【第六話 宿場町ゴラムル】
「何処から来た?」
城門には兵士が検問してたんだよ。
「三年目の開拓村です。薪や調味料の買付です」
軽く幌馬車の中を見回しただけで検問は終わったんだ。甲冑姿の怪しいロビンについては、全く怪しむことなくスルーされたのがとにかく良かったよ。鏡面仕上げされた派手な甲冑だよ? 普通の兵士なら職質くらいするよね? でも完全スルーなのよ。っていうのも、検問してる兵士の皆さんも同じような甲冑姿なわけさ。むしろ、真っ黒なローブ姿の僕の方が浮いた存在感なんだよな……。あと、ロビンの鏡面仕上げの鎧は別に珍しくも無かったんだ。この世界の鎧はとにかく派手。皆さん煌びやかでした。死神らしく漆黒に塗装なんてしなくて良かったよ。そんな侘び寂び的な鎧を着てる激渋な兵士はいませんでしたよ!
まあ、そんな感じで城門は簡単に突破できたからね。僕とロビンは真っ先に雑貨屋に入ったんだ。薪の相場とか知りたかったからね。そしたらさ、僕らが持ち込んだ金貨があれば、ひと冬分の薪は買えるんだけど、馬車七台分になるんだってさ! 片道十日もかかるのに七往復なんてしてられないだろ?
それなら人を雇おうと思ってさ、雑貨屋の店主に聞いてみたのよ。
「この街に薪を運んでくれる運輸会社などはありませんか?」
「運輸会社? そんな会社は無いけど、乗り合いの馬車を貸切にするしかないねぇ〜。辺境の村までなら日当で銀貨五十枚も出せば運んでくれる御者は見つかるよ」
金貨はまだまだ沢山あるからね。盗賊団のアジトには樽で三つ分の金貨があったんだよ。その他にも貴金属や宝石もあったからね。とりあえずお金に余裕はあるからさ、御者が集まるっていう酒場に来てみたんだよ。
だからといって、僕は御者を探しに来たわけじゃないよ?
「ねぇ、君、めっちゃみすぼらしいけどさ、馬小屋でこき使われてるだろ?」
酒場の前に繋がれていた馬たちに水を与えてた小汚い少年に声をかけたわけさ。少年は真っ黒なローブ姿の僕を見て、子憎たらしい事を言ってきたんだよ。
「そっちだってボロボロのローブを纏ってみすぼらしいじゃんか!」
「確かに! でも、このローブは親友の大切なローブだから買い替えたくはないんだよね。ところで、君はここで下働きしてるのかい? ここの酒場の奴隷?」
「オイラは奴隷にもなれないただの孤児さ。奴隷なんてのは女の子とか屈強な肉体の男しかなれないんだよ!」
「うん! まさに理想通り! 馬小屋の下働きなら馬車に乗れるよね? 少年、僕に雇われないかい? 日当は銀貨で五十枚だよ!」
「嘘こけ! 兄さんがそんな大金持ってるもんか!」
中々、賢い少年だろ? 僕はこの時点で、もうこの少年の採用を決めちゃったんだ。だから、僕は先払いで少年に銀貨五十枚を手渡したのさ。
「これは準備金というか手付金。少年、僕が君を雇うよ。こんなブラックな酒場は今すぐ辞めても良いよ!」
少年は唖然として銀貨を握りしめてたね。そして、酒場の裏にある馬小屋から手荷物を持ってきてさ、こう言ったんだよ。
「オイラはレピン! たぶん十歳くらい! 完全無欠の孤児だから、何処で死んでも後悔しないよ!」
「僕はケビン。こっちの鎧はロビン。早速、レピンにお願いがあるんだ。今夜の宿と、馬車に乗れる孤児を六人集めてもらえるかい? 一週間以内に集めてくれたら、成功報酬でさらに銀貨五十枚をあげるよ。ただし、その集めてくる仲間はレピンに従う人にしてね。レピンはその六人のリーダーになってもらわないと困るからさ。それで、レピンと六人の仲間には、馬車で開拓村に行って、そのまま移住してもらいたいんだよ。全員には家を用意してるからね!」
こんな好条件を聞いたレピンは嬉々として喜んでたね。早速、足早にゴラムルでも良心的な宿に案内してくれて、そのまま仲間集めのために走り出したんだ。
「ケケケ、孤児を引き抜くとは考えたな!」
「まあ、あの村には労働力が足りないからね。今はどんな奴でも集めないとさ」
