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【第九話 開拓村再始動】

 翌日。娼婦のお姉さんが僕とロビンの部屋を訪ねてきたんだわ。



 ようやくこのお姉さんの名前もわかったよ。ミルキーさん、三十歳独身女性で、二十一歳から娼婦として生きてきたんだって。そんなベテランの娼婦のミルキーさんが、少しだけ恥ずかしそうに僕に囁いたんだ。



「貴方の回復魔法のせいで、あの……その……私……処女になってるのよ。私だけじゃなくてエリンもなの……」



 なるほど、なるほど。



 確かに僕のリカバリーはホイミ→ベホイミ→ベホマみたいな段階が無いんだよな。たぶん、リカバリーってこの先、上位魔法にランクアップしないよな?



 今更だけどさ、性病だけピンポイントで治せる訳が無いんだよ。そこまで万能じゃ無かったわけだ、僕のリカバリーは。そういえば、死神を殺すための水晶玉だったな。インスタント・デスだもんな。医療目的じゃなかったなら、そんな細かい作業には不向きだよな。



 レーザーメスで治療するところを、僕のリカバリーは宇宙船のレーザーキャノンなんだと思う。そんなキャノン砲の回復魔法を掛けられると、そりゃあ身体の至る所が回復するよね?



 すなわち、僕が世紀末覇者の胸に七つの傷を持つ男を親切心で怪我や病気をリカバリーすると、そのご自慢の七つの傷まで回復させてしまって、僕はその場でぶっ殺されるってわけさ。ゴムゴムの実の能力者を親切心でリカバリーすると、ゴムの能力も治しちまうかもしれないんだよ。



 万能薬は、意外と万能薬ではありませんでした。



 ミルキーさんの被害は処女膜だけだったんだけど、エリンに至ってはピアスの穴まで綺麗に無くなってたそうだ。今後は女性を治す時に先に用法用量をきちんと伝えなくちゃならないな。毛染めとかパーマとか、まあ、この世界にあるのかどうかもわからないけど、整形とか永久脱毛なんかも元通りに再生してしまうんだよ。こりゃトラブルしか起こらないだろ?



 とにかく、今大事なことは目の前のミルキーさん。エリンはまだ十六歳だから処女でも良いんだって。むしろ高く売れるから喜んでるって。でもさ、ミルキーさんはもう三十歳なのよ。三十歳の処女は客としても怖いよね? もう娼婦としては終わったみたいだから、ミルキーさんにも開拓村の移住の事を話してみたんだよ。



「僕は近々、開拓村に帰るんだけど、ミルキーさんも来るかい? まだ未成年しかいない村だからミルキーさんが一人いてくれると、めちゃくちゃ助かるんだよね。少年たちもあと数年で性にも目覚めるでしょ? そんな時はミルキーさんがいてくれると村の治安も保てるんだよ」


「ふ〜ん。それは面白そうね。私が最年長ってのが少しだけ不満だけど、若い少年達を私好みに育てるのは夢があるわね。良いわ。私も開拓村に移住するわよ」



 って言うもんで、早速、レピンと引き合わせてミルキーさんにも移住費用として銀貨五百枚くらい入った布袋を手渡したんだよ。二人は何やら相談し合って買い物に出かけて行ったんだ。



 そしたらすぐに二人は戻ってきてさ、今度はエリンも連れてきたんだよ。もしかしたらピアスの穴を埋めちゃったことへのクレームかな?と思ったら、エリンも開拓村に引っ越したいって言ってきたからね。エリンにも銀貨を手渡したってわけ。娼婦が村に増えても困るんだけどさ。でも逆転の発想で考えると、娼婦がいるから男手も増えそうだよね? 今のところ優秀な農民の引き抜き方なんて検討もつかなかったけど、ミルキーさんとエリンが移住する事で若くて丈夫な男の人も移住するかもしれないだろ?



