【第十二話 人らしく】
領主は街の憲兵とペル伯爵の屋敷に突入することを決めてしまった。今は礼状が来るのを待っている状態だ。その礼状ってのも首都にある最高裁判所から発行されるために、数日も掛かるんだって。つまり、僕には領主より先にペル伯爵に会うことが出来るのさ。
早速、僕は老人ホームに来て例のお婆さんからペル伯爵の屋敷で働いていた元使用人を紹介してもらったんだ。その元使用人に適当な推薦状を書いてもらって、ペル伯爵の屋敷まで来てみたのよ。
推薦状を受け取ったメイドさんが僕とロビンを応接室に案内してくれたんだけど、そう簡単にペルには会わせてもらえなかったわけ。執事みたいなオッサンが応対してくれてね。
「ケビン様は当家にどのような要件でいらしたのですか?」
「率直に言うと僕がクローバー伯爵の娘さんの呪いを解いたんですよ。呪い屋が白状したんで、ペル伯爵の逮捕が近いことをお知らせに来ちゃいました!」
執事のオッサンは冷や汗かきまくりで慌てて応接室から出ていってさ、護衛をたくさん引き連れて戻ってきたんだよ。でも、ロビンが護衛たちをあっという間に斬り伏せてしまったんだよ。
「執事さん、マジでこんな事してる場合じゃないんですよ。ペル伯爵と会わせてくれたら僕らはすぐに帰りますってば」
ロビンの剣技ってこの世界の人が見ても凄いのよ。すぐに勝てないことを理解してさ、ペル伯爵を呼んでくれたのさ。
「ペル伯爵。呪い屋の件はもうバレて礼状待ち状態ですよ? 逮捕されたら、もう会うことも出来なくなるんで、会いに来ちゃいました」
「そうか……。あの呪い屋が口を割るとはな……」
「自殺出来ないってのは絶望しか無いんですよ」
そう言って、ロビンに斬られて瀕死の護衛のオッサン達をリカバリーで治して見せたのさ。瀕死状態の護衛達も驚いてたけど、ペル伯爵も驚いてたね。
「こうやって自殺しても無駄だと呪い屋の身体を使ってわからせました」
「それで?」
「さすがあんな幼い少女でも躊躇いなく殺そうとしただけありますね。クソ度胸が素晴らしい」
周りの護衛たちは完全に戦意喪失している中、ペル伯爵だけは顔色一つ変えずに僕を観察してるんだよ。これは、ロビンに続くもう一人の僕の理解者だと、すぐにわかったんだ。
「このままじゃ、ペルさんは死刑ですよ? 逃げないんですか?」
「逃げるくらいなら最初から領主の娘を殺さんよ」
「まだ、何か策でもあるんですか?」
「無い。向こうが兵士を引き連れて来るなら、こちらはそれ相応の抵抗をするだけだ。と言っても、ここでだらしなくそこの騎士一人にやられた護衛どもは、もうクビにするけどな。なんなら回復なんてしなくても良かったんだがな……」
「なるほど。内乱ですか……」
ほら? ロビンが前に言ってただろ? 昔の日本は常に刀で斬り合ってたってさ。ペルさんの話を聞いて、『あぁ、こんな風に昔の日本も常に衝突を繰り返してたんだなぁ』って理解できたんだよな。このペルさんは婚姻を断られたら、もう領主のことを敵認定しちゃったわけさ。まるで僕を見ているようで、我が振り直そうかとも思ったよ。
「ペルさんは領主になりたいんですか?」
「領主ではない、王を目指しておる!」
「それなら、逃げる訳には行きませんよね……。でも、今回だけは間違いなく捕まります。そして、呪い屋のように処刑されます」
それを言われるとペル伯爵なら怒るかなと思ったんだよ。でも、ペル伯爵は笑ったんだ。
「フフフ、そうだろうな。それもまた運命なのだ」
僕はもうペル伯爵の好きにさせたよ。
僕も日頃から思っていることがあるんだ。自分が死ぬ時はアッサリ受け入れるだろうなってね。これまでたくさん人を殺してきたからさ、色んな人の命乞いも見てきたんだよ。でも、命乞いをして助かった人なんて見た事ないんだ。少なくとも僕は命乞いされても心は動かないもん。殺すと決めたから殺してるわけで、取り繕った命乞いを聞いても迷わない。必ず殺す。
きっとペル伯爵も僕に感性が近いんだ。命乞いが無駄なことも、醜く逃げ惑うことが無駄なことも、ちゃんとわかってるのさ。
僕はもうペル伯爵に言いたいことは言えたし、聞きたいことは聞けたからね。ペル伯爵の家から立ち去ったんだ。その帰り道でロビンが僕に聞いてくんのよ。
「ケビン、奴を助けないのか? お前の数少ない理解者なんだろ?」
「本当は助けようと思って逢いに来たんだけどさ、ペル伯爵は最初から命懸けでモニカ殺害を計画してたんだよ。僕もそうなのさ。今まで一方的に人を殺してるように見えてるだろ? でも、毎回、人を呪わば穴二つだと思って殺してるんだよ。因果応報。僕だけが生き残れるとは思ってないのさ。ペルさんは僕と同じだった。モニカの件がバレた。なら戦う。これはペルさんの既定路線だったんだ。僕が手を出したらダメなのさ。それに、ペルさんが勝つかも知れないだろ?」
「いや、それは無理だな。つい最近まで死神をしてた俺が言うんだからまちがいねぇ。ペルには死相がはっきりと見えてたぜ?」
「うん、それはペルさんが一番わかっていたよ……」
僕はせっかく僕の理解者を見つけることが出来たのに、数日後、呆気なくその人物を失ったのさ。内乱にもならずに、呆気なくね……。
さらに数日後。僕とロビンは雑貨屋に頼んでいた薪を開拓村まで運んだんだよ。
村人に近々、宿場町に家を貰ったから、ここを出ていくと話したんだ。すると、元々、畑仕事を手伝ったことも無かったからね。引き止められることも無く、皆さんからアッサリとお別れを言われましたとさ。
まあ、開拓村からヒキニートが二人もいなくなるからね。むしろ、ありがとうって顔でお別れを言われましたよ……。
あれ? 僕って三人の女の子を助けたよね? 八人の孤児を開拓村まで案内したよね?
