表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第8話:弟

 

 あの実験から半年が経って、俺も5歳を迎えた。

 ちなみに、この世界では、誕生日を祝う文化はない。だから5歳といってもなにかがあるわけではない。

 それと、生まれた日ではなく、「教会に洗礼をしに行った日」がこの世界での「誕生日」らしい。

 とはいっても、洗礼って生後 一 〜 三週間後とかで行われるから、誕生日と大きく日がずれるわけじゃない。

 誕生日でも祝いがないのは、中世だし、当たり前ではある。食べるだけでやっとのこの世界で子供の誕生日を祝えるほどの余裕は貴族にだってあるかないかギリギリだろう。

 思い出してほしい。たとえこの世界で王子に生まれても、その生活の質は、日本の最貧困層よりも劣悪なのだ。そう思うと、地球世界で読んだファンタジーは殆どの作品が本当にファンタジーだ。あんな明るい中世は、現実にはどこにも存在しないのだ。自分は転生するという珍しい人生になったわけだけど、肝心な世界は厳しい現実ばかりとは、運があるのかないのか...。トホホ。


 でも、父ルイスが言うには、結婚する時は盛大に祝うらしい。

 結婚こそ真に大人になったことの証であり、家族や村総出で祝うのが慣習なのだ。

 果たして29歳までDTだった俺に()()()は来るのだろうか?


 嫌なことに話が脱線したから、本題に戻ろう。

 家では俺が5歳になったことより、母エリスの妊娠の話でもちきりだ。そろそろ生まれるらしい。

 たしかに、エリスのスリムな体形はすっかり妊婦らしい体つきになっている。自分も姉マリーもエリスの代わりに家事の手伝いをしている。

 そう、だから、今俺は、庭で洗濯物を洗っている。唯一の救いは水魔法で大気中の水分を水として抽出したり、物質創生で水を作れるから、水の持ち運びをしなくていいことだ。

 ルイスは村に唯一居る助産師に話を付けたらしく、いつでもその人に連絡できるように家にいる。ちなみに、家にいる時は、ずっと名前を考えているらしく、貴重な紙にいろんな名前を書いていた。正直紙を使って実験の記録を書きたいから「そんなことに使うくらいなら、実験記録用に少し頂戴」って言いたい気分だよ。まあ、言っても絶対もらえないって分かってるからいいけどさ。名前は数日悩んだ末に、男の子ならパーカー、女の子ならハリスにするらしい。

 それと、最近は家事が終わると「外で遊んで来い」と追い出されるようになった。五歳児が家の中を走り回ったり、庭で魔法の練習なんかして、もしエリスにぶつかって何かあったら困る、という話なのだろう。おかげで最近は、家から少し離れた空き地で好き勝手やっている。

 まず一つ目が、ロボット人形だ。

 あれから、半年。自分の腕も上達して、前世の玩具基準で見ても、かなり出来がいいと思う。色がないのが唯一の問題だけど、足と腕と首が動く力作だ。いろんなタイプを空き地で作っていたら、村の子供に見つかって、彼らも虜になったようだ。ガキ大将っぽいやつも、一発で夢中になった。

 この世界の子供向けの物語といえば、せいぜい勇者が魔族エドワードを倒す話だとかの昔話くらいしかない。かっこいい玩具なんてものは、ほとんど存在しない。そんな中で、手足や首が動く人形なんてあれば、欲しがるに決まっている。

 一番この人形にハマって、人形作りを手伝っているのは、アルベルトっていう子供だ。俺より誕生日的には年上だけど、前世の経験がある自分からすれば子供だ。

 え?お前も人形作って遊んでるだろって?うるさいな。

 この世界には〇ーチューブなんて存在しない地獄なんだから、ロボット人形の1つでもないと気が狂うよ。ルイスなんて村の大人たちとトランプのゲームで賭け事をしてるし、人形を作って遊ぶのは、マシな遊びである。

 アルベルトも土魔法を使えるので人形作りでは助かっている。魔力量は俺より少ないけど、土人形を作るのに魔力消費の高い物質創造は使う必要は殆どない。土と水を混ぜてさらに少量粘土っぽくなるようにすれば、あとは形を整えるだけで大切なのは形を整える点であって魔力量ではないのだ。

 もっとも、関節パーツだけは、設計を考えなくちゃいけなかったから、魔力量でも形を作る上手さでもない別ベクトルの能力を要求された。あれはめんどうだった。

 だから正直、これ以上この人形開発に労力を割きたくはない。新しい形やデザインの違いで遊ぶのはいいとして、基礎パーツはできるだけ流用したいところだ。関節まわりはどの人形でも共通だし、そこを統一しておけば、各自で好きに付け替えて遊べる。

