【第四話 新しい朝】
「なあ、啓敏、どっちを助ける?」
「とりあえず、盗賊団は皆殺しだよ。馬車の方は、まだ殺すなよ。ただ、面倒くさそうな奴らなら馬車の奴らも殺す。そして、あの馬車を丸ごと僕らのものにしよう。それが一番理想だな」
僕は先手必勝よろしく、茂みから盗賊団の弓を持っていた男の背中へ、延髄に出刃を突き刺した。
僕の動きに合わせて死神が鎌を振り、御者を槍で刺し殺してた男の首を跳ねた。二人の男が死んだことで、ようやく盗賊団が振り向いて僕らを見たんだ。
「うわぁー! アンデッドだー!」
盗賊団が完全に怯んだんだよ。死神を見て怯えてんのな。死神も調子に乗って鎌で盗賊団達を連続して首を跳ねてくんだもんな。僕の出番なんてなかったよ。
「な〜んだ。死神って物理攻撃も出来るじゃないか!」
僕が声をかけると、死神は照れくさそうに答えたんだ。
「意外とやってみたら戦えたぜ。この鎌も本当に人間を切れるんだな」
どうやら、死神もあの鎌で人間を切るのが初めてだったみたいでさ、戦闘が終わっても、マジマジと自分の鎌を見つめていたんだよね。
そしたら、せっかく助けてやったのに、馬車の男たちも盗賊団と同じように騒ぎ出したわけよ。
「ス、スケルトン!?」
「せ、聖水! 聖水を持ってこい!」
助けてもらってそれは無いよな。僕は自然と馬車の男たちに出刃を突き刺してたよ。せっかく生き残ったくせに馬鹿な奴らだよね。僕が馬車の男たちも殺し始めたからさ、死神も一緒になって馬車の男たちの首を跳ねてたよ。
まあ、とりあえず、これでこの世界の金と衣装を手に入れたわけ。
やっぱりジャージじゃ、死神の骸骨顔に負けないくらい目立つからね。馬車の男から服を貰って着てみたんだよ。それと、死体の中に、おそらく馬車の護衛だったと思われる騎士が死んでいてさ。鏡面仕上げで派手な西洋鎧を全身に着けてたんだよね。
それを死神に着せたら、骸骨顔とか骨の身体を隠せるだろ?何とか死神にその鎧が着れないものかと試してみたのよ。
そしたらさ、その鏡面仕上げの鎧って、魔法アイテムか何かだったのかな? 死神の骨の身体でも何故かピタッと着れるんだよ。全然、ズレたりしないんだよね。
またアンデッドだのスケルトンだのと人間達からバカにされるのが可哀想だろ? 死神にはそのまま鏡面仕上げの全身鎧を着てもらってさ、騎士として振舞ってもらうことにしたんだよね。そうなると剣を持たないと違和感があるからさ、死神の鎌を僕が持つことにしたわけだ。
初めて鎌を持ったけど、驚くほど軽くて驚いたんだ。見た目は自分の身長よりもでかい鎌だから相当重そうに見えて、実際にはカッターくらいの重さしか無かったよ。
とりあえず、馬車を物色して水と食べ物を確保出来たからさ、今度は僕と死神でこの盗賊団のアジトを探すことにしたんだよな。盗賊団は全員が徒歩で来てた感じだったからさ、たぶん近場にアジトがあるはずだろ?
二人して探したら、割とすぐに見つかったんだよ。森の奥に手頃な洞窟があってさ、その中にもまだ盗賊団の残党が残ってたんだけど、僕と死神が簡単に殺したんだよね。
って言うか、死神の鎌はチートだったんだ。とにかく切れ味が凄い。出刃とはまるで違うんだ。死神は死神で慣れない剣を使って盗賊団を次々と刺していくんだよ。ただ、単純にぶっ刺すだけ。鏡面仕上げの鎧は剣で斬られようが棍棒で殴られようが全く傷つかないんだよ。攻撃を受けきって、ただぶっ刺すだけなんだもんな。そりゃあ効率いいわけだ。
そんなチートな死神騎士はあっという間に盗賊団の残党を全て片付けたんだ。もちろん、僕だって頑張ったよ。鎌の使い方もだいぶ慣れてきたと思うよ。
全ての盗賊団の残党を殺し終えた僕と死神は、盗賊団のアジトのちょうどいい洞窟をここを僕らの家にしようと決めたのさ。
そのためにはまずは中を探索しなくちゃいけないだろ?