 ミルキーさんとエリンの買い物も終わった頃、雑貨屋に頼んでた薪や調味料の仕入れも完了してね。いよいよ、開拓村へと僕らは動き出したんだ。



 レピン達、孤児は意気揚々としてたし、二人の娼婦も清々しく微笑んでたよ。相変わらずイタチが馬を襲ったりしてきたけど、その都度リカバリーで治しながら、皆で楽しく十日間の道程を進んでたわけですよ。



 でも、開拓村に到着したら空気は反転。



 めっちゃ悪くなったんだよね……。



 何故って? 僕らが留守中に、生き残っていた元の開拓民が三人帰ってたんだよ。しかもイカついオッサンが三人も。そんなイカついオッサンから見ると僕らは流れ者の難民にしか見えないわけ。いくらマリアが説明しても無駄。過去に盗賊団に襲われた経験のあるオッサン三人は、僕らのことを完全に敵対してんのよ。



 もういっその事、殺してしまった方が早いかな?って考えもよぎったんだけどね。イカついオッサン三人というのは開拓村にとっては必要な人材だろ? 僕としてもオッサン三人とはわだかまりなく過ごしたいわけ。



 そんなどんよりとした空気を変えたのが、さすが年の功のミルキーさん。イカついオッサン三人を完全に魅了してくれてさ、あっという間に空気を変えてくれたんだよね。その流れで、この開拓村の当面の村長もミルキーさんに決まったんだよ。



 だから、僕とロビンも村長宅をミルキーさんに譲って、森の中にあった炭窯のある一軒家を貰うことにしたんだよ。なるべく人目のつかない家の方が僕らには都合がいいからね。



 それから、イカついオッサン達からこの辺りの事情もようやく教えてもらえたよ。この辺の街道には馬を襲ってきたイタチくらいしかモンスターが出ないんだって。だから冒険者が遠征に来ることもないみたいだね。ただし、街道から離れた所にある森。つまり今の僕の家の周りには危険な動物も出るそうだよ。



 それから、村の主な産業は農業と林業なんだけど、林業については自分たちで全て消化してるから街に売るようなレベルでは無いらしい。農作物もまだ納税できるには程遠くて、五年目には納税出来ない可能性の方が高いそうだよ。イカついオッサン達も労働力の足りなさを嘆いていたけど、こればっかりはどうする事も出来ないよね?



 僕の傀儡の力を使えば無限に働いてくれる労働力を作れるのかもしれないけど、そんな事をしたら一発で僕がヤバい奴認定されるからね。そこは自重したよ。盗賊団に殺された遺体はまだ埋葬して一ヶ月くらいしか経っていない。リザレクションで傀儡を作れそうな気もするんだよね……。ただ、イカついオッサンやマリアにとっては身内が突然、傀儡として蘇っても一〇〇パーセント喜ばないよな。その位の倫理観はこの僕でも持ち合わせているんだよ。



 とりあえず、僕とロビンは余計な口出しをすることも無く、森の中のポツンと一軒家で静かに春まで暮らそうと心に誓ってたんだ。



 そんな静かに暮らしてる僕とロビンにちょっかいを出してくるのがイカついオッサンのゴンタ。今日もゴンタは我が家に来ては僕とロビンに文句を言ってくる。



「お前らは働き盛りなのに、毎日家に籠りやがって何を考えてるんだ。子供らは畑で働いてるぞ?」


「その子供らを連れてきたのは僕ですよ?」


「それなら、ますます子供らの手本となるように先頭切って働け!」


「それは嫌だなぁ〜。僕は回復魔法を使えるんで、この村の医者ってことで良いですか? ロビンはこの村の守護者ってことでお願いします」


「とにかく、ほら? 子供らが収穫した芋だ。ちゃんと食えよ」



 憎まれ口を叩きつつも、こうしていつも頼んでもないのに作物を持ってきてくれるのさ。口は悪いけど優しいオッサンってどこの街にもいるだろ? 日本に住んでた頃は、水嶋って刑事さんもそんな感じだったからね。あとは、近所の床屋のオッサンもこんな感じで、髪を切ってる間はずっと喋り続けてたよ。