 そのうちアルベルトが新パーツでも考えてくれれば理想的だ。というか実際作り始めてるし。

 アルベルトは、俺以上にやる気があるからな。

 以前もあんなことことが ――


「パウル、次は前に話してた、剣も持たせようぜ!」

「良いアイディアだけど、関節パーツが重さに耐えられないんじゃないか?あと手の形もな」

「むむ..。中を空洞にして極力軽い剣にしよう。ちょっと待っててな。

 ...ほら!大分軽くできたぞ。」

「見せて。あ~、確かに軽いから、剣を持たせられてるけど..。」


(触ってみると人形が崩れる)


「ちょっと(もろ)すぎるな。ま、粘土の比率を変えて軽くて硬い土を生成できれば、解決だな。」


 そんなことを言ってたら、一週間ぐらいあいつ粘土の生成に執着して本当に軽いのを作ってくれた。ということで、剣とか盾もこのロボット土人形には装着可能だ。

 ま、たとえ、今後アルベルトが飽きて開発しなくても、この人形は村の男の子全員が持っている超人気玩具なのだ。水魔法によって水を作ってあげるお小遣い集め以外の二番目の収入源として素晴らしい。

 収入が二つになったおかげで、鉄を買えるだけのお金も数か月前には溜まって、そこそこの量買った。ついでに数枚分の紙とペンも買ったから、これで記録ができる。

 街道が近くにあるからなのか鉄の流通はそこそこ多いらしく、結構な量だった。俺が作った銅の重りで計測したところ、全部で5.7kgもあった。これだけあれば、色んなものを鋳造して作れる。重りそのものは銅で足りていたので、俺が本当に欲しかったのは別のものだ。

 真空にできて、しかも開閉も可能な鉄器。

 銅の重りや定規や紙を保管するための容器として使うために作った。それと真空を必要とする実験のためだ。

 土の容器だとどうしても汚れるし、密閉もしづらい上に、真空化させる時、稀にヒビができるのだ。

 だったら金属で作った方が早いだろう?

 それと、表面にはスズを使った。

 鉄のままだと酸化が面倒だし、もし将来的に肉や野菜を入れることを考えるなら、内側は多少なりとも安定していた方がいい。

 問題は、そのスズがこの世界で何と呼ばれているのか分からなかったことだ。そもそも一般に流通しているかどうかも怪しい。仕方がないので、少量ずつ物質創造で作り出すのを何日か続けた。半年前より魔力量も増えていたおかげで、最終的には50グラムほど確保できた。これを表面に薄く使えば、当面はどうにかなる。

 ...まあ、実際に缶詰として使うなら、いきなり人間に食わせるのは怖い。

 まずは豚か何かに食べさせて、異常が出ないか確認してからだな。

 この真空化できる容器は作成できた。これで、今まで庭にあった不格好な土の容器は不要になった。持ち運びもできるから便利だ。2kgあるから、子供の体には重いのが唯一の問題だ。

 まだ、3.5kgも残ってるし、何作ろうかなぁ。今のところ予定はない。盗まれないように注意だな。レーザー魔法を使えるようになった俺から物を盗むなんてことをする命知らずが村にいるとは思えないが。


 今日やりたいのは別の実験で鉄がまだ余ってるし、いよいよ物体の加速度のj ―― と思ったら、魔力感知で、ルイスの魔力が、家から飛び出して全力で移動し始めたのを感知した。今までの訓練では見たことない全力疾走だ。

 そうそう、魔法の練習をする中で、魔力感知の範囲も急拡大している。今では、約半径600mぐらいの大気中の魔素を感知できる。といっても、感じるのは魔素の乱雑な集まりだから、魔力量が普通の人の何倍もある父とかじゃないと、存在してるかどうかすら探知できない。

 それに、人の形としても認識できず魔力の塊としてしか感知できないから、大人のお姉さんのお風呂シーンを覗き見れるわけじゃないのだ。なんて妙に不便な...って、魔力感知の話はどうでもいい。


