。

「大丈夫大丈夫。僕に任せてくれれば」

「任せるわけないでしょお!?」

「体力には自信あるからすぐできると思うんだよね」

「何言っちゃってるの!?この変態!!」


 アレックの下からどうにか脱出しようと試みるも両手を押さえつけられたシャノンは足をバタバタすることしか出来ない。


「だってこうでもしないとシャノンはいつまでも悪あがきして認めようとしないし」

「悪あがきって!」

「君の不安要素は全部解消したよね?何も問題ないと思うけど?」

「――あるっ!あるあるっ!大いにある!いきなりこんな所であり得ないから!」


 シャノンが食い気味に拒否すると、アレックはふむ、と思案する。


「ここが嫌なら奥の部屋に移動する?それか僕の屋敷に直行しようか?」

「違う!そうじゃない!」

「じゃあ、君の屋敷?」

「話聞いて!?」

「分かった。最初は避妊するよ」

「馬鹿なの!?」

「馬鹿とは随分口が悪いなあ」


 そう言うとアレックはシャノンの腕を掴んでいた手を離し、その手でシャノンの唇の柔らかさを確認するように親指でフニフニともて遊ぶ。


「⋯⋯塞いでおこうか」

 そう言うとアレックの顔が迫りシャノンの額にハラリと銀色の髪がかかる。

「――えっ、ちょ⋯⋯」



 ―――⋯⋯もう少しで唇が触れようかという時、部屋の扉がガチャリと音をたて、すんでのところでアレックがピタリと止まった。

 入ってきたのはトルネオだった。


 助かった、とシャノンがトルネオをみると彼はこの世の終わりのような顔をして青ざめている。


「――す、す、すみ、すみ⋯すみません」


 そんなに噛む?というくらい噛みまくったトルネオはどうやらアレックに怯えているようだった。

 シャノンからはアレックの表情がうかがえないけれど、何やらただならぬ冷気を醸し出している。


 アレックは、はぁーっと深い溜息をつくと体を起こし、シャノンに手を差し出した。

 シャノンが恐る恐るその手を取ると力強く引っ張り起こされそのままアレックに抱きしめられる。


「わわっ」と驚くシャノンの耳元でアレックが「残念、子作りはまた今度」と囁いた。


「――っ!するわけないてしょ!?この変態!」

「また口が悪いなぁ。やっぱ塞いどこうか?」

「――ふ、塞がない!アレックが変なこと言うからでしょ!!放してよっ!!」


 ガッチリと回された腕から逃れようとシャノンは目一杯抵抗するも、余裕の表情をしたアレックには敵わない。



「あ、あの、お取り込み中、大変恐縮なのですがアレック様に急ぎの案件がありまして⋯⋯」

 そうトルネオが申し訳なさそうに割って入るとアレックが盛大に「チッ」と舌打ちをしてトルネオを睨みつけた。 


 ただ、急ぎの仕事を持ってきた有能な部下なのに理不尽にも凍てつくような視線に責められるトルネオが不憫でならない。

 そもそもこんな所で破廉恥な行動をしているアレックが悪いのに、とシャノンがじっとりとアレックをにらみつけるとアレックは諦めたようにするりとシャノンを解放した。


 やっと自由になったことに安堵しながら、恥ずかしさで早く退散したいシャノンは「トルネオ様、すみませんでした。私帰りますので」と、そそくさと部屋を出る扉に向かう。


 アレックとトルネオが何か言葉をかけてくれていた気がするけれど、それに答える間もなくシャノンはとにかく一目散に執務室を後にした。



 


 ――――あ、危なかった危なかった危なかったーっ!!


 シャノンは両頬に手を当てながら長い廊下をこれでもかと足早に歩く。

 あのまま、トルネオが入ってこなければアレックが自分の唇を塞いでいたかと思うとシャノンはとんでもなく自分の顔が熱くなるのを感じた。


 今まで経験したことのないくらいドキドキと振動する自分の胸にシャノンはこのままでは死んでしまうかも、と危機感すら覚える。


 色々なことが起こった気がするけれど、今の自分はキャパオーバーで何も考えられない。


 とにかく早く帰ろう。

 そう思った。

 


 

 


 

 

 

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