【第十四話 表裏】
僕がバイトを終えて南屋を出ると、また家の前には貴族馬車が停まっていたからさ、「今日も来たんですか」っていつもの挨拶をすると、相変わらず御者は苦笑いで答えたんだよ。
まあ、ここまではいつもの流れだよ。
「氷持ってこいっていうから、この子を連れてきたわよ! 早く冷たい甘いお茶をいれなさいよ!」
モニカが連れてきたのは、まだ幼い雪ん子なのよ。魔族なんだってよ。大人になると雪女になるらしい。
「この子が氷を作れるんですか?」
「当たり前じゃない! 雪ん子だもの! お雪も早く氷を作りなさいよ! あと、お雪には暖かいお茶にしなさいよ!」
雪ん子にホットココアでも大丈夫なのか?と思ったけど、お雪もホットが良いっていうからさ、お雪の氷を使って全員分のアイスココアと、お雪のホットココアを作ったんだよ。氷系の魔法を初めて見たよ。
無から氷を生み出すんだぜ? ビビるよな。
アイスランスって初歩魔法で氷の槍を作ってもらうんだけど、天然氷のように気泡の入ってない純氷だからさ。硬いんだよ。溶けにくいしさ。本当に良い氷なのよ。
かれこれ五十人くらいは殺してきたアイスピックなんだけど、実は氷を砕いたのは初めてかも。そうなんだよな。アイスピックって本来の使い方はこうして氷を砕く為の道具なんだよ。最近、短くて安全なアイスピックも売ってるだろ? 僕としては、あんな短いアイスピックなんて使い道があるのかよ! って思ってたんだよ。でも、あれだ。実際に氷を砕いてみると短い方が使いやすい! 昔ながらの長いアイスピックは殺しには最適なんだけど、氷には不向きだね。
「お雪さん、ココアを飲んだらもう一度、氷を出してもらえるかな?」
僕はお雪から氷を出してもらって、銅製の容器で手作りアイスクリームも作ってみたんだよ。アイスクリームメーカーではアイスクリームを作ったことはあるんだけど、メーカー無しでも頑張ってみたのよ。ココアもあるし、チョコ風味のアイスクリームだよ。僕が何をやってるのか理解できないモニカが度々ちょっかいを出してくるんだけど、ひたすら混ぜ混ぜしてると、ちゃんとアイスクリームになったのよ。
それも皆で食べてみたんだよ。
マジで久しぶりの食感。この世界にはアイスクリームなんて無いらしいから、みなさんも驚いてたよ。
「何なのよ! これは! 冷たすぎるじゃないの!」
「あ、やっぱり無理でしたか。残しても良いですよ。すぐに溶けますのでキッチンに下げておいて下さい」
「嫌よ! 残すわけ無いじゃないの! 冷たくて甘くて美味しいのに!」
紛らわしいんだよ。怒ってんのか褒めてんのかマジでわからないんだよ。とりあえず、お雪もちゃんと食べられて良かったよ。一応、お雪は冷たいものも大丈夫みたいだな。
そんなお雪も、雪ん子とはいえ、アイスランスを連発すると魔力は減るんだって。たぶん、三十発くらいは出してもらったんだよ。もう、これ以上は無理なんだって。これ以上やるとぶっ倒れるらしい。
そういえば、僕はまだ自分の魔力がどれほどの容量があるのかを試してないんだよね。氷魔法だから燃費が悪いとかあるのかな? なんせ無から氷を生み出してるからね。回復魔法は無から何かを生み出してるわけではないもんな。南屋でリフレッシュを最大で何発打ったっけ? たぶん、二十回以上は唱えたはず。でも、僕は二十回のリフレッシュでも魔力の限界を感じたことは無いんだよ。
結局、アイスクリームは全員が完食してた。冷凍庫があれば、沢山作っておいて風呂上がりに食いたいとこなんだけど、冷凍庫なんて無い世界だからね。
「お雪さんは兄妹はいるの?」
「いる……。兄さん……」
「お兄さんも氷魔法が得意なの?」