「ケケケ、って事はやっぱり、あの村を拠点にするんだな?」
「うん。とりあえず、ひと冬越すまではこの世界の季節をちゃんと理解しておきたい。日本みたいに四季があるのかとか、台風みたいな災害があるのかとか、地震とかも起こるのかさえ、今の僕にはわからないからね。何も知らないまま豪雪地帯に拠点を構えたりしたら大変だろ?」
「さすがケビン! 俺はそんな事まで気にしたことが無かったぜ。そういえば、栃木県は雷も多かったもんな」
「そういうこと。今の日本では雷が人に落ちることは稀だけどさ。この世界には平気で雷が人に落ちてくるかもしれないだろ? そんな常識を知らないまま都会に出ても苦労するだけだからね」
それから二日後にはレピンは六人の仲間を集めて僕の前に連れてきたんだよ。一週間以内って言ったのにやる気満々だよね。その六人も全員が孤児でさ、衣服がボロボロなのよ。だから、まずはレピンに洋服屋に案内してもらって、全員分の衣服や下着を買い与えたんだよ。もちろん、僕自身の着替えも買ったんだよ。盗賊団の衣装はどうしても蛮族みたいな衣装だったからさ、この洋服屋で小綺麗なブレザーみたいな衣装を買ったんだよね。
衣装を揃えたあとは、馬車の買い付けに行ったんだ。荷馬車の中古はかなり安くてね。馬コミコミで六台の馬車を買ったんだよ。その後は雑貨屋で薪と調味料と保存食を荷馬車いっぱいになるように注文してさ、店主から全て揃うのに一週間かかるって言われたんで、僕とロビンは宿屋で一週間も食っちゃ寝を繰り返したんだよ。
レピン達は馬に慣れるために、待機中の一週間はずっと馬車で走ってた。
本当に真面目な良い奴だなぁと思ったんだ。
レピンの頑張ってる姿を見てたら、気まぐれな僕は彼らに夕飯をご馳走してあげようかと思ったわけ。宿屋のご主人のオススメで、この街の名物は焼肉だって聞いたからさ。孤児七人衆を連れて、焼肉屋に来てみたんだよ。
店内に入ると、日本の焼肉屋みたいに各テーブルに焼き台があってさ。何の肉かわからない肉を自分で焼いて食べるんだけど、孤児達も焼肉を食べるのが初めてだって言うもんだから、結局、全員が何の肉か知らないまま、焼肉を楽しんだのよ。その時にレピン以外の孤児の紹介もされたんだ。
「ケビンのアニキ! 左から、ロンダ、リンダ、ゴードン、テル、ヒム、ユートです。ロンダとリンダは兄弟です。あとは、ユートにはまだ幼い妹がいるんですが、その妹も開拓村に移住したいそうです」
「ん? 妹いるの? ユート、今すぐ妹を連れてきなよ。一緒に謎肉を食べようよ」
ユートは嬉しそうに店を飛び出して、妹のユーユーを連れてきたんだ。ユーユーはまだ七歳くらいの女の子でさ。焼肉にはまだ早いかな?って思ったんだけど、ちゃんと食ってたよ。
あと、この焼肉屋で嬉しい発見もあったんだ。なんと、この店にはライスもあったんだ。他の客を見ても、割とライスを頼んでるのよ。米のある世界で良かったよ! 米があるかないかで、かなりイージーモードだよね。調味料に魚醤が売ってたから、もしかしたら米もあるんじゃないかって思ってたのよ。やっぱりあったよね。村に帰る時には米の苗も買って帰るつもりだよ。
「君たちがこれから向かう開拓村には女の子が三人しかいないんだよ。だから、自分たちで必要になる物を考えて買っておいてほしい。このお金は使い切っても良いから、開拓村で困らないようなものを買い揃えて荷馬車に積んでおいてね」
そう言って、僕はレピンに金貨二枚を手渡したんだ。レピンは初めて金貨を触ったらしくてさ、他の孤児たちと金貨を回し合っていたよ。
でも、この時の金貨が僕のミスだった。孤児に金貨なんて持たせた僕が全て悪かったんだ……。
せっかく、優秀な男を見つけたと思ったのになぁ〜。
レピンがどれだけ優秀でも、僕が足を引っ張ったら意味が無い……。
僕はまたひとつだけ、成長できたんだ……。
【第七話へ続く】




