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【第十一話 Reflect】

 僕とロビンがベッドで横になり寛いでいると、すっかり元気になったお婆さんが訪ねてきたんだ。



「ケビンに頼みたい事があるんだよ」


「僕に頼みってことは回復魔法かい? お婆さん。僕は女性にはあまり回復魔法を使いたくないのは知ってるよね? 相手はどんな人?」



 お婆さんは老人ホームに入るまではこの街の領主のお屋敷で家政婦をしていたんだってさ。そんな領主の屋敷には病弱な娘さんがいて、その子にも回復魔法を施してくれっていうわけさ。まあ、その子は間違いなく処女だから気兼ねなくリカバリー出来るんだって。



「お婆さん、その子の病名は?」


「それが、わからないんだよ……。色んな医者に見てもらってるんだけどねぇ。日に日に弱っていってさ。私が屋敷を去る頃には寝たきりになっちまったんだよ。まだ十四歳の子供なんだよ。ケビンの力で治してやってくれないかい? 報酬は大したものは渡せないけど、死んだ爺さんの残した家をやるよ」


「家? この街にあるのかい?」


「そうさ。老人ホームの近くさ。今は空き家だから、見てくるといいよ」



 僕とロビンは早速、その家を見に行ったんだよ。小さいけど一戸建てでさ、開拓村と比べるとこっちの方が住みやすいのは明らかでしょ? 僕とロビンはそこを気に入ったわけさ。お婆さんの話ではこの国の家の売買には税金が掛かるんだけど、その金額も今の僕には払える額だったからね。



 だもんで、僕はお婆さんの紹介状を持って領主の屋敷に来てみたのよ。



 紹介状を屋敷の使用人に渡したら、すぐに応接室に通されたんだけど、領主が来るまでしばらく待たされたんだ。二杯目の紅茶を飲み干した頃に領主は現れたんだけど、息を切らして来たからね。よほどお婆さんが手紙にオーバーな事を書いたんだと思う。



 領主はクローバー伯爵って言うんだってさ。娘さんはモニカ。六歳くらいからずっと病弱なんだって。出来れば回復魔法の研究のために病名を知りたかったけど、領主も知らないらしいから、とにかく治すしかないよね。ちゃんとお婆さんは手紙に僕の回復魔法がフルMAXだってことも書いておいてくれたみたいで、その事は心配しなくても良いと領主からも了承を得たんで、モニカの部屋で会ってみることになったのよ。



 僕とロビンが部屋に入ると、中学生くらいの金髪縦ロールの美少女が寝たきり状態でいるんだよ。



「こんにちは。僕はヒーラーのケビン。この鎧はロビン。君を治しに来たんだけど、今から回復魔法を掛けても良いかな?」


「またヒーラー? お父様、どうせまたダメに決まってますわ……まあ、回復魔法くらいなら全然いいよ。やってみなさいよ!」



 モニカはヒーラーのことなんて完全に信じていないみたいでさ、祈祷師くらいにしか思ってないのよ。まあ、何年も寝たきりなら仕方ないよな。僕も、うだうだしてんのは性にあわないからさ、とっととリカバリーを唱えたの。もはやリカバリーなんてものは無詠唱だよ。



 すると、やはり、僕のリカバリーは病気でもアッサリと治るんだなぁ、これが。



 モニカも困惑気味に自分で自分の体を確かめるようにベッドに腰掛けたりしてたんだよ。でも、そんなモニカを見ていた僕やロビンや領主は愕然としちゃっててさ。なんというか、本当にヤバいと思ったんだよ。想定外なわけよ。