「違う……。男は雪女にはなれない……」
「あ、そうなんだ。男は成長するとどうなるの?」
「雪男……。力任せ……」
知ってた? 男は雪男になるんだってさ! ビビるよね! しかも、物理系になるんだね。兄妹でもここまで違うのかよ。雪族の人達にめっちゃ興味湧いたわ! 本当に異世界には知らない事しか無いよな。
ココアも飲んでアイスクリームも食べて満足したのか、モニカはとっとと帰ったわけよ。
僕は皆さんが使った食器なんかを洗ってたんだけど、ロビンが憲兵の仕事を終えて帰ってきたんだよ。
「ケケケ、今日も一日、疲れたぜ……」
「それは、人らしく振舞ってるの? それとも、本当に疲労を感じてるの?」
「あ、そういえば、自然と言葉が出てきたぜ。疲労してるかと言われれば疲労感はねぇな。そういえば、ケビンもいまだにこの世界に来てから、まだ疲労を感じたことは無いのか?」
「うん。全く疲れない。痛みはあるから夢の中ってわけじゃないとは思うんだけど、確実に夢の中ではないとは言いきれないよな。あと、今日、雪ん子が氷魔法を見せてくれたんだけど、魔力切れってあっという間だったよ。でも、僕はまだ魔力の枯渇どころか減ってる感じもしないんだよね」
「ケケケ、もしかしたら、俺たちはとっくの昔に死んでるのかもな……」
「死神が死ぬとどうなるの?」
「わからねぇ。死神でも死神の死に様を見たことがねぇんだよ。死神以外の神が死ぬところは見たことあるけどな」
「他の神の死に様? どんな神が死んだの?」
「昔の日本にはたくさんの貧乏神がいたんだよ。そいつらは戦後、どんどん死んでったのさ。貧乏神が死ぬと反転して福の神に生まれ変わるのさ」
「貧乏神から福の神に反転か……。それなら、死神も反転するのかもね……」
「よしてくれよ〜。死神の反転なんて怖すぎるぜ」
「神の死に様っていうのは、どうすれば神は死ぬの? あの女神を殺すことも出来るのかい?」
「死神の殺し方はもうわかるよな。ケビンは既に死神を殺せるからよぉ。貧乏神を殺すには、簡単なことさ。取りついてる人や物——家、会社、国が稼げば貧乏神が死ぬ。稼げば稼ぐほど簡単に死んでいく。戦後の日本には、もしかしたら貧乏神は一人もいねぇのかもしれないぞ? 少なくても俺はここ九十年は貧乏神を見てねぇからな」
「それじゃ福の神を殺すには、怠けると死ぬのかい?」
「惜しい! 福の神が取り付くと怠けても寝てても儲かる。豊かになる。だから、怠けても福の神が死ぬことは無い。でもな、福の神は貧乏神よりも簡単に殺せるのさ。感謝を忘れる事。ただそれだけで福の神はアッサリと死ぬ。最近の日本人は感謝を忘れかけてただろ? そろそろ、日本の福の神たちは死ぬんじゃねぇか?」
「なるほどな。上手くできてる。福の神が反転すると、また貧乏神が生まれるのか」
ロビンの話を聞きながら、僕は洗いかけの食器を手に持ったまましばらく考えてたんだよ。
「ヒーラーの力が死神を殺すってのも、ある意味、回復の反転なんだね……。あ、そうそう。雪族は成長すると女は雪女になって、男は雪男になるんだってさ。雪女になると氷魔法の達人になるんだけど、雪男になると物理攻撃しかできないんだってさ。これも、なんか反転に似てるよな」
「ケケケ、今の俺も死神から物理攻撃しか出来ねぇ騎士になったもんな……。なんの因果なのかねぇ〜」
ロビンはそう言って、自分の剣をぼんやりと眺めてたよ。
死神が反転したらどうなるのか。この頃の僕らには想像すら出来なかったんだ。
僕は死神を殺せるインスタント・デスになった。
その意味を知ることになるのは、ずっと、ずっと先のことだったんだ。
【第十五話へ続く】




