【第七話 蘇生】
これはユートから聞いたんだけどね。
焼肉を食った翌日。
レピンは意気揚々と道具屋に農機具なんかの買い付けに行ってたんだってさ。僕が薪を買い付けに来たってことは、村には木こりがいないってことを見抜いてたんだろうね。道具屋で斧とかノコギリとか一通り揃えて、レジで金貨で支払おうとしたらしくてさ。
でも、金貨ってのはこの世界では大判小判みたいなもんで、ごく普通のお店では使えないのよ。金貨を使うにはまず、両替屋で細かく砕いてもらわなくちゃならないんだ。金貨なんか使われたら釣り銭が無くなるからね。でも、孤児だったレピンは金貨なんて使ったことが無いだろ? 道具屋の店主から両替屋に行ってこいと怒鳴られたらしいんだ。
だもんで、レピンは急いで両替屋へ走ろうとしたんだけど、その会話を聞いていた悪い大人がいてさ。レピンに声をかけたんだって。
「おい坊主! 俺が今すぐ両替してやろうか?」
見た目は派手な鎧を着た貴族っぽい大人だったってユートが教えてくれたよ。レピンにしてみれば、両替屋に行く手間が省けるだろ? 相手は貴族様だもん、そりゃあ二つ返事で頼むよな。レピンはその貴族様に金貨を一枚手渡したんだ。すると、その貴族は銀貨が五十枚と銅貨が五十枚入った布袋を手渡したんだってさ。
僕もその頃は金貨の価値を知らなかったから偉そうな事は言えないんだけど、金貨の価値は銀貨一万枚なんだって。めっちゃ誤魔化されてるのよ。でもさ、僕もレピンも金貨の価値を知らない者にとっては、それでも両替してくれて助かった!って思うよな?
そんな誤魔化されたレピンを見て気の毒に思った道具屋の店主が、余計なお世話を妬いてレピンに騙されてることを教えてしまったのよ。
「お前さん、今の貴族様に誤魔化されてるぞ? その布袋にいくら入ってるかわからねぇが、金貨を砕いたらそんな小さな袋では入らねぇ。その袋があと十は必要だぜ?」
これを聞いたレピンは仲間を集めて、さっきのインチキ貴族を探したんだよ。派手な鎧にはサラマンダーの紋章が描かれてたんだってさ。レピンと仲間は半日かけてサラマンダーの紋章の貴族を見つけたんだ。
当然、レピンはその貴族に詰め寄るよな。詰め寄られても貴族は涼しい顔をしてしらばっくれてたらしい。周りにいた憲兵も孤児が貴族にウザ絡みしてるだけだと思って立ち止まることもなく通り過ぎてたんだってさ。
レピンはそれでも食い下がらないから、いよいよ面倒くさくなった貴族は腰の剣を抜いてレピンを袈裟斬りに斬りつけたんだよ。
レピンはその場で倒れて、すぐに動かなくなって死んだそうだ。
六人の孤児たちは泣きながらレピンを馬車の置いてあった馬立場まで運んでから、ようやく僕とロビンの泊まってる宿に、そのことを伝えに来たってわけ。ユートは泣きながら、必死で僕とロビンにレピンの最期を語ってくれてたよ。
「そうか……。それは僕のミスだ。ユート、この街で蘇生の魔法を使える人はいるのかい?」
「教会の司祭さんはヒーラーなので蘇生魔法も扱えるはずです。でも、凄く高いらしいです。一般人では支払えません……」
「いや、お金のことは気にするな。君たちは馬車を使っても良いからレピンの遺体を教会まで運んできてくれるかい? 僕とロビンは先に教会へ行って蘇生を申し込んでみるからさ」
ユートは急いで宿を飛び出していったね。
「おいおい、ケビン。わざわざ大金払って教会で蘇生させんのか? お前がやればいいじゃねぇか?」
「いや、これはチャンスなんだよ。他の人の蘇生魔法を間近で見れるんだもん。今の僕には最高の教科書だよ! これはいわゆる勉強代。必要経費だよ」
「ケケケ、さすがだぜ! ケビン! この世界の蘇生魔法を見ておくと、今後のお前のヒーラーとしての振る舞いも変わってくるからな! ただ、申し訳ないが、場所が教会だから俺は行かない方が良さそうだ」
「うん。僕一人で行ってくるよ。あとでちゃんと報告するから楽しみに待ってな!」
僕は教会まで大急ぎで走ったよ。
教会に着くと、まだユート達は来ていなかった。僕は一人で司祭に面会を頼んだんだ。金貨を寄付金として贈呈するとシスターが急いで司祭を呼んできてくれたよ。そして、司祭に蘇生をお願いしてみると、司祭はドヤ顔で答えたんだ。
「蘇生魔法はお高いですよ? 金貨百枚です。貴方に支払えますか?」
「もちろん。こちらを数えて下さい。たぶん百枚以上は入ってます。余った分は教会への寄付金です!」
僕は金貨の入った布袋をシスターに渡したんだ。中を見たシスターは司祭にも中身を見せてたね。司祭の顔つきに笑みが零れていたよ。
「わかりました。全力で蘇生魔法を行使してみましょう! 貴方様は蘇生魔法について内容をご存知ですか?」
「いえ。全くわかりません。出来ればちゃんと教えて下さい」
「おほん! それでは蘇生魔法について説明をいたしましょう。まずは、百パーセント蘇生に成功すると思わないでください」
「は? 失敗することもあるんですか?」
「当たり前です。死後から時間が経過した遺体は、かなり成功率は低くなります。それから、生きる意志のない者も蘇る事はありません」
「例えば白骨化した遺体でも蘇りますか?」
「ハハハ、さすがにそれは不可能です。それが出来るのはネクロマンサーという全く別の魔法になります。しかも、ネクロマンサーに関しては生き返らせるという意味では生き返ってるわけではありません。アンデッドとして復活してるだけなので蘇生とは言いません」
聞きたいことは全て聞けたので、あとはレピンの到着を待つだけとなった。シスターは金貨を数え終わったのか、司祭に耳打ちをしたりしていたよ。
やがて、ユート達が教会に遺体を運び終えると、司祭が真剣な顔をしてレピンの前に立った。
(ミマアマケイ・ハホシェフ、ベトフ・テホム・ハクルーム、ハアリサ・シェヒ・マコル・ハコル)
──常闇の底、虚無の深淵に眠る、万物の根源たる揺り籠よ。
(ハハイム・ホズリーム・エル・ハマヴェト、ヴェハマヴェト・エル・ハハイム。ゼウ・ハマオズナイム・ハムフラティム・シェル・ハオラム)
──生は死に、死は生に還る。それは世界の絶対にして破れぬ天秤。
(ラヘン、アクリヴ・エト・ベサリ、エシュポフ・エト・ダミ、ヴェエシュタメシュ・ベホル・キスミ・ケデイ・レラモト・エト・ハマオズナイム!)
