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第四十九話「積み重ねたもの」

第四十九話「積み重ねたもの」




 第五階層の岩場は、いつ来ても色が少ない。


 灰色と赤茶の岩が折り重なり、その隙間にしがみつくように草が生えている。足元の土は浅く、少し掘ればすぐに硬い岩盤に当たる。


 先頭に健吾、真ん中に達也、後ろに杉本。三人で潜るときは、いつの間にかこの並びになっていた。



『今日も岩ばっかだな』

『第五階層ってほんと植物少ないよね』

『トマトさんのヘタが心なしか元気ない』

『草が少ないとテンション下がるのわかりやすすぎる』



 岩の隙間から、細いツルが一本這い出していた。達也は足を止め、指先で触れる。根は浅く、岩の継ぎ目に沿って横へ広がっていた。


「……たっちゃん?」


 健吾が振り返る。


「ううん。ここのツル、根が浅いなと思って」


 達也が立ち上がった、そのときだった。岩場の向こうから、重い衝突音が響いた。続けて、誰かの怒鳴り声。



『え、今の音なに』

『誰かいる?』

『戦闘音っぽい』



 健吾が手で合図し、岩の陰を回り込む。達也と杉本がそれに続いた。


 開けた岩場の中央で、三人の探索者が一体の魔物と向き合っていた。クイルベア。灰褐色の毛が、全身で棘のように逆立っている。


 塚本、寺岡、戸川だった。


 戸川が灰色の木の杖を振り、水を放つ。水は魔物の顔面を打ち、クイルベアが首を振って目を細めた。そこへ寺岡の風が足元をすくい、巨体がよろめく。その隙に、塚本が側面へ回り込んで剣を振るう。互いの立ち位置を見ないまま、三人の動きは噛み合っていた。



『騎士と仮面と狼だ』

『全身アバターのパーティーかっこいいな』

『あれ、あの兜……』

『仮面と狼の頭も見覚えある』

『あ、前に炎のトカゲ倒してた三人だ』

『相変わらず戦闘上手いな』

『杖使ってる』

『水で目潰して風で崩してって、ちゃんと役割分担してるな』

『灰色の木の杖、普通に現場で使われてるんだ』



 健吾が足を止め、様子を見る。


 そのとき、達也の視界の端で、別の岩陰が揺れた。灰褐色の背中。二体目が、三人の背後から姿を現した。三人は誰も気づいていない。


 二体目が、身を低くした。



ーーー



「後ろ!」


 健吾が叫んだ。戸川が振り返る。その顔が凍りつくのと、二体目が地面を蹴るのは同時だった。


 達也は足元の地面へ手をついていた。岩の隙間を這う、細いツル。頼りない一本だった。それでも、行ってほしい方向は分かる。


 ――そっちだ。


 ツルが跳ねるように伸び、魔物の前脚に絡みつく。一瞬だけ引く。突進の向きがわずかにずれ、巨体は戸川の脇をかすめた。


 その隙間へ、健吾が飛び込んだ。


 ガァンッ!