 普段の僕ならそんな奴らは殺しそうだろ? でも、口の悪さと人柄は関係ないことを知ってるのさ。そう考えると僕なんて口は悪くないのに残虐非道だろ? 口の悪さと人格は全く関係ないのさ。



 そんなゴンタの言うことを聞いてるからってわけじゃないけどさ、僕も毎日、暇なわけよ。我が家には炭窯もあるけど、炭の作り方も知らないしね。村の中にも炭の作り方を知ってる人もいないからさ。だからといって炭窯でピザを焼けるわけもないしね。料理が得意な僕もさすがに食材が無さすぎて、何かを作る気にもならないんだよね。



 っていうことで僕とロビンは、森の奥にイノシシでもいないかと探索することにしたんだ。イノシシでも取れたら醤油も砂糖もあるからね。豚肉で何か作れそうだろ? 僕もそろそろまともな食生活もしたいからね。



 森の中にはイノシシよりも危険な動物も出るってゴンタからは言われてたんだけど、フルアーマーのロビンに齧りつける動物なんているわけないからさ、そこに不安は無いんだよ。ロビンが獲得したピエルの剣のスキルも試しておきたいしね。



「なあ、ロビン。虎くらいなら勝てそうかい?」


「ケケケ、やってみるまではわからねぇなぁ〜。ただ、負ける気は全然しねぇ。むしろ早く試してみてぇよ。ところで虎は食えんのか?」


「さあ? あまり美味そうには見えないよね……。もしも、虎を倒したとしても、その虎は食わずに傀儡にしたいんだよ」


「ケケケ、そりゃあ良いねぇ。捕食動物を傀儡にすれば、イノシシ狩りも楽になるよな!」


「そういうこと。人間の傀儡は不気味がられるけど、動物の傀儡なら誰が見てもテイマーにしか見えないだろ? それに、傀儡の効果が何日くらい持続するのかも知っておきたいからね。その為にも一匹、捕食動物の傀儡を作りたいのさ」



 僕とロビンがそんな話をしていると、やっと捕食動物っぽい、体長が三メートルほどある巨大なニワトリのようなモンスターが襲ってきたんだよ。



「デカッ! あれってニワトリ? 軍鶏? とにかく、美味そうだ! あれを家畜化出来ないかな?」


「ケケケ、あんな化け物を家畜化しても、村人全員食われちまうぜ?」


「やっぱりそうだよね。それじゃ、殺して良いよ!」



 鳥はまっすぐこちらに突進してきた。ロビンは剣を構えて待ち構えてると、ロビンの身体に異変が起きたんだ。



「うおっ! やべぇ! 身体が動かねぇぞ?」



 僕がロビンを見ると、下半身からじわじわと石化してるのがわかった。鏡面仕上げされた甲冑が石像のように変わってきてるんだもの。僕は慌てて「リカバリー!」を唱えるとロビンの足元は再び鏡面仕上げ仕様の甲冑に戻ったのよ。



 石化を無効化されたことで、鳥も少しだけ距離を取ってこちらを見てんのよ。この鳥にはこちらを観察するだけの知性があるんだよ。ちゃんと石化が通じないことを理解してるってわけ。



 僕とロビンは鳥を挟み撃ちにするように二手に別れたんだよ。そうすると弱そうな僕に鳥は視線を向けてくるよね。



 僕は初めて使う回復魔法を唱えてみた。



「リジェネレーション!」



 たぶん、これってしばらく回復効果が継続するんだよな? 鳥は僕にも石化を喰らわせようとしてるのか、何か変な瞳の色に変わるのよ。でも、僕は石化にならずに済んでるわけ。リジェネレーションのおかげでね。さらに鳥は何度も瞳の色が変わってるから、何度も石化を放ってたんだと思うのよ。



