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まだ子供だった自分にとって母親の死はどうしたらよいか分からないくらい怖くて悲しかった。
当時、アレックの存在がシャノンの支えになっていたことも思い出す。
「君が⋯状況が落ち着くまで僕はずっと待つつもりだったけれど、ある日偶然、君がフローラと話しているのを聞いてしまったんだ」
「――な、何を?」
自分は何かとんでもない発言をしてしまったのかとドキドキしているシャノンを見てアレックはフッと笑う。
「君の理想の結婚相手」
「えっ?――⋯私の理想の結婚相手?」
「そう。覚えてない?」
覚えているような覚えていないような⋯。
なんとなく、フローラとそんな話をしたことはある気はする。
「君は“自分の両親のような結婚は絶対にしない”って言ってたんだ」
「うん⋯?」
「“若いうちに若い相手と結婚はしない”“若くして遊ばずに結婚した男の人は父親のような夫になってしまう”」
「あー⋯⋯」
「“だから女の人と沢山遊んで遊び飽きた年のとった男の人と結婚する”ってね」
あの頃の自分はとにかく父親への嫌悪感と母親からの洗脳ともいえる“教え”がこびりついていたので、当時は本気でそう思っていたのをシャノンは覚えている。
「拗れた幼少期だったから⋯」
その結果出した理想の結婚相手が“年配の遊び人”だなんて、自分の頭の中はどうなっていたのかと今更ながらシャノンは呆れる。
若かろうが年配だろうが“遊び人”だけは絶対にありえないのに。
―――んん?遊び人?
この会話の流れでシャノンはハッとなる。
「⋯⋯もしかして、アレックが突然遊び人になったのは私がそう言ったから?」
恐る恐るシャノンがたずねるとアレックは答えが顔に書いてあるような笑みをみせる。
「聞いた時はショックを受けたんだ。まさしく僕はその結婚したくない“条件”にみごとに当てはまっていたから」
「え?」
「君のご両親は大恋愛で若くしてお互いしか知らないまま結婚したんだろう?今僕がシャノンに気持ちを伝えて婚約を申し込んだら、まさしくその状況になってしまう、ってね」
「⋯⋯⋯⋯」
確かに、当時好きだと言われて婚約を申し込まれても両親のトラウマでアレックを受け入れるのは難しかったかもしれない。
「だから君と距離を置いたんだ」
アレックのその言葉にシャノンはカチンとくる。
「いや、だからの意味がわからないんですけど」
何故そんな選択になったのか全く理解出来ないシャノンはアレックを睨む。
「このまま君の側にいたら結局なにも状況は変わらないと思ったんだ。僕は君しか見ないし、君にもそうさせる。それで何年後かに婚約を申し込んでも、“昔からずっと仲の良い幼馴染“じゃ君の不安は解消できていないだろう?」
「それは⋯そうなのかもしれないけれど、突然なんの説明もなく一切の関係を絶つ必要はあった?」
「君に会うと決心が揺らぐし、君に説明したら離れる意味がなくなってしまう」
アレックが言っていることは分かるけれどシャノンは納得できなかった。
自分が放った言葉のせいだったのだと、やっと理由が分かってもすんなりと受け入れる気持ちにはならない。
「理由も分からなくて凄くショックだった」
「うん」
「私は、⋯少なくとも私はアレックを親友だと思っていたのに!」
当時の自分を思い出すとシャノンは目頭がじんわり熱くなってくるのを感じた。
潤む目を見られたくなくて、少し俯いたシャノンの頬をアレックの手がそっと触れる。
「ごめんね?」
覗き込み、優しく気遣う顔面が破壊的に美しい。
色仕掛けに負けるものかとシャノンは上目遣いでアレックを睨む。
「泣かないでよ」
「泣いてない!!」
シャノンはアレックの手を振り払い威嚇する。
「可愛いなぁ(猫みたいで)」
「可愛くない!」
何故か愛おしそうにこちらを見つめるアレックが無性に腹立たしい。
アレックはペット的感覚で好きだと言っているのではなかろうか。