 光をまとった大剣が、振り下ろされた太い腕を正面から受け止める。靴底が岩を擦り、体が一歩、二歩と押し込まれる。


 三歩目で、止まった。



『止めた!!』

『面の人つよ』

『ツルで一回ずらしてからの面の人、完璧すぎる』

『トマトさんのヘタめちゃくちゃ立ってる』



 杉本が横から踏み込み、剣を叩きつける。刃に炎をまとわせながら、その火は決して足元へ落とさない。その間に、戸川が転がるようにして距離を取った。


「助かった!」


 塚本が短く叫び、すぐに元の一体へ向き直る。健吾と杉本が二体目を、塚本たちが一体目を。達也はその間に立った。



『共闘だ』

『六人いればいけるか?』

『クイルベア二体か』

『三人ずつで一体ずつ見ればいけるでしょ』

『右の岩の裏、なんか動いてない?』



 流れていくコメントの一つに、達也の目が留まった。右の岩の裏。大きな岩が二つ、寄りかかるように重なっている。その向こうは見えない。


「寺岡さん! 右の岩の裏、風で見てもらえますか!」


 寺岡が目を閉じた。岩の方へ風が流れる。


「……いる! 一体!」


 健吾が二体目を押し返しながら、振り向かずに言った。


「翔太、通報! クイルベア三体!」


「はい!」


「寺岡、そのまま後ろの通路見てくれ! 退けるかどうか!」


「狭い! こいつら連れたままじゃ無理だ!」


「通報送りました!」



『通報したって』

『コメント当たってた』

『第五階層だと救援すぐには来れないよな』

『近くの探索者に協力要請いくんじゃない?』



 岩の陰から、三体目が姿を現した。まっすぐ、杉本たちの方へ駆けてくる。


「先輩、使います!」


 杉本が腰の袋から、親指ほどの石を引き抜いた。魔力を込め、三体目の鼻先の地面へ投げつける。足元で弾けた石から、灰色の煙が噴き出した。以前使ったときより、ずっと濃い。


 三体目が煙の中で足を止め、首を振る。右へ、左へ。こちらへは出てこない。



『煙幕!』

『ワンコ煙幕使った!』

『鷹さんのやつだ』

『前より煙すごくない?』

『これ改良版?』



 煙が晴れるまでに、一体。狙うなら、塚本たちが削っていた一体目だった。


 達也は鞄から、小さな密閉容器を取り出した。紫斑の草から採った、白い液体。植物班から自衛用に持たされているものだ。劇薬なので、講習を受けて登録した探索者しか持ち歩けない。使ったら必ず報告してください、と太田には念を押されている。


 使うのは、今日が初めてだった。


 手袋をはめ、蓋を開ける。岩間のツルに混じって、黒い棘のツタが一株這っている。その棘の先へ、白い液を垂らしていく。


 毛の上から巻けば、裂かれる。毛の薄いところなら、棘が届く。


「戸川さん! 一体目の顔、もう一回お願いします!」


「やってみる!」


 水が飛び、クイルベアが目を閉じて首を振る。その一瞬で、達也はツタを動かした。黒い棘のツタに、届く限りのツルを添わせる。それを、魔物の後脚の内側へ。


 棘が、薄い毛の下へ食い込んだ。



『毒って持ち歩けるの?』

『植物班の講習受けた人だけって聞いた』

『毒のツタだ』

『手袋してるのちゃんとしてる』



 クイルベアが吠え、暴れる。外側の毛がツルを裂き、一本、また一本と千切れていく。それでも、達也は目を離さなかった。


 一歩。二歩。前脚、後脚。踏み替えるたびに、体重のかかり方を追う。


 三度目の踏み替えで、右の後脚がわずかに遅れた。


「右の後ろ脚、動きが鈍い!」


「そっちへ回せばいいんだな!」


 塚本が側面へ走った。魔物が追って向きを変えようとする。前脚は回る。だが後脚がついてこない。巨体が、ぐらりと傾いた。そこへ戸川の水。寺岡の風が重なり、傾いた体をさらに押し倒す。



