【第八話 必殺!】
サラマンダーの紋章は実は名家でした……。
ライン国の伯爵の家系で、親はそこそこ権力を持ってるらしいね。そんな伯爵家の四男がピエルという冒険者だった。ピエルは若くから冒険者になったらしくて、そこそこ強いんだってさ。そんな強くて身元もしっかりしてるボンボンが何故、孤児に対して詐欺行為を働いたのか……。それは簡単。金がないから。
貴族で家柄も良く冒険者としても成功を収めてるピエルは、とにかく飲む打つ買うを地で行くような典型的な馬鹿なのよ。そして、強くなりすぎた頃から周りにはイエスマンしか置かなくなったという、自滅ルートまっしぐらなテンプレのような人物だったんだ。
今、僕とロビンはとある食堂で本日のオススメを注文している。何故って? ここにはそのピエルが通い詰めてるからね。この日も取り巻きたちと長居してんのよ。食堂で長居とかクソ迷惑だろ? 迷惑系YouTuberの才能も持ち合わせた男が僕のピエルへの印象だね。
そんなピエルはこの店のウエイトレスの女の子に惚れてるんだ。割とガンガンアピールしてんのよ。女の子も相手が貴族だし強いと評判の冒険者だから、無下にもできなくて顔が引きつって愛想笑いしか出来てないんだよね。普通ならこの時点で嫌われてることに気づくんだろうけど、なんせピエルの周りにはイエスマンしかいないだろ? 気づくもんも気づかないんだぜ、きっと。
ここ数日間、僕とロビンで奴の行動パターンを分析した結果、殺すチャンスはいくつかあったんだ。これまでに僕が日本で行った殺人の多くは寝込みを襲うのさ。それが一番安全なのよ。でも、人は寝る時って案外、無意識的に一番安全な場所で寝てるんだよ。寝室って家の奥にあるだろ? 玄関開けてすぐの所に寝室なんて作らないからね。
そんなピエルなんだけど、この宿場町では宿屋に滞在してんのよ。宿屋って外部からは中々、入りにくいけど、同じ宿泊客になれば部屋が隣になったりするだろ? 難しそうで一番簡単なのが、宿泊施設なんだよね。しかもこの世界にはオートロックも、ドアチェーンも無い。昔ながらの鍵穴から部屋の中が丸見えな単純な鍵しかないんだよね。こんなもの、ピッキングの道具も必要ない。針金だけあれば開けられる。だから、僕はいつでも好きな時にピエルを殺せるんだよ。
でも、まだ殺さない。僕とロビンはあえてピエルを泳がせることに決めたんだ。
だってさ、このピエル。孤児から詐欺るくらい金に困ってただろ? 伯爵の四男なのに金が無いなんて不自然だなぁって思ったのさ。庶民用の安食堂でウエイトレスにセクハラして楽しんでるような生活をしてるんだよ? これは絶対になんかあると思うよね?
んで、僕とロビンの張り込みの結果、ピエルが金に困ってる理由が見えてきたわけさ。その理由はなんてことない借金だったんだ。いわゆる街金。じゃあ、どうして街金なんかから金を借りたのかと言うと、おそらくサイドビジネスに失敗したから。ピエルは裏で何かキナ臭いサイドビジネスをしていたようだ。僕らが調べた頃には既に失敗した後だったから、詳しいことは調べようも無かったけど、ピエルが事業に失敗した直後であることは間違いなかった。
おおかた、年齢も三十六歳で冒険者としても今後は下り坂。心機一転、脱冒険者をして華麗な転職をしようとして呆気なく事業を失敗して、預貯金を全て失い借金だけが残ってる。そんな哀れな冒険者の末期症状なのが、今目の前でウエイトレスにセクハラ行為を繰り返している男だ。
そんなピエルは近々、夜逃げを考えているようだ。おそらく孤児から巻き上げた金貨で高飛びするのだろう。旅支度を始めているのがバレバレだったからね。僕も少しだけ、ピエル殺害を急がなくちゃならなくなったわけさ。
あ、そうそう。レピンの方は後遺症も無く、またガンガンやる気を出して移住するための買い付けをしてくれてんのよ。本当に健気だね。それから自分の蘇生をしてくれた司祭にも毎日、ボランティア活動をして奉仕してるのよ。だもんで、司祭も気を良くしてさ、レピン達孤児が近々、開拓村へ移住することを聞いて、開拓村に教会を建設するように布教しようとしてんのよ。レピンなんてのは実際に命を救われてるからね、完全に布教されて教会を作る気満々なのよ。小さな祠でも良いんだって。そんなものでもあれば、開拓村が納税出来るようになると正式に宣教師を派遣できるんだってさ。
まあ、その頃には僕は開拓村にはいないからね。レピン達の好きにすれば良いわけで、こんな事をいちいち報告されても本当に困るわけ。でも、そんな健気なレピンからの報告のおかげで、この世界の宗教観も見えてきたんだ。
この世界には一つの宗教しか無いんで、神の名前は神ってだけ。司祭みたいな職業になるには修行とかしなくてもOK。白魔法が使える人なら誰でもなれちゃう。白魔法は生まれつき持ってないと後付け不可能なんだってさ。
ん? 僕は後付けのヒーラーだったけど?