 僕の口からは目の前の事実をモニカに伝えられないからさ、領主に目で合図したのよ。お前が言えってね。その僕の視線に気づいた領主は、恐る恐るモニカに語りかけたよ。



「モ、モニカ。身体は良くなったのかい? いいかい、モニカ。落ち着いて聞いてくれ」


「お父様! 身体が軽い! 本当に軽いの!」


「うん。それは良かったんだけど、モニカ、あのな……。本当に言い難いんだけど、モニカの髪が……」



 領主が真っ青な顔をしてるからね。モニカも何かを察して鏡を見たわけさ。そしたら、さっきまで見事に美しく縦ロールに巻かれていたご自慢の髪が、サラサラのストレートヘアになってるのよ。



 そりゃそうか。ピアスの穴が塞がるんだもん。無理やり巻いてた髪だって元に戻るわな。



 鏡を見たままモニカはフリーズよ。固まったまま動かないんだよ。泣いたり怒ったりしてくれた方がコチラとしては楽なのよ。フリーズされるとむしろ怖い!



 僕とロビンは役目を終えたので、どさくさ紛れに黙って帰ってきたよね。



「なあ、ロビン。あの縦ロールって仕上げるのに時間かかるのかな?」


「ケケケ、もうケビンが治した女性は必ず何かおかしな副産物が生まれるんだよ。今後は一切の責任を負いませんって契約書にサインを貰った方がいいぜ!」



 この日は一応、老人ホームに寄ってお婆さんには治ったよってだけ報告したよ。お婆さんはそりゃあ喜んでたさ。家の件もすぐに不動産屋に書類を作られるって言ってくれたんだ。まだ縦ロールがストレートヘアになったことをお婆さんだけ知らないからね。




 んで、翌日。



 領主からの呼び出しだよ。まさか、治してやったのに縦ロールをストレートにしただけでクレームか? と思いつつ領主の家に着いたわけよ。そしたら、クレームはクレームなんだけど、別のクレームだったんだ。



「ケビンくん。二度も来てもらってすまない。実は今朝、また娘が寝込んでしまってね……」



 は? 嘘だろ? 僕のリカバリーで治せない病気もあるのかよ! だから病名を知りたかったんだよ。無敵のリカバリーでも無理なものがあるって事を知りたいだろ? クソッ! 何故か敗北感だわ。



 なので領主の頼みでもう一度、リカバリーを施しにモニカの部屋まで来てみたのよ。ちなみにモニカはまだストレートヘアだったよ。良かったよ。縦ロールに仕上げてなくて。二回も縦ロールを打ち消したら、今度はモニカだけじゃなくてモニカのメイクさんからも怒鳴られそうだろ?



 とにかく、確かにモニカの様態は悪そうだ。すぐにリカバリーを唱えたよ。そしたら、昨日と同じようにすぐに元気になったんだ。



「また、身体が軽いですわ!」


「良かった。僕の回復魔法で完治出来なかったのは初めてなので、また明日も具合が悪ければ呼んでください。すぐに駆けつけます」


「もう大丈夫! すっかり良くなったわよ!」



 本当に昨日と全く同じ光景だったんだ。一応、リカバリーを重ねがけしてみたんだよ。リカバリーって怪我や病気に反応するからね、何にも無い場合はスルーっと抵抗なく終わるんだよ。重ねがけしたけど、今度こそ間違いなく完治してたんだ。今後は必ず二回重ねがけすることにしたよ。



 この日もこのまま領主の家を出てさ、ロビンと二人で老人ホームへ報告に来たんだよ。



「お婆さん。モニカの事を詳しく教えてくれ」



 お婆さんはやっぱりかという顔をして語り始めたんだ。



「あの子は妾の子なんだよ。他の兄妹から嫌われてんのさ。でも、アンタも見ただろ? あの子が姉妹の中で一番美人なのさ。だから他の兄妹から嫌われてる。へんな呪いとか受けてるのかも知れないねぇ」


「呪いですか……。それなら、納得です。また明日の朝、同じようなことが起こるようなら、僕とロビンで少しだけ対策を考えます。僕は完治させると誓った相手はどんな手段を用いても必ず完治させますよ」