『いけるいける』

『連携やばい』

『今の、脚が遅れるの見てたの?』

『トマトさん、ずっと脚見てた』



 杉本が二体目を健吾に任せて飛び込んだ。むき出しになった喉元へ、全身の体重を乗せて剣を叩き込む。


「塚本さん!」


「おう!」


 塚本の剣が、同じ傷口へ重なった。巨体が大きく痙攣し、魔素となってほどけていく。



『一体目!!』

『倒した!』

『うおおおおお』



 誰も喜ぶ声を上げなかった。上げている暇がなかった。



ーーー



 煙が晴れた。三体目が灰色の中から抜け出し、二体目の横に並ぶ。


 二体が、同時に動いた。向かう先は戸川だった。


 杉本と塚本が割って入る。だが、三体目の太い腕が横薙ぎに振るわれ、二人がまとめて弾き飛ばされた。戸川は水を放ちながら後ろへ下がった。その背中が、岩に当たる。


 健吾が二体目の前へ割り込む。だが、三体目には届かない。


 達也は地面に手をついた。


 一本目のツルを伸ばす。魔物の前脚に巻きつき――逆立った毛に裂かれて、千切れる。


 二本目。後脚に巻きつく。このまま引けば、また裂かれて終わる。


 止めなくていい。止められないなら、行き先を変えればいい。


 達也は引くのではなく、ツルを横へ振った。巻きついた脚ごと、岩の方へ。魔物の突進が、ほんのわずか、斜めにずれる。


「戸川さん、離れて!」


 寺岡の風が、真横から叩きつけられた。突進がさらに逸れる。巨体が、戸川のすぐ脇の岩壁へ頭から突っ込んだ。


 ドガァンッ!


 岩が割れ、破片が降り注ぐ。その下を、戸川が転がるようにして抜けた。


「……助かっ、た」



『抜けた!!』

『生きてる!』

『今のツル、止めるんじゃなくてずらしたよね』

『心臓止まるかと思った』



 魔物が岩から頭を抜く。弾き飛ばされた杉本は、もう跳ね起きていた。剣を構え直し、戸川と魔物の間へ滑り込む。塚本もそれに続いた。全員の息が上がっていた。


「分ける!」


 健吾が叫んだ。


「俺と翔太で一体持つ! 三人はもう一体! たっちゃんは両方見てくれ!」


「分かった!」


 健吾と杉本が三体目を押し返して引き離す。塚本たち三人は、二体目を囲んだ。達也は、その真ん中に立った。


 右を見る。左を見る。どちらかの魔物がもう一方へ寄ろうとするたびに、足元のツルを伸ばして進路を塞ぐ。裂かれても、一瞬止まればいい。


 右では、健吾が正面で腕を受け止めていた。その一瞬、杉本が側面へ回り込み、炎をまとった剣を前脚の付け根へ走らせる。逆立った毛が焼けて縮れ、そこへ刃が通る。魔物が杉本へ向き直れば、今度は健吾が踏み込んだ。



『ワンコ強くない?』

『炎で毛焼いてから斬ってる』

『面の人と交互に入ってるの息ぴったり』



 達也は、地面も見ていた。さっき三体目が隠れていた、二つの岩。その割れ目にだけ、草が濃い。周りの痩せた草とは、葉の色が違う。あそこは、土が深いのかもしれない。



『トマトさん真ん中で両方見てる』

『司令塔みたいになってる』

『植物少ないのによくやってる』



「トマトさん! 一瞬止められるか!」


 塚本が叫んだ。


「顔をお願いします! 脚の内側なら、止められます!」


「戸川、頼む!」


「おう!」


 水が顔面を打ち、魔物が目を閉じる。その一瞬で、達也はツルを走らせた。毛の薄い脚の内側へ、何本も重ねて絡ませる。


 脚を取られた巨体が傾く。そこへ寺岡の風。横倒しになりかけたところへ、塚本の剣が叩きつけられた。一撃。二撃。魔物が身をよじり、ツルを千切ろうとする。


「翔太さん!」


 杉本が振り向き、健吾を見る。


「行け!」


 杉本が走る。塚本の反対側から斬り込み、二人の剣が同時に入った。二体目が崩れ、魔素となって消えていく。



『二体目!!!』

『あと一体!』

『ワンコ動くの速い』

『面の人ひとりで一体抑えてる……』



ーーー



 最後の一体は、荒れていた。太い腕が振り回され、岩を次々に砕いていく。


 健吾が大剣を振り下ろす。刃が肩の毛に阻まれ、浅く滑る。一度、二度。健吾は間合いを取り直した。


 地上のツルを巻いても、裂かれる。でも、土の下までは、毛は届かない。


「ケンちゃん、少し右へ! その先の、岩の割れ目まで!」


 健吾は理由を聞かなかった。半歩、右へ。さらに一歩。魔物が健吾を追って向きを変える。


 杉本と塚本が左右から剣を振りかざし、魔物の進む方向を絞っていく。杉本の刃の炎は、割れ目の草へは決して向かない。じりじりと、巨体が割れ目へ寄せられていく。


 達也は割れ目の縁に手を添え、根に触れた。太い。けれど、乾いた土に締めつけられて、思うように動かない。


「戸川さん、割れ目の土に水を!」


「……最後の、一回!」


 戸川の腕が震えている。それでも、水はまっすぐ割れ目へ飛んだ。乾いた土が水を吸い、色が濃く変わっていく。土の中で、締めつけがゆるむ。根が、さっきよりずっと軽く応えた。