これについてはロビンが説明してくれた。
「ケケケ、だから言ったろ? 死神界隈では白魔法とかヒーラーって呼ばねぇのさ。インスタント・デス——即死者。死神を殺せる力だな。俺も詳しくは知らねぇが、似て非なるものなのかも知れねぇな…」
「そうだよね。死神界隈だとヒーラーはバリバリの攻撃魔法だもんね。って死神界隈って本当にあるの?」
「ケケケ、無いと困るだろ? 毎日どこかで誰かが死ぬんだぜ? 人間だけじゃなくて生き物全てがこの瞬間にも死んでるからな。死神なんてのは人の数よりも多いんじゃねぇか? 昔の日本にはよく同業の死神が街に溢れてたもんだぜ?」
「昔の日本?」
「そう。昔の日本はずっと刀で斬り合ってたろ? あの頃は俺たちにとってのバブル期だったな……。いつの頃からか日本人の寿命が倍になっちまった。同業の死神達もどんどん日本から出て行っちまったよ」
「ちなみにこの世界にも死神はいるの?」
「さあな、今の俺は死神から転落した、ただのアンデッドだからなぁ〜」
まあ、この世界に死神がいるかどうかは僕には関係ない。ロビンに代わる死神なんてのは考えられないからね。
さて、くだらない宗教話はこれくらいにして、そろそろ僕がピエルを殺した時の話をしようか。
さっき、僕は寝込みを襲うのが一番楽だと言ったろ? 中でも一番、簡単な寝込みってのが、セックス明けなのよ。最中なら尚、OK。これほど隙だらけになる瞬間って無いんだよ。よく人間以外の動物の交尾は命懸けだと言うだろ? 動物達は交尾する瞬間が一番、無防備だと知ってるのさ。それを知らないのは人間だけなんだ。
ピエルは食堂の女の子を狙ってるだろ? つまり、食堂の女の子を張り込んでるだけで、ピエルがいつ行動を起こすのかを予測出来るわけさ。だから、僕とロビンは毎日この食堂でオススメを頼んでたってわけ。ロビンは飯を食えないから、毎日、僕がロビンの分も食ってあげるんだよ。まあ、この店は美味いから良いんだけどね。
食堂の女の子は本当にピエルには興味が無いんだろうね。どんなにピエルが頑張ってもダメ。むしろ頑張れば頑張るほど嫌われてんの。男ってこうなると、取るべき行動は二つなのよ。ストーカーになるか、風俗で抜くか。ピエルは後者を選んだんだ。ようやく僕とロビンの食堂通いもこれで終われるってわけ。
この日のピエルはイエスマンを連れずに一人で、娼婦が立っているエリアへ歩いていったんだ。
もうこの時点で隙だらけ。いつでも殺せる。でも、ピエルがどんな娼婦を買うのか興味があったから、すぐには殺さなかったんだ。そしたら、ピエルは食堂の女の子とは真逆の、派手なメイクの大人の女性を指名していたんだ。娼婦と二人で宿屋に直行したよ。僕とロビンも数日前から同じ宿に泊まってたから、簡単にピエルと共に堂々と宿屋に入ったんだ。
ピエルと娼婦のプレイが始まったのがドアの外にも漏れ聞こえてきた頃、僕は静かに部屋に入ったんだ。鍵開けは自分の部屋で何度も練習してたからね。今ではこの宿の鍵は僕の前では鍵としての役割を果たしていないのさ。さすがのピエルもセックス中は鎧を脱いで全裸だったよ。
僕はセックスに夢中になってるピエルの背後に立って、アイスピックで延髄にプスっと刺してみたんだ。セックスに夢中のピエルは刺されたことにも気付かずにしばらく腰を動かしてたけど、急に腰が止まって呼吸も止まり、彼女の上に倒れ込んだんだ。
そこでようやく彼女の方が異変に気づいて、僕と目が合った瞬間に悲鳴をあげようとしたから、僕は彼女の口を塞いで呟いたのさ。