 そして、翌朝も僕は領主の呼び出しを受けて、応接室で領主に相談を持ちかけてみたんだ。



「モニカは病気じゃなくて呪われてるのかも知れません。犯人を捕まえないとまたやられます」



 領主は身内の犯行かも知れないことを知ると切なそうにしてたよ。でもさ、こんな事はきっと貴族間では良くあることなんだと思うんだよ。それだけに領主はまたかって顔をして切なそうにしてたんだ。



 んで、早速、今朝もモニカの部屋に入ってリカバリーしたんだよ。今朝のモニカもストレートヘアだったよね。きっと、また縦ロールにしてもさ、具合悪くなったらリカバリーされてストレートヘアに戻されるもんな。モニカ自身もまたこうなる事を予見してたって事さ。



「モニカ様、今日はちょっと僕もこの屋敷に泊まりますんで、数時間ごとに診察させてもらいます」



 リカバリーでまた元気になったモニカは、僕とロビンに好きにしろって感じで、使用人にあれこれワガママを言っていたよ。



 僕とロビンは客間を用意されてさ、犯人の犯行現場を抑えるためにパンと牛乳で張り込みごっこをしていたわけさ。



「あんぱんが無いから仕方ないよな」


「ケケケ、今どき刑事ドラマであんぱんと牛乳飲んでるシーンなんて見たことねぇけどな」


「でもさ、例の魔法なんて使い道が無いと思ってたら、こんな所で使う羽目になるなんてね……」


「ケケケ、俺もあの魔法を直接見た事ねぇもんな。本当に呪いに効くかどうかもわからないけど、かなり楽しみだぜ」



 え? 僕とロビンが何の話をしてるのかって?



 実は僕のヒーラーの能力のひとつで、何処で使うのよ? って呪文がいくつかあるのよ。その中でも、何処で使うのよトップ3に入る魔法。



『リフレクト』



 反射する魔法なんだって。ゲームなんかでは割と使えるよね? 僕だってそれを期待してたんだけどさ、これって反射するだけなのよ。



 これって反射するだけなのよ! 大事な事だから二回言ったぞ!



 わかりやすい例が、敵がファイア系の魔法を僕に放つわな。確かに炎は反射する。けど、熱とかは熱いままなのよ。しかも燃え死んだことがある人なら誰でも知ってると思うけど、炎系で死ぬ時ってのは熱いより苦しいのさ。周囲の酸素が燃えちゃうからね。



 良いかい、もう一回言うよ?



 リフレクトは反射しか出来ないのよ。ファイアの熱も酸欠も、現象までは反射できないのさ! ブリザド系も一緒。とにかく攻撃系の魔法には相性が悪い。反射しか出来ないから熱いし寒いし、だからどうした? って魔法なのよ。



 リカバリーが部分的に出来ないとか、反射は反射しかしないとか、何度も言うけどさ、僕は本当にヒーラーじゃないんだよ。インスタント・デスなのさ。死神を殺す者。



 そんな死神を殺す者として、ようやくリフレクトの使い道を見つけたのよ。



 人を呪わば穴二つ。リフレクトは戦闘用の魔法じゃなかったんだね。犯人探しに特化した魔法だったのよ。



 ただ、リフレクトは効果時間がモニカ次第なのさ。モニカは魔法効果が馴染みにくくてね、二時間ごとにリフレクトを重ねがけしなくちゃならないから、こうして領主に頼んでお泊まり会をしてるってわけ。その呪いが遠距離からだと犯人特定も難しいけど、この具合悪くなる症状が犯人にそのまま帰るからね。そこは領主の権限で、急に寝たきりになった人を探してもらえばいいわけさ。