 魔物が吠え、健吾へ踏み込む。寺岡の風が背中を押し、その一歩をさらに前へ運んだ。


 前脚が、割れ目の土の上に落ちる。


「引いて!」


 ズンッ!


 水を吸った土の中から、何本もの根が一斉に跳ね上がった。前脚に絡みつき、地面へ向かって引き絞る。前脚だけが地面に縫いつけられ、踏み込んだ勢いのまま巨体が前のめりに傾く。顎が地面を叩いた。もがく後脚の内側へ、割れ目から伸びたツルが幾重にも絡みつく。


「止めた!」


 健吾が踏み込んだ。脚は止まっている。頭は低く下がっている。逆立つ毛の、首の付け根だけが開いている。


 大剣から、光が弾けた。


 閃光に、魔物が目を細める。健吾は全身をひねり、地面を蹴った。振り上げた刃が弧を描き、首の付け根へ落ちる。毛を裂いた刃が深く入り、重い手応えが健吾の両腕へ伝わった。


 最後のクイルベアが、地面へ崩れ落ちた。



『倒したああああああ』

『うおおおおおおおおお』

『三体!!!』

『全員で勝った』

『泣いた』

『クイルベア三体同時に倒したの初めてじゃない?』

『根っこで止めた!』

『地面の下から引いてる』

『面の人の一撃……』



ーーー



 すぐには、誰も構えを解かなかった。荒い呼吸の音。砕けた岩の欠片が、ころころと転がって止まる。


 寺岡が目を閉じ、周囲へ風を流す。


「……ほかには、いない」


 六人が、ようやく息を吐いた。戸川の膝が、かくりと折れかける。杉本がすかさず腕を差し入れ、その体を支えた。


「戸川さん、下がるまでもう少しです。歩けますか」


「……大丈夫。歩ける」


「先輩、東側の通路手前まで下がります」


「ああ。俺が後ろにつく」


 五人が岩場の出口へまとまっていく。健吾は最後尾から、岩場を振り返った。


 クイルベアが崩れた場所に、何かが光っている。一つ。二つ。割れ目のそばに、もう一つ。


 健吾は周囲に目を配りながら、三か所を手早く回った。拾い上げたのは、小さな魔石だった。何十体と倒しても、一つも出ないことは珍しくない。それが、三体とも。


 健吾はわずかに眉を寄せ、魔石を腰の袋へしまった。それから、五人のあとを追った。


 杉本の端末が、短く鳴った。



 【救助協力:周辺探索者二名が協力可能と回答】

 【到着まで約五分】



「近くの探索者が二人、向かってくれてるそうです」


「救援隊は?」


「まだ第三階層です。先にその二人が着きます」



『協力要請の人来るって』

『ほんとに通知いくんだ』

『全員軽傷でよかった』



 通路手前まで下がり、息を整えて数分。岩場の奥から、足音が近づいてきた。立ち上がろうとした戸川がふらつき、杉本に肩を支えられる。


 岩陰から現れたのは、大剣を背負った女性と、大きな背負い袋を担いだ女性の二人組だった。


「通知来たんで! ……って、もう終わってます?」



『協力要請の人来た』

『大剣のおっさんと……ドワーフ?』

『斧背負ってそうな髭もじゃのおっさん』

『二人とも声低っ』



「終わりました。来てくださってありがとうございます」


 健吾が頭を下げる。


「全員軽傷です。一人、魔力をほとんど使い切っています」


「じゃあ、その人の荷物は私が預かりますね!」


 背負い袋の女性が、ぱっと戸川の前にしゃがみ込み、両手を差し出した。


「あ、いえ、だ、大丈夫です! 自分で持てます!」


「えー、今ふらついてましたよね? 遠慮しなくていいですよ!」


「あれは、その……ちょっと立ちくらみというか……」


 戸川は杖を抱えたまま顔を背け、視線をあちこちへ泳がせる。


「戸川、素直に渡せ」


 塚本が言った。


「……お願いします」


 戸川は杖と鞄を差し出した。耳まで赤くなっている。


「はい、お預かりします! 任せてください!」


 背負い袋の女性はにこっと笑い、慣れた手つきで背負い袋へ詰め込んでいく。大剣の女性は、岩場の奥へ目を向けて見張り始めた。


 寺岡が、戸川の横で小さく肩を震わせている。


「……笑うなよ」


「笑ってない」



『画面だとヒゲもじゃのドワーフなんだけどwww』

『渋い低音で「任せてください!」は強いwww』

『狼なのにしっぽ巻いてそうwww』



 大剣の女性が見張りを続ける傍らで、達也たちは通路手前に腰を下ろした。健吾が腰の袋を開け、手のひらに三つの石を載せた。


「これ、落ちてた」


「えっ」


 戸川が身を乗り出す。


「魔石ですか? 三つも?」


「三体とも、ですか!?」


 杉本が目を丸くした。寺岡も小さく口笛を吹く。


「すごい……」


 達也も、健吾の手のひらをのぞき込んだ。


「ああ。三体とも」



『魔石!?』

『三つ!?』

『魔石ってめったに出ないやつだよね』

『三体とも落とすとか運よすぎ』

『今日ついてるな』



 塚本だけが、わずかに眉をひそめた。魔石を見て、それから岩場の方を見る。何か言いかけて、口を閉じた。


「……どうした?」


 寺岡が聞く。


「いや」


 塚本は首を振った。


「なんでもない」


 寺岡はそれ以上聞かず、魔石へ目を戻した。


「で、どうする?」


 寺岡と戸川が、塚本を見る。


「分けるっつっても、今は報告するくらいしかないだろ」


「換金とかできるわけでもないしね」


 戸川が言う。塚本は少し考えてから、健吾の方へ向き直った。


「報告、そっちに任せる」


 寺岡と戸川も頷いた。


「ああ。まとめて出しとく」


 健吾は魔石を袋へ戻した。それから、もう一度だけ岩場の方へ目を向けた。何も言わなかった。


 塚本が、あらためて口を開いた。


「助かった。後ろまで手が回らなかった」


「間に合ってよかったです」


 達也は鞄から回復薬を取り出し、塚本に差し出した。塚本はそれを受け取って、小さく頭を下げた。


「これも、ありがとう」


 寺岡と戸川も、その横で頭を下げる。


 達也はノートを取り出した。表紙の角が擦り切れた、100均ノート。裂かれたツルと、裂かれなかったツル。割れ目の土の深さと、水を含んだあとの根の感触。見たものだけを書いていく。


 紫斑の草の白い液体のことは、別のページに。後脚に変化が出るまでの、踏み替えの回数。太田への報告も、帰ったら忘れずにしなければならない。



『ノート出た』

『一息ついたらもう記録してる』

『トマトさんらしい』

『ヘタがいつもの呑気な揺れに戻ってる』



「……たっちゃん、まず水飲め」


 健吾が、水筒を差し出していた。


「あ、うん」


 達也はノートを開いたまま、水筒を受け取った。一口飲んで、また書き始める。健吾はため息をつき、隣に腰を下ろした。



『面の人、お母さんみたい』

『いつもの二人だ』

『さっきまであんなに戦ってたのに』



 【岩間のツル】

  第五階層岩場。

  棘状の毛に触れると裂けやすい。

  毛の薄い箇所に絡めた場合は、比較的長く保った。

  岩の割れ目の土が深い場所では、根が太く張っていた。

  乾いた土の中では、根が動かしにくかった。

  水を含ませたあとは、根を動かしやすくなったように感じた。

  土の深さや水分量によって違いがあると思われる。

  要検証。






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