──なればこそ、我が肉を贄とし、我が血を注ぎ、我が魔力のすべてを以てその天秤を欺かん。
(ヒユ・レトリズ・シェゴゼル・エト・ハフキム。ティフスー・エト・ハネシャマ・ハトア・ヴェキシュルー・オタ・レケレ・ハベサル!)
──理を穿つ楔となれ。散り惑う魂魄を捕らえ、肉の檻へと繋ぎ止めよ。
(レヴ・カプー、デフォク・シュヴ。レアオト・ハスムオト、ニシュムー・エト・ハオラム)
──冷え切った心臓よ、再び脈動を刻め。塞がれた肺腑よ、世界を呼吸せよ。
(アニ・コシェル・ミハダシュ・ベコアハ・エト・フット・アラト・ハゴラル!)
──運命の女神の糸を、我が手で強引に結び直す!
「──最高位神聖魔術:『アーク・レザレクション』!」
とにかく長い! 魔法詠唱っての? 意味はわからないしさ、何語なのかもわからない。とにかく長かったんだ。最後のレザレクションだけ聞き取れたよ。しかも、レピンの遺体が置かれた祭壇には派手な魔法陣が眩しかった。詠唱も派手なら見た目の演出も派手!
レピンの袈裟斬りにされた傷跡は綺麗に治ったんだけど、司祭がハァハァ息を切らしてるくらいアーク・レザレクションを何回か試してるけど、レピンの心臓は動くことが無かったんだよ。
だから、僕が陰ながら心の中でそっと唱えてみたよ。
『リザレクション!』
僕の方は地味。詠唱も口に出さなくて良いし、派手な魔法陣も出ないんだよ。
それでも、効果は抜群でちゃんとレピンはすぐに目を覚ましたんだ。
レピンが蘇生したことで司祭はドヤ顔をしてたけどね。レピンの方も目を覚ましたのが教会の祭壇だったからね、一瞬で自分が死んでたことを理解して、目の前の司祭に感謝を述べていたよ。ユートがすぐにレピンに駆けつけて、二人で抱き合って喜んでた。
そして、僕の蘇生によるこの世界の女神からの罰も無かったんだ。これは金貨百枚以上の価値のある実験だった。この場所が教会だったからかな? それとも、この世界には司祭のような蘇生魔法を扱える人間が他にもいるからかな? とにかく女神からの罰が無い! それを知れただけで十分お釣りが来るよね!
「ケビンのアニキ! オイラのために蘇生魔法を?」
「うん、金貨百枚だってさ。今後、頑張って村を開拓して僕に返してくれたらそれで良いよ! あと、今後は金貨よりも命の方を優先するようにね! 今後、盗まれたり誤魔化されたものを取り返すような事はするなよ。逆に言うと、人からモノを取れる人は自分よりも一枚も二枚も上だってことを自覚しようね。頭で勝てない人には暴力でも敵わない。常にそれを心がけてくれ。レピンは皆のリーダーになる男なんだよ。簡単に死ぬことをやめよう」
なんて偉そうな事を言っておけば、レピンみたいな賢い男はもう大丈夫。二度目の失敗は無いって信じてるよ。
そして、僕は宿屋で待ってるロビンに報告した。
「司祭は成功率は悪いけど、蘇生魔法は使えるみたいだね」
「ケケケ、ケビンの顔を見る限りでは、お前の思惑通りになったみたいだな!」
「うん! 完璧! この世界の女神も現れなかったよ。それから、蘇生魔法は金貨百枚だったよ。いざとなれば蘇生魔法だけで食っていけるよね!」
「ケケケ、シリアルキラーが蘇生屋かよ。ケビンらしくもないねぇ〜」
「フフフ、さすがロビン。んで? ロビンも黙って宿で待ってた訳じゃ無いんだろ?」
「さすが相棒。よくわかってるねぇ〜。ちゃんと調べたぜ。レピンを殺した馬鹿な貴族を。お前なら必ず殺ると思ってたよ。安定のシリアルキラーだぜ。お前は」
僕の指示がなくても先手先手で動いてくれるから、本当にロビンは僕の最高の相棒だと思ったよ。
僕とロビンは、貴族様をどうやって殺すのかを昔みたいに深夜まで語り合っていたんだ。
【第八話へ続く】