僕と死神は二人して洞窟内に火を灯して中の様子を調べたんだよ。そしたら、中には若い女の子が三人、檻に閉じ込められていてさ。
騎士姿の死神を見て、完全に救援隊が来たんだと勘違いされちゃってさ。
「助けてください! 私たちは近隣の村から攫われたんです!」
「近隣の村? ここから近いのかな?」
「歩きなら半日です。私たちは馬車でここまで連れてこられました。村まで連れていってくれたら、村でちゃんとお礼はします! お願いします! 他の二人はまだ十三歳なんです!」
僕には助ける義理は無いんだけどさ、この世界のことを色々と教えてもらわなくちゃならないだろ? 三人の女の子を村まで連れていくことにしたんだよ。歩きなら半日って言ってるしさ、僕も死神も馬車には乗れないから歩いていくしか無いんだよ。余裕を持って明日の早朝に出発することになった。
まあ、ここまでは異世界モノの定番だからね。僕も死神も完全に油断してたんだ……。
そして、翌朝。
僕らは女の子の案内で村を目指したのさ。
「村が見えてきました!」
本当に半日かかってやっと村が見えてきてさ。でも、その村は、なんて言うか、その……まあ、あれだ。この子らが攫われてきてたってことは、まあ、こうなるよな。
「お母さん!」
うん。村人はほぼ、死んでるよな。
女の子三人は家族の悲惨な末路を見て泣いてたり、茫然自失になってたりしてたよね。僕と死神は金目の物とか残ってないかを探したんだけど、ある訳ないよな。盗賊団も馬鹿じゃないもんな。
「啓敏、ヒーラーの出番じゃねぇのか?」
「え? 嫌だよ。蘇生なんてしたら、またこの世界の女神が怒ってくるかもしれないしさ。それに、蘇生出来るヒーラーが僕以外にもいるのかもわかってないうちから使えないよ。もしも、蘇生が奇跡の魔法なら僕は一躍有名人になっちゃうだろ?」
「確かに。それは面倒くさいな」
女の子達は家族を埋葬し始めてたからさ、一応、僕と死神も手伝ったのよ。もちろん下心ありきでね。
「騎士様、お手伝い頂きありがとうございます……。もし良かったら今夜は村長の家にお泊まり下さい。村では一番立派な家ですので……」
そう。僕と死神の下心はこの家!
盗賊団の洞窟よりも、やっぱり家だよね。割と本当に良い家でさ。流石に金目のものは無かったけど、調味料とか食器とかそのまま使えそうなものが丸ごと残されてたんだよ。
この世界のことがわかるまでは、しばらくこの家を使わせてもらおうと死神とも話し合ってさ。その際に死神の事をずっと死神とは呼べないだろ? だから、この日から死神のことをロビンと呼ぶようになったんだよな。
「ロビン、早速、僕らの設定を決めようか。僕らは敵前逃亡中の兵士ってのはどうかな?」
「ケケケ、何故、敵前逃亡なんだ?」
「だってさ、余所者にしてもこの世界の国名とか全くわからないんだぜ? めっちゃ怪しすぎるだろ? 僕らは無理やり戦争に参加させられた辺境の村の青年二人って言っておけば、他国のことを全く知らなくても納得出来ないかな? 僕らも村から出たことが無かったって言っておけば、何にも知らなくても怪しまれないよね? ロビンのその鎧は普通に戦利品を貰ったって言っておけばいいよ」
「ケケケ、それじゃ、その辺境の村の名前も考えておかないとな」
「うん。そこは本当のことを言えばいいさ。下野村。僕らはそこから徴兵された青年だ」
「ケケケ、良いね。それで行こう! ケビン」