働かなかった事でここまで引き止められないもんなんだね。開拓村だもんな。開拓してない僕とロビンは邪魔だったんだろうな。
まあ、良いさ。宿場町ではきちんと働こう。なんか楽な仕事を探そう。老人ホームの爺婆から何か仕事を紹介してもらうのも良いかもな。リカバリー一発で何か仕事を紹介してくれそうだよね。
村の馬車や馬は全て僕の資金から買ったものだからさ、宿場町までの足として馬車一台と馬を使うことに誰も反対はしなかったからね。引越しの荷物も最初からほとんど無いからさ、翌日にはとっとと村を出たよ。
盗賊団から奪った金貨の入った樽もまだ一樽あるし、賞金首の分もあるからね。お金の面はしばらく安泰だよ。ただ、宿場町には銀行が無いんだよ。こんな金貨を自宅に置いておくのは危険だよな。開拓村なら全員が知った顔だったからさ、むき出しのまま金貨を置いておいても誰も盗まなかったし、村にはお金を使う場所も無かったからね。それが宿場町だと、金貨の隠し場所も考えなくちゃならないよな。まあ、床下くらいしか思いつかないんだけどさ。
そんな新生活のことを考えながら、十日間かけて宿場町に到着したんだ。
すぐに市役所で貰った家の名義変更をして税金を支払って、十八歳の若さで一戸建てゲットだよ。日本じゃ考えられないよな。
家の中は残留物がそのまま残ってた。家具や食器が使える状態で残ってたよ。それはありがたく使わせて頂きます。老人ホームのお婆さんもいらないって言ってたからね。
引越しを終えて、数日後。
僕とロビンは老人ホームのお婆さんに会いに来てたんだ。家の名義変更が終わったことと、残留物に対しての対価を支払おうと思ってね。
「お婆さん、これ受け取ってよ」
僕は銀貨が三十枚くらい入った布袋を手渡したら、お婆さんはそれを嬉しそうに受け取ってくれたよ。
「なんかすまないねぇ。あんな残留物なんてタダで良いんだよ?」
「まあ、ほんのお気持ち程度ですよ。そんな事よりも、僕らにも出来るような仕事を紹介してもらえませんか? 割と楽な仕事が良いんですけど……」
「そっちの甲冑の男なら普通に憲兵に応募してみなよ。憲兵なら随時募集してるからね。ケビンは医者にはならないのかい?」
「だって、僕の場合は男しか治せませんし、こんなスタイルでやってても、そのうち女性蔑視だとか怖い団体から目をつけられそうですしね」
「アハハ、そうだね。ケビンの回復魔法じゃトラブルしか起きないわね! 回復魔法以外に特技は無いのかい?」
「料理かな」
「料理だって? それなら、ケビンの家の斜め向かいにある食堂に行ってごらん。あそこのご主人が亡くなってからは奥さんが一人で店を切り盛りしてんだよ。きっと、そこなら料理人を即採用してくれるはずさ」
さすが年の功ってやつだよね。お婆さんはこの街のことならなんでも知ってるんだよ。
僕が食堂へ行くと、本当に即採用されたよ。ロビンも憲兵見習いとして即採用されたんだ。憲兵というか、この街の憲兵は自警団みたいなものなんだって。この国の所属じゃなくて、委託の自警団なんだって。
この世界に来てようやく生活の基盤が出来てきたよ。
ようやく、ここから異世界生活が始まる予感がしたんだ。
色々とわからないことも多いんだけど、僕は日本にいる時よりもこちらの方が何となく好きになってきたんだ。
【第十三話へ続く】