「静かにしてれば君には何もしないからね」
すると彼女は怯えた顔で激しく頷いてくれたから、口から手を離してあげたんだ。そしたら、彼女も約束通りに大人しくしてくれてさ。
「うん。良いね。大人しくしてくれたら、君にも良い儲け話になるからね」
「わ、私はこの人とは何の関係もないの! ただの娼婦なの!」
「知ってる、知ってる! 銀貨十枚で買われてるところから見てたもん。君、今、何歳? 若作りしてるけど、結構、いい歳だよね?」
「三十歳よ……」
「この仕事、長い?」
「そうね……。二十一歳からやってるわ……」
「もしかしたら、セクハラ発言になるかも知れないんだけど、教えて欲しい事があってさ。これ、情報料ね」
僕が銀貨一枚を手渡すと、嬉しそうに受け取ってたね。
「それだけ身体を売ってるって事は、性病になってるよね?」
「……わからない……。でも、性病で死んでく同業者もいたわ……」
「なるほど。この世界にも性病はあるんだね?」
「無いわけないわよ……」
「もう一枚、銀貨をあげるから君に回復魔法を掛けても良いかな?」
娼婦は戸惑いながらも銀貨を受け取ったから、僕は彼女にリカバリーを唱えてみたんだ。
たぶん、治った。僕は医者じゃないから、彼女が病気を持ってるかわからないんだけど、リカバリーが通ったって感覚がある。通った時と空振りの時の差が何となくわかるようになってきた。今のは通った!
「たぶん、君の性病は治ったよ。君の同僚で深刻な状態の人はいないかな?」
「いる……。治せるの? でも、その子はお金はないわよ?」
「金はいらない。僕の回復魔法の実験台だから、むしろ試させてくれるなら、その子にも銀貨一枚をあげるよ。深刻な人ほど嬉しいかな? 君にも紹介料をあげるから、性病を持ってる同僚を何人か紹介してほしいんだ」
彼女は半信半疑のまま、服を着て宿屋から出ていったんだ。状態の悪い同僚を連れてくるって言ってね。
その同僚が戻ってくる前に、僕とロビンには試したい事があってさ。
「ロビン、ピエルの死体から魂を抜き出せるかい?」
僕は鎌をロビンに手渡した。
「さあな、今の俺は死神じゃねぇからなぁ〜。まあ、やってみるけどよぉ〜」
ロビンはまだ死神だった頃のように鎌を振るい、死者から魂を切り離したんだ。日本にいた頃にはいつも見ていた光景が、この世界でもまた見られた。ロビンはまだ死神の能力を失っていなかったんだとわかって、僕もロビンも嬉しくなったんだ。
「出来た! 出来たぜ! ケビン! コイツのこの濃厚な魂を喰って良いだろ? 久しぶりの栄養補給だぜ!」
ロビンはこの世界に来てから初めての食事だったからね。本当に美味そうにピエルの魂を喰っていたんだ。
「こっちに来てから初めての食事だろ?」
「美味い! 美味いぞ、ケビン。いや、待てよ……。これはただの魂じゃねぇ! ピエルの魂は普通の魂とは違うぜ……」
「ん? 魂が違う?」
「あぁ、ピエルは剣のスキルがあったみたいだ……」
そう言ってロビンは腰の剣を抜いたのさ。そして剣を脱力して構えたんだ。その瞬間、目にも止まらぬ速さで剣を素振りしたのさ。
「すげぇ。剣を扱えなかった俺が剣を扱えるようになってるわ!」
「え? それってピエルのスキルがロビンに移ったって事?」
「あぁ! たぶんそうだ!」
「やったね! これで、ますますロビンは剣士として世間の目を誤魔化せるようになるね! 剣が扱えるなら、次の実験もするから、剣を構えておいてくれよ」
僕は魂の抜けたピエルを蘇生させようと思ってたんだよ。だから、ロビンに魂を抜いてもらったってわけ。
「リザレクション!」
見事にピエルは蘇生したんだよ。しかも、魂の無い傀儡状態でね。
「やった! ヤンキーBと同じだ! 指示待ち人間の完成だ! ピエル、服を着ろ」
当然、ピエルは衣服を着始めたよね。それをロビンがワクワクしながら見て僕に尋ねてきたんだ。
「ケビン、この傀儡をどうするつもりだ?」
「どうするって言っても、使い道が無いよね。実験したかっただけだからさ。ピエルの使い道まで考えてなかったよ。あ! そうだ! 命令の効力がどれくらい有効か試してみないとダメだよね? う〜ん、そうだなぁ〜。決めた!」
僕は傀儡のピエルに命令をした。
「勇者を殺せ!」
ピエルは鎧を身にまとって宿屋から立ち去った。
それからしばらく経つと、先程の娼婦が肌がボロボロで血の滲んでる女の子を連れてきてくれた。
「ありがとう。お姉さん。ここまで酷い子が理想的だったんだ」
「この子はエリン。まだ十六歳なのにこんな事になってしまって……」
エリンはもはや話すことも出来ないくらいグッタリと、宿のベッドへ倒れ込んだんだ。
「リカバリー!」
その血の滲んだ肌がキメ細かい美しい肌へと変わっていった。ボロボロの顔も若々しい可愛らしい顔に変わっていったんだ。
「嘘でしょ……。エリン……アンタ昔の姿に戻ってるよ……」
そう言って娼婦のお姉さんが手鏡をエリンに手渡してた。手鏡を見たエリンは嬉しそうに涙を流していたよ。そして、泣き疲れたのか、そのままベッドで眠ってしまったからね。娼婦のお姉さんにもベッドで休むように言ったんだ。
「お姉さんも今夜はもう寝なよ。この宿代はさっきの貴族が月払いで払ってるみたいだから、今月中は自由に泊まりなよ。ここで客をとっても良いんじゃない?」
「そ、そういえば、あの死んだ貴族は!? もう死体を隠したの!?」
「いや、かろうじてまだ生きてたから回復魔法で治してあげたよ。今は反省してどこかへ出ていったんだ。ほら? 彼の身につけてた鎧ごと無くなってるだろ?」
ピエルの着ていた服や鎧が無くなっているのを見て、お姉さんはすっかり僕の言うことを信じてくれたみたい。ホッとした様子でそのままエリンの隣で寝てしまったよ。
僕とロビンは自分の部屋に戻ると、実験結果を話し合ったんだ。
「もしもピエルが勇者を殺すか、殺されたら、そこまで僕の命令の効力が効いたって事だね? 勇者って何処にいるのかな? さっきのお姉さんに聞けば良かったね」
「ケケケ、魂を抜き取った遺体の蘇生なんて非常識な事を考えられるのはケビンだけだな! ネクロマンサーとは全く違う方法で傀儡を生み出せるのは流石だぜ! しかも、ネクロマンサーと違って傀儡を操ってる間も魔力は減らないなんてチート過ぎるだろ!」
「そう思うかい? でも、もう僕には欠点も見えてきちゃったよ。一度、今みたいな命令をしちゃうと、ピエルへの命令の上書きが出来ないんだよ。命令はあくまでも僕の声が届く範囲だけみたい。さっきからピエルに帰ってこいって念じてるけど、もう帰ってこないもんね。そして、ピエルが今、何処にいるのかもわからない。念話みたいな繋がりみたいなものは無いね。傀儡にしても身の回りに置いておかないと使えない能力だよ」
「ケケケ、それでも十分チートじゃねぇか!」
この日の夜は、久しぶりの魂というご馳走を食べて上機嫌のロビンが深夜までケケケと笑っていたんだ。
僕も日本にいた頃のように、また定期的にムカつく奴らを殺していこうと決意した夜だったんだ……。
【第九話へ続く】