 ムキになって石化を放っているから、隙だらけの背後からロビンが剣で滅多斬りさ。羽毛が派手に舞い散ったよね。



「凄いよ! ロビン。何それ。その滅多斬りは何回斬ったのか見えなかったよ!」


「ケケケ、そうだろ? ピエルを喰ってから本当に剣が自分の肉体の一部のように扱えるのさ!」


「さあ、また実験だ。この鳥の魂も喰えるだろ?」



 僕はロビンに鎌を手渡したら、すぐにロビンも鳥の魂を抜き出そうとしたんだよ。そしたら、ダメだったんだ。魂はネガティブな感情が乗らないと取れないんだよ。鳥は背後から滅多斬りされたから自分が死んだことも分かっていないのさ。そんな即死した死体からは日本にいた頃から魂の抽出は無理だったんだ。



「クソ〜。石化の能力を獲れるか試したかったんだけどなぁ〜。まあ、良いか。こいつで唐揚げでも作るよ」


「傀儡にはしないのか?」


「え〜。ニワトリを傀儡にかい? ダサくない? 僕は虎とか熊が良いなぁ。それに僕も唐揚げが食べたいんだよ。あ! そうだ! 倫理的にどうかとは思うけど、こいつを蘇生させてから腿をロビンが斬るんだよ。腿を斬ったあと、リカバリーでまた腿を再生すると無限に鶏肉を獲れるんじゃないか?」


「おっ! それ面白そうじゃん! 蘇生する前に動けないように縛るか!」


「そうだね! 縛ってから蘇生させてみよう!」



 僕とロビンは鳥の腿を斬りやすいように両脚を縛ってから蘇生させてみたんだ。鳥は見事に蘇生したから、即死しないようにリジェネレーションを掛けてからロビンが腿の付け根からスパッと斬ってくれたんだよ。リカバリーも唱えて腿を完全回復させることは出来た。鳥は完全回復した。斬ったぶんのモモ肉もある。倫理観だけが問題なんだけどさ。



 そもそも倫理観のぶっ壊れてる僕なら何の罪悪感もなく、これが出来るんだよ。でも、今回は無限モモ肉作戦は辞めといたんだ。倫理観とか関係なく、ただ、この鳥を飼うことが面倒なだけ。餌も何食うのか知らないし。それに飼い始めると懐き始めた時に、モモ肉を斬ることが出来るのかが微妙だろ?



 だから、とりあえず、無限もも肉については無し! めんどくさい! 今はただ、美味い唐揚げが食いたいだけなんだ。



 ロビンが縛られた鳥にトドメをさしてジ・エンド。鳥本体と余分なモモ肉一本を持って自宅まで頑張って運んだんだよ。



 とりあえず、僕はモモ肉を使って大量の唐揚げを作ったわけさ。ロビンはその間に本体を解体してくれててね。この世界の肉についてはよくわからないけど、日本じゃ肉は採れたてを食ってないんだぜ? 知ってた? 肉って熟成させないと美味くないんだよ。だから、本体肉の方は解体だけして熟成の実験にするつもりなんだ。何日目が一番美味いのかの実験だね。冷蔵庫が無いから常温でしか実験出来ないんだけど、おそらくこちらの肉も熟成期間は必要だと思うんだ。



 僕は揚げたての唐揚げを持ってゴンタの家まで持っていったよ。



「オッサンが働けって言うから、森でデカい鶏を採ってきたよ。唐揚げを作ったから皆で食べてよ」



 唐揚げを一口食べたゴンタは驚いてたよ。唐揚げを初めて食べたらしいよ。明日は照り焼きチキンを持ってくるって言ったら、照り焼きって言葉がわからなかったんだ。僕も照り焼きの説明が出来なくて困ったよ。照り焼きってどうやって説明すればいいんだ? 今でも正解がわからないんだ。



 唐揚げと照り焼きを貰っても、ゴンタの口の悪さが直ることは無かったよ。



 ずっとゴンタは変わらなかったんだ。




【第十話へ続く】




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