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「私が言ったからって⋯あんな子供の言う事真に受けて遊び人にならなくたって⋯」
一連の話を聞いてもシャノンはまだ納得出来ないとばかりにつぶやく。
「最初は僕もそう思った。でも、シャノンの言葉が正しいかもしれないって思う出来事があったんだ」
アレックが思い出したくないといわんばかりの苦々しい顔をする。
「僕の両親はとても仲の良い夫婦でね。お互いを大切にして尊重して愛し合っている僕の理想の夫婦だったんだ」
「――う、うん?」
アレックのご両親であるマクリール公爵夫妻のことはシャノンも知っている。
父親であるマクリール公爵は拝見したことはないけれどアレックを渋くした感じのハンサムでとても優秀な人格者だと社交界では有名らしい。
母親はハキハキとした快活な美人で、太陽のような明るさと力強さのある人だ。
子供の頃シャノンがマクリール邸に遊びに行くと快く迎えてくれ、公爵婦人なのに気取らず優しい所がシャノンは大好きだった。
「父は実直で誠実で強くて優しくて母を溺愛していて⋯⋯僕は同じ男として父を尊敬していたし、目指すべき憧れの存在でもあったんだけど⋯⋯」
シャノンもマクリール公爵の人柄は知っている。
愛妻家として有名で、自分の父親とは正反対ともいえるマクリール公爵を父に持つアレックを羨んだ過去を思い出しうんうんと頷く。
「父は母を裏切ったんだ」
「へ?」
「まあ、平たくいうと浮気が発覚したんだよね」
「⋯⋯oh⋯」
突然のぶっちゃけにシャノンはまさかあのマクリール公爵がとショックを受ける。
「母は相当傷付いていたと思う。あんなに明るかった母が毎日目を腫らして⋯⋯悲しんでいる母を見るのはとても辛かった。僕自信も裏切られた気持ちで父に強い怒りを覚えたよ。あんなにも母を愛していたのに何故そんなことをしたのかと父のことが全く理解できなかった」
そういうアレックの表情は少し悲しそうで、それでいて怒っているようでもあった。
その気持ちはシャノンにも痛いほど分かるけれど、“尊敬していた父親”という点が大きく違うのでアレックのショックの大きさは推し量れないと思った。
「だから僕は父に尋ねてみたんだ。“どうしてお母
様を裏切ったの?もう愛していないの?”ってね」
マクリール公爵がどう答えたのか気になるシャノンは興味深げにアレックを見る。
「そうしたら父は“どうしてかは自分でも分からない。母のことは変わらず愛している。けれど、母とは違う女性に強く惹かれてしまった。許されないことと分かっていながらも己の欲望に勝てなかった“って答えたよ」
アレックは呆れたような口調で馬鹿だよねとシャノンに笑いかける。
「実際、相手の女性は母とは真逆のタイプで大人しく儚げでか弱い人だったから、それも母にとってはショックだったみたい」
確かに、自分を愛していると言いながらも自分とは全く違うタイプの女性と浮気されるのは何か、とっても、嫌だろうなとシャノンは思った。
「――僕はシャノンをずっと愛する自信があったけれど、苦しそうに話す父を見てそれは僕の浅はかで傲慢な考えにすぎないのかもって……その時思い始めたんだ。そこで、シャノンが言っていた言葉が驚くぐらい腑に落ちた」
「へ?」
突然こちらに話しかけられシャノンは気の抜けた声を出してしまった。
「“遊んでない男は浮気する”だっけ?」
「まあ、平たくいうと⋯」
「その通りかもなって、父を見て思ったんだよね」
――確かにマクリール公爵は真面目で今まで浮ついたことなんてしたことなさそうだなとシャノンはぼんやり考える。
「一人の人を愛し続けることはできても、一人だけを愛し続けるには新しい興味や誘惑に打ち勝たないと難しい。けれど未知の経験に惹かれてしまったらそれに抗うのは本能的に不可能かもしれない――」
僕が言いたいことわかる?と問われたシャノンは少し考えたあと口を開く。