 さあ、そろそろ二時間だからモニカにリフレクトを重ねがけしなくちゃね。



「モニカ様。診察の時間です」



 僕はモニカにまずはリフレクトを重ねがけしたんだよ。



「モニカ様。体調に変化はありませんか?」


「貴方は医者なのにそんな事も聞かなくちゃわからないの?」


「僕は医者では無いので出来れば口頭で教えてもらえませんか?」


「は? 貴方、医者じゃないの? 気持ち悪っ! 誰か! 誰か来てちょうだい!」


「お嬢様、如何なさいましたか?」



 そりゃあ使用人が飛んできたよね。



 領主もちゃんと僕のことを説明してなかったんだろうさ。モニカが僕を変態認定してしまったから、まあ、この後、揉めた揉めた。モニカの部屋の中はもうカオス状態さ。領主も来ちゃうし使用人もワンサカ来たし、懸命に領主がモニカに説明をしているその場に——突然、一人の中年の使用人がぶっ倒れたんだよ。



 それこそ、治療前のモニカのようにグッタリとしてね。



「犯人はこの中にいます!」



 まあ、誰でも一度は言ってみたいセリフだろ? 続いて、これも言ってみたいよな!



「犯人は貴方です! オッサン使用人A!」



 まあ、名前を知らないから仕方ないだろ?



 使用人Aはもはや立ち上がることも喋ることも出来ずに、真っ青な顔でひっくり返ってたよ。領主もモニカも周りの使用人達も何が起こってるのかを全く理解できていないからさ、僕が名探偵のように解説してあげたのさ。



「領主様。この人がモニカ様に呪いを掛けていた術師です! 僕が反射魔法をモニカ様に施していたために、術師本人に呪いが反転しました。取り調べの時には術師を僕が治すんで、早く拘束してください」



 領主はようやく状況を理解して犯人を拘束し地下牢へぶち込んだ後に、犯人にリカバリーで喋れるようにしてあげたんだ。



 犯人には自殺しようとしても無駄だとわからせるために、牢屋の中にロビンが入って剣で犯人の両脚をスパッと切ったのよ。犯人は床に這いつくばって悲鳴をあげていたけど、僕がリカバリーですぐに治しちゃったからね。犯人は自殺する気も失せたみたい。



「使用人A。貴方の動機は?」


「俺はただの呪い屋だ。動機など無い。依頼人は貴族っぽい身なりの男だった」



 領主も詳しく尋問してたよ。僕が聞いても、貴族界隈のネタには着いていけないからね。それで貴族界隈に詳しい領主の尋問の結果、真犯人が誰なのかわかってきたんだよ。



 モニカが妾の子だったとか、兄妹仲が悪いとかは関係なかったんだ。とりあえず、身内の犯行じゃなかった事で領主は安心したみたいだね。



 真犯人は二年前にモニカとの縁談を持ちかけてきていた、四十歳のペル伯爵なんだってさ。



 ん? 二年前? モニカが十二歳の頃の縁談?



 ペルはロリなのか? ロリのくせに拗らせたのか? 怖いよ! ペル伯爵。



 と思ってたら、貴族界隈ではこの位の年の差は当たり前なんだって。ペルは拗らせたわけでもロリに粘着した変態でもなくて、領主の家系に加われなかった事への腹いせらしい。実はペルとモニカは顔を合わせたことも無いんだって。会ったこともないのに呪ったんだって。



 僕以外にも人間失格な奴がいると知って、今度は逆に僕の方がペルに興味が湧いたんだ。もしかしたら、ペルは僕に近しいものがあるのかもしれないね。



 あと、牢屋の中の呪い屋にもめちゃくちゃ興味があったんだけど、コイツは普通に死刑になるんだってさ。勿体ない人材だよね。何とかして擁護してみたけど、領主は呪い屋を憲兵に引き渡しちゃった。見せしめのために磔にされるらしい。遺体も数日間晒されるから、僕の蘇生を使っても傀儡にしかならないんで、スッパリ諦めたよ。



 今は呪い屋を諦めて、領主がペルを裁く前に何としてでも会っておきたい。



 ペル伯爵と僕。どちらがシリアルキラーとしての格が上なのかを、直接会って確かめたい。




【第十二話へ続く】




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