 ルイスの移動速度から考えて、非常事態だ。

 つまり、出産が近い。

 もうルイスの魔力は感知範囲の外へと消えていった。向かった先は助産師の家の方角だ。

 なら、今日の実験は中止だな。

 さすがに、こんな日に物体の加速度がどうこうなどと言っている場合ではないだろう。

 アルベルトには悪いので、一応声をかけておく。


「悪い、アルベルト。どうもママの出産が近いらしい。今日は帰る」


「ママ」と呼んで一瞬恥ずかしいと思ったこともあるが、考えてみると5歳児なら全然許されそうだと思っている。

 ...やっぱり恥ずかしいから、少し年齢が経ったら「母さん」と呼ぼう。うん。


「え、そうなのか? 今日は新しい実験やるって言ってなかったか?」


 アルベルトは少し残念そうな顔をしている。


「ああ。でも今日やらなかったら死ぬわけじゃないしな。また明日」


 とにかく時間がないし、今日は諦めよう。


「おう、また明日な!」


 アルベルトも流石に今日は無理だと理解したのか元気よく言った。


 アルベルトと別れて家まで歩いていると、反対側からルイスが助産師のおばさんを背負って走って戻ってきているのが、遠目にも見えた。

 確かにあの助産師のおばさんに歩いてきてもらうより、ルイスが担いで走った方が遥かに速いだろう。なにしろ、明らかに馬並みかそれ以上の速度で走ってる。何の魔法だろう?

 少なくとも基礎魔法である水火風土霧のどれでもないな。これが終わったら聞いてみよう。

 走ってくるルイスのために家のフェンスを開け、ついでに玄関の扉も開ける。


「あ、パウル!帰ってきたのね!ちょうどいいわ。お水沸かしてるんだけど、私ママの方で忙しいから、やっておいて!沸いたら言うのよ!じゃ。」


 家の扉を開けた途端、部屋から顔を出したマリーが怒涛の勢いでまくしたてる。そして、その向こうからは、エリスの苦しそうな声が聞こえる。

 仕方がない。やかんの火加減を見守るとしよう。

 そう思って家に入ると、ルイスも助産師の人を担いで到着した。助産師のおばさんは、若干青い顔をしている。おんぶとはいえ、あの速度でボコボコの砂利道を移動したらちょっと酔うよね。


 そのあとは、助産師の人が慌てふためいていたマリーの代わりにテキパキとやってくれた。

 お湯を渡すときに部屋の中をちらっと見ると、ルイスはエリスの隣でそわそわしていた。頼もしくない方のルイスである。助産師を迎えに行っている最中はちょっと格好よかったのに。

 そのあとも何度かお湯を沸かすお湯の番を続けていると、やがて赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

 もうお湯はいいかな、と一瞬思ったが、助産師のおばさんのめちゃくちゃ怖い声を思い出して、ちゃんと「もういい」と言われるまで台所で待機することにした。火の元を見張るのは大事だしな。

 そう、この意志の弱さ。異世界転生しても、結局のところ自分は気弱な日本人なのだ。


 エリスは無事に子を産んだらしい。部屋の中の雰囲気からして、エリスも大丈夫そうだ。昔の出産は母親にとっても命がけだと聞くから、少し不安だったのだが、どうやら杞憂で済んだようである。よかった、よかった。


「パウル! もうお湯の番はいいから、こっち来なよ!」


 マリーに呼ばれ、俺は火を消して部屋へ向かった。

 そこには、自分が転生したときのように、エリスに抱かれた赤ん坊がいた。正直、ぱっと見では男か女か分からない。難しいが...たぶん男、かな?髪も殆ど生えてないから、赤ちゃんって性別を見分けるの難しいと思うのは自分だけなのだろうか。


「パウル、ほら見てみろ!弟のパーカーだぞ」


 ルイスがそういって、俺を引っ張る。顔を近くで見ると、なるほど、少しルイスに似ている気がする。もっともしわくちゃな顔なので、断言はしにくいが。

 弟のパーカーは母の腕の中で泣いていたが、しばらくすると落ち着いた。


「パウルも、抱っこしてみる? お兄ちゃんとして」


 エリスは、疲れてはいるが晴れやかな笑みを浮かべて言った。


「え...大丈夫ですかね。僕、落としそうなんですけど」


 子供なんて抱いたことがない。落としたら嫌だなあ、と思ってしまう。どこまでもリスク回避寄りの日本人である。


「何言ってんだパウル。さっきマリーも抱っこしたし、ベッドの上なら大丈夫さ。ほら、お兄ちゃんだぞ、パーカー」


 ルイスに促されて、エリスからこの小さい命を渡される。

 小さい。5歳の自分も小さいけど、この存在はもっと小さい。これが命なのだ。大きい頭と小さい手足。少しだけど愛らしさもある。

 なんて油断したら、一瞬で泣きだした。すぐにエリスが抱き直す。やっぱり経験者は違う。

 もしかすると、今泣いたのも、パーカーが実は綺麗な母親以外には抱かれたくない異世界転生者だからっていう可能性もあるけどね。


 今のところ、そういう兆候はまったくない。魔族エドワードの話以外に、転生者の存在を感じるようなものも見たことがないし、転生そのものの確率がかなり低いのだろう。たぶん違うと思う。


 ...まあ、しばらくは観察してみるか。

 日本語か英語に反応したら、その時点で確定だしな。それ以外の国の人間だったら、諦めかも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