「うーん⋯⋯つまり、本命がいても他に可愛いくて魅力的な子がいたら別口で好きになっちゃうし、色々な女性と経験したくなるのは男の本能なので浮気は不可避ってこと?」
「さすがシャノン。その通り」
なんだか褒められても嬉しくないなとシャノンは思った。
「自分が大人になってシャノンと結婚しても一生浮気しない、裏切らないなんて保証はどこにもない。あの父でさえ誘惑に負けたのだから絶対なんて世の中にはあり得ないことに気づいたんだ」
「なるほど」
まだ十歳足らずの子供だったのに、自分と結婚すると勝手に確定していることが怖いけれど、世の中の無常を達観するとはさすがアレックだなとシャノンは感心する。
「だから僕は将来、シャノンを確実に愛し続ける為に自分の知識と経験を増やそうと思ったって訳」
「⋯⋯なんか良い事言っている風だけど、つまり結婚までに悔いなく色々遊びまくろうと思ったってことね」
シャノンの指摘にアレックは、まあそういうことになるのかなと笑う。
「一生シャノン一筋って自信はあったけれど、不安要素は排除しておこうと思ってね。それに、それがシャノンの理想の結婚相手だというならやるしかないだろう?」
「⋯⋯な、なるほど?」
よくわからない圧でなんとなく返事をしたもののシャノンは軽く混乱している。
「――と、いう訳で僕が君の父親のような遊び人ではないっていうこと、分かってくれたよね?」
「えっ!?いや、でも遊び人には変わりないし⋯⋯」
「だから僕はあえてそう振舞っていただけで、本来は遊び人ではないよ?」
「――っそ?そうかもだけど、やっぱり遊び慣れた人は信用出来ないってなっていうか⋯⋯」
「じゃあ、シャノンは何の経験もない童貞がいいってこと?」
「――どっ!?」
あけすけな言葉に思わずシャノンは動揺してしまう。
「童貞の方が将来浮気すると思うよ。それにシャノンは母親の教えも染み付いてるから、結局遊んでない男も無理だと思う」
「うっ」
それは確かに否めない。
母が口を酸っぱくして言っていた教えは重りのようにシャノンの心に沈んでいる。
父親のような遊び人は絶対嫌だけれど、正反対の人もきっと自分は受け入れることが出来ないとシャノンは思った。
「ほ、ほどほどなら⋯」
「ほどほどって?何人と付き合ってたら?何人とやってたらほどほどな訳?」
「ううっ」
理詰めにされてますます混乱し、どういう男の人なら受け入れられるのか、もはや自分でも分からなくなってきたシャノンは頭を抱えた。
そんなシャノンにフッと笑いかけ、アレックは両肩を掴み優しく問いかける。
「シャノン、何も難しく考えることはないよ。君の理想の結婚相手はどんな人?」
「え?だから――遊び人じゃない人⋯⋯」
「うん、それから?」
「それから?」
「子供の頃の理想は?それもきっと心の奥底で生きていると思う」
「⋯⋯年取った遊び人⋯?」
「そう。その矛盾した理想。年をとった、というのは色々経験した人物ってことだよね?僕に近いと思わない?」
「え?」
言われてみれば⋯アレックを形容するなら“散々遊びまくってたけれど、経験を積んでいだけで、実は遊び人ではなかった遊び人”ともいうべきか。
――なら、確かに自分の矛盾した理想に当てはまる⋯?のかな?
てか、遊び人ではなかった遊び人てそもそも何?
頭がこんがらがったシャノンは考えがまとまらずしばし固まる。
「で、シャノンは結局、浮気なんてしない一途な人がいいんだよね?」
「そう!それが一番大事」
そもそも、遊び人が嫌なのは浮気するからであって、一番大事なのは誠実さであることをシャノンは思い出す。
「じゃあ、やっぱり僕だ」
「へ?」
「考えてみて?僕は十年前からずっとシャノン一筋なんだよ?一途すぎるよね?で、僕はもう散々遊び尽くしたからシャノン以外の女性に興味はない。絶対に浮気しない」
そう言われてシャノンはハッとなる。
アレックが本当に子供の頃から自分のことを好きでいてくれたのなら、本当に一途すぎるくらい一途じゃないだろうか。
しかも、疎遠になったのも遊び人になったのも全て自分との将来の為だというのなら⋯⋯。