埋葬やら荒らされていた家の中の後片付けなんかをしていたからさ、もうすっかり夜でさ。僕はようやく異世界に来て初めてまともな睡眠をとったんだ。
ロビンはアンデッドだから眠らなくても平気だから寝ないとか言ってたんだけど、村長の家のベッドがあまりにも綺麗でさ。ロビンも鎧を脱いで横になったんだよね。そしたら、グースカ眠ってんのよ。実体化されたからなのか、本当に精神的に疲弊してたのかはわからないけど、僕よりも先に熟睡してんのよ。
まあ、僕と知り合ってから四〜五年は眠ってるところを見たことが無かったからさ、ゆっくり眠って欲しかったからね。起こさないように静かにしてあげたんだ。あと、僕自身も疲れを残したくないから、自分にリカバリーを唱えてから眠ったんだ。
そして、翌朝。空腹で目が覚めたんだよ。
村長の家には調味料と小麦粉があったからさ、簡単にうどんを作ってたんだ。そしたら、昨日の女の子が朝早くから尋ねてきたのよ。寝室にはロビンが鎧を脱いで寝てるからさ、骸骨顔のロビンと鉢合わせしないように、玄関先で応対したわけよ。
「こんな早朝にどうしたの?」
「騎士様、村にはろくな物が無いから、これを持ってきました」
女の子が持ってきてくれたのは、村の畑から採ってきたというさつまいもみたいな大きな芋だったんだ。初めて見る食材だったからね、女の子に食べ方を聞いてみると、茹でるだけだと教えてくれたからさ、素直に教えられたように茹でてみたのさ。見た目が大きなさつまいもだったから、食べてみても、やっぱりさつまいもだったんだよ。
女の子が畑から採ってきたと言ってたからね、僕は村の畑を見に来てみたわけさ。まあ、畑いじりなんてしたことないからさ、僕が見てもしょうがないんだけど、今後、この村で暮らせるのかをチェックしておきたいじゃない。
今、この村には僕とロビンと女子三人しかいないんだぜ? 明らかに労働力が足りないだろ? 目の前の畑を食い尽くしたら、出ていくしか無いからさ。芋の畑以外にも麦の畑もあったけど、普通の日本人なら麦を小麦粉にする方法なんて知らないよな? あとはブドウ畑もあったな。実はまだついてなかったけどね。
でもさ、畑を見れて良かったよ。だってさ、この世界にも季節みたいな物があるってことがわかったからね。何にもない畑もあったんだよ。そこはおそらく何らかの作物の収穫後って感じでさ。だから、季節ごとにちゃんと考えて農業をしてることがわかったんだ。
ここを事前に知っておいて本当に良かった。だってさ、僕とロビンは辺境の村から来たって設定だろ? 辺境の村にも季節はあるからね。季節のことを知らないってのは誰がどう見ても怪しいもんな。
僕が畑をぼーっと眺めてたら、カチャカチャと鎧が歩く音が聞こえてきたんだよね。
「ケビン、随分と早起きだな〜。俺を置き去りにするなよぉ〜。マジでびっくりするだろ?」
「ハハハ、ごめん、ごめん。ロビンが寝てるとこ初めて見たからさ。起こしちゃ悪いと思ってね」
僕からそんな事を言われてから、ロビンは自分が眠っていたことに気づいたみたいでさ。
「うわっ! マジかよ! 俺、確かに寝てたな〜。でも、なんでだ? アンデッドの俺がどうして寝たんだ?」
「まあ、良いじゃないか。睡眠も欲求なんだしさ。取らないより取った方がお得だよ!」
「ケケケ、違いねぇ。確かに目覚めってのは良い気分かもしれねぇな!」
僕とロビンは朝日を浴びながら、しばらく笑ってたんだ。いっぱい村人が死んで悲しんでいる女子三人には悪いけど、僕とロビンは爽やかな朝を迎えていたんだ。
【第五話へ続く